火天の城 [映画版]

直木賞作家・山本兼一の歴史小説を西田敏行主演で映画化。甲斐の武田勢を破った織田信長は翌1576年、その天下統一事業を象徴するかのごとき巨城を、琵琶湖を臨む安土の地に建築することを決意。信長に見込まれた宮大工・岡部又右衛門が築城に挑む。(「キネマ旬報社」データベースより)

少々問題ありの映画でした。

私の好きな西田敏行という役者さんが主演ということで、かなり期待してみたのがいけなかったのかもしれません。

西田氏演じる宮大工の棟梁岡部又右衛門が巨木を探しに木曽へ行くのですが、ここだけでも笹野高史の木曾義昌や、緒形直人の杣人の長などの配役は頂けませんでした。場面は違いますが、河本準一の羽柴秀吉などはいくら端役でもひどすぎます。

それよりも、又右衛門の娘凛(福田沙希)と市造(石田卓也)のラブストーリーは何だったのでしょう。それに途中の疑問点もあるのですが、ラストのアクション場面での熊蔵(山本太郎)の唐突としか言えない裏切り(?)など、何を考えているのか全く分からない場面が多すぎます。

原作を読んでいないのでどこまでが忠実に映画化されているのか不明ですが、少なくともこの映画を見る限りは原作を読もうという気には全くなれませんでした。

命もいらず名もいらず

本書『命もいらず名もいらず』は、文庫本で上下二巻の合わせて1100頁近くにもなる長編の時代小説です。

その長さにもかかわらず最後まで無理をせずにそれなりに面白く読み通したのですが、人間山岡鉄舟としては今一つの印象でした。

 

飛騨郡代をつとめた旗本の家に育った少年は、のちに勝海舟と並んで幕末の三舟に数えられた最後のサムライ、山岡鉄舟その人である。幼きころより剣、禅、書の修行に励み、おのれを鍛え抜いた。長じて江戸に戻って千葉周作の道場に通い、山岡静山に槍を学ぶ。清河八郎らと知り合い、尊皇攘夷の嵐の真っ直中にあった。世情に惑わされることなく、どこまでも真っ直ぐに生きた英傑の生涯を描く歴史大作。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

最後の将軍・徳川慶喜の意向を受けて官軍の陣を決死の覚悟で突破。西郷隆盛と談判し、江戸無血開城への素地をつくった。そして無私の人となりを見込まれ、侍従として明治天皇の教育係に任じられた。自らは地位や名誉や金銭を求めず、他人には思いやりをもって接し、雄々しく清々しく動乱の時代を生きぬいた山岡鉄舟。その志高き人生を通じ、現代日本人に生きることの意味を問いかける傑作歴史小説。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

今まであまりその人柄を知るところが無かった山岡鉄舟という人について書かれた小説は始めて読みました。

豪傑であり、江戸城開城の影の役者ということは子母澤寛の『勝海舟』( 新潮文庫 全六巻 )にも記されていたとは思います。

しかし、ここまで踏み込んで書かれたものは始めてであり、面白く読みました。

 

 

幕府旗本の家に生まれた少年は剣の才能を認められ、新陰流や北辰一刀流、更に高橋泥舟の実兄山岡静山に槍をも学びます。

静山の死後、山岡家に婿養子として入り、山岡姓を名乗ることとなったそうです。その後、清河八郎らと共に新徴組に入りますが直ぐに江戸に帰ることになります。

官軍の江戸侵攻時、勝海舟の江戸城の無血開城のお膳立てのため、単騎で官軍の只中を西郷隆盛に会いに行き話を纏めるくくだりなどは、とても実話だとは思えない豪胆な話です。

晩年は明治天皇の側近としておられたことなど全く知らないことばかりで、その新鮮な情報には驚かされました。

 

ただ小説としては、全体的に、特に幕末篇はエピソードの羅列の感じが否めず、人物の豪傑らしさをあらわす事柄は書き込まれていても、幕末の動乱の中で山岡鉄舟が頭角を現していく、その過程の描写が少々ものたりなく感じたのも事実です。

しかし、一般的にはとても評価が高い本のようなので、こうした感想は私個人だけなのでしょう。いずれにしろ面白い小説であることには違いはありません。