世界でいちばん透きとおった物語

世界でいちばん透きとおった物語』とは

 

本書『世界でいちばん透きとおった物語』は、2023年4月に240頁の文庫として新潮文庫から刊行された長編の推理小説です。

とある作家が書いたとされる原稿をめぐる謎をメインにした物語で、そのアイデアも含めてかなり惹き込まれて読んだ作品でした。

 

世界でいちばん透きとおった物語』の簡単なあらすじ

 

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしい。何か知らないか」宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだがー。予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。(「BOOK」データベースより)

 

世界でいちばん透きとおった物語』の感想

 

本書『世界でいちばん透きとおった物語』は、私がこれまで読んだどんなミステリーとも異なるアイデアで構成された作品です。

読み終えたとき、単純に、問題となっている原稿にまつわるいくつかの謎が解き明かされていく様子と共に伏線が回収されていくさまを楽しんだものです。

それは、推理小説のストーリーを楽しむ私のような読者でも感心するほどのものでした。

 

しかし、本当の衝撃はそのあと、何段階かに分れて訪れてきました。

最後の頁での、主人公の父親が選んだであろうと同じ一語、の意味が分かったときの驚き、次いで本書の内容を思い起こしてみたときに思い付いた京極夏彦と同様の版面の作り方に対する驚愕、その後もしかしてと試してみたときの衝撃は言葉にできませんでした。

「電子書籍化絶対不可能」や「ネタバレ厳禁」というこの本の過剰とも思える惹句は、読み終えてみると不思議なほどに納得してしまいます。

それほどに本書の仕掛けは秀逸であり、貼られた伏線の回収作業も腑に落ちるものでした。

 

ここで京極夏彦という人は、私は一度はその『姑獲鳥の夏』という作品を手に取ったものの、その作品世界になじめず途中で投げ出してしまった作家さんです。

 

 

この人の自分の作品に対するこだわりの強さは他の追随を許さない、という話は聞いたことがあったのですが、本書で書かれている内容はまたそれを裏付けるものでした。

その点について知りたい人は下記サイトを参照ください。

 

本書『世界でいちばん透きとおった物語』は推理小説としても普通によくできた作品だと思います。

本妻ではない母親のもと父親としての記憶は全くないままに、実の父である大御所ミステリ作家の宮内彰吾が亡くなり、ただ、宮内の長男と名乗る男から宮内の最後の原稿があるらしいので調べてほしいとの連絡だけが舞い込みます。

母親も数年前に亡くなっているため、主人公の藤阪燈真はなんの手掛かりもないままに父親の遺稿である筈の原稿を探し始めるのです。

こうして本書は、燈真の父親である宮内は本当に原稿を残したのか、残したとしてその原稿はどこにあるのか、またその原稿の内容はどんなものなのか、という様々な謎を追及していくことになります。

この物語は、単純にそのままの作品として読んでも面白い推理小説として満足しながら読み終えたことでしょう。

 

ところが、その上に先に述べたような仕掛けが施されているのですから、作者の努力、というか苦労は半端なものではなかったと思われ、作品の評価は上がるばかりです。

作家の努力ということに関しては、本書の中でも京極夏彦という作家の頁レイアウトなどに対するこだわりの強さについてなどに言及されています。

作家という人種の能力にはその豊富なイマジネーションなどには毎度驚かされているのですが、そうした頁のレイアウトにまでこだわっているとは考えたこともありませんでした。

 

こうした作家の努力に関し、編集者の戸川安宣氏が本書について書かれている一文には、竹本健司の『涙香迷宮』という作品が挙げられていました( Book Bang:参照 )。

この作品は「いろは歌」をテーマに書かれた作品で、そこで示されている膨大な数の「いろは歌」には驚かされたものです。

 

 

さらに、本書『世界でいちばん透きとおった物語』の最後に書かれていた献辞で示されていた「A先生」については、多くのサイトで泡坂妻夫だとの指摘があり、そこで示されていた『しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』も読んでみました。

たしかにこの作品の仕掛けは驚きだったのですが、本書の仕掛けはそれ以上のものだと言えると思います。

本当はこの作品を紹介するだけでもネタバレになるのかもしれませんが、この作品も驚きをもって読んだことに間違いはないので、紹介だけはしておきたいと思います。

 

 

本書についてはその驚きについてどれだけ言葉を費やしても言い表すことができるとは思えません。

ただ、一度読んでみてほしいというだけです。