方舟

方舟』とは

 

本書『方舟』は、2022年9月に304頁のソフトカバーで講談社から刊行された長編の推理小説です。

2023年本屋大賞第七位など各種ミステリー賞にランクインしている人気作品で、普通に面白く読んだ作品でした。

 

方舟』の簡単なあらすじ

 

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。生贄には、その犯人がなるべきだ。-犯人以外の全員が、そう思った。(「BOOK」データベースより)

 

方舟』の感想

 

本書『方舟』は、各種ミステリー賞の候補になった作品で、いわゆる本格派の推理小説に分類できる推理小説です。

これまで幾度か書いてきたのですが、個人的にはいわゆる本格派と呼ばれる推理小説をあまり好むものではありません。

それは、犯罪動機に重きを置く社会派の推理小説に比して、やはり本格派の推理小説はどうしてもその舞台設定に無理があると感じてしまうからです。

解くべき謎を作出するために状況が設定されているため、不自然さがぬぐえないのです。

加えて、登場人物の書き込みが今一つとも感じ、それが登場人物たちへの感情移入ができにくい原因とも思えます。

 

本書の場合もそのことは言え、外部との連絡が取れない状況下で、特定の場所に閉じ込められた中で殺人が起きるというお決まりの設定なのです。

そのための舞台設定として山奥の特殊な地下施設がもうけられており、状況作出のためには予想外の地震という状況が用意されています。

 

本書の視点の主は越野柊一という男であり、探偵役はそれとは別に越野の従兄の篠田翔太郎が同行しています。

他に絲山隆平麻衣の夫婦、高津花西村裕哉野内さやかといった越野柊一の大学時代の友人たちです。

それに、この一行に途中から合流することになった矢崎幸太郎弘子の夫婦とその息子の高校一年生矢崎隼斗という十名です。

これらの仲間で目的の地下施設で一夜を過ごすことになったものの、明け方に発生した地震のためにこの地下施設から脱出できなくなります。

脱出のためには誰かが犠牲になって出口をふさいでいる岩を動かす必要がありました。

その上、その地下施設に地下水まで侵入してきて、生きて脱出するまでのタイムリミットが設定されるという事態になるのです。

以上のような状況の中で殺人が起きるのですが、この事件の犯人探しは、この地下施設からの脱出のための犠牲者探しという意義をも持っている点がユニークです。

 

このように、本書がこれまでのクローズドサークルものの本格派推理小説と異なるのは、閉じ込められた建物からの限られた時間内での脱出というサスペンス要素まで取り入れられていることでしょう。

そのため、これまでの本格派の推理小説よりは身を入れて読むことができたように思えます。

その上、本来はこの点が重要なのですが、読了時にはそれなりの驚きをもって読み終えることができたという、意外性に満ちた展開が待っているのです。

この点はあまり声高に言うとネタバレに近い話になるので何とも微妙なところです。

結局、登場人物たちが不自然な施設に閉じ込められるという状況自体は素直には受け入れることはできませんが、その先の展開は面白く読んだ作品でした。

 

ちなみに、本書に関しては有栖川有栖氏、影山徹氏による、ネタバレ公式サイトが用意してあります。

ただ、このサイトには犯人名、犯人の最後の台詞をユーザー名、パスワードとしてローマ字で入力することが要求されますのでご注意ください。