オルタネート

本書『オルタネート』は、新刊書で380頁の長さの、三人の高校生の生活を中心にした長編の青春小説です。

第42回吉川英治文学新人賞を受賞し、第164回直木賞と2021年本屋大賞の候補作にもなった、読みがいのある作品です。

 

オルタネート』の簡単なあらすじ

 

高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、若者たちの運命が、鮮やかに加速していく。全国配信の料理コンテストで巻き起こった“悲劇”の後遺症に思い悩む蓉。母との軋轢により、“絶対真実の愛”を求め続ける「オルタネート」信奉者の凪津。高校を中退し、“亡霊の街”から逃れるように、音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志。恋とは、友情とは、家族とは。そして、人と“繋がる”とは何か。デジタルな世界と未分化な感情が織りなす物語の果てに、三人を待ち受ける未来とは一体―。“あの頃”の煌めき、そして新たな旅立ちを端正かつエモーショナルな筆致で紡ぐ、新時代の青春小説。(「BOOK」データベースより)

 

円明学園高校の三年生で調理部の部長になったの新見蓉(にいみいるる)は、新入部員を前に、今年も「ワンポーション」へ出場すること、そのときのペアの相手は部員の中から選ぶことを伝えていた。

一方、同高校の1年生である伴凪津(ばんなづ)はマッチング機能を特徴とする高校生限定のSNSアプリを使いこなし、最高の交際相手を見つけようとしていた。

また、大阪の高校を中退した楤丘尚志(たらおかなおし)は、高校入学前に転校していった安辺豊を探して円明学園高校まで来ていた。ドラムを担当している尚志は、豊のギターを忘れられず、一緒にバンドをやろうというが、豊はもうギターはやめたと言うのだった。

 

オルタネート』の感想

 

円明学園高校三年生の新見蓉、同じ高校一年生の伴凪津、大阪の高校を中退している楤丘尚志の三人の視点を交互に借りて物語は進みます。

本書『オルタネート』で中心になるのは「オルタネート」というSNSアプリです。

高校生たちはこのアプリケーションを使って連絡を取り合い、マッチング機能を使って付き合う相手を見つけようととしているのです。

本書を読んで、まずはあまりに自分らの高校時代とは異なる高校生活に驚きました。勿論それは「オルタネート」のようなアプリケーション、いやそれ以前のスマートフォンの存在をも含んでのことです。

 

本書『オルタネート』で描かれている高校生活自体は、「オルタネート」というアプリは架空のものだとしても、スマートフォンを当然のごとく生活の一部としている事実など、現実とそうかけ離れているものではないでしょう。

そこで描かれている生活は、アプリを通した男女の交際のあり方もそうですが、それ自体がかなりスマートです。

自分がグラウンドで泥だらけになる毎日を送っていたこともありますが、時代の差や都会と田舎の違いを差し引いても、その違いは歴然としています。

でも、そうした表面的な違いを除けば、高校生生活自体にそれほど違いはない、とも思えます。

スポーツでも何でも必死に打ち込む姿があり、また異性を意識し、求める姿に変わりはないのです。

 

本書『オルタネート』を読んで驚いたことは、作者加藤シゲアキという作家の文章が素直で、具体的で緻密な知識に裏付けられているというその事実です。

参考文献には料理に関する本を始めとする様々の文献が挙げられていますが、かなり読み込んで自分のものとしなければ本書のような文章は書けないと思われます。

ですが、本書で描かれている料理や音楽に関する場面やSNSアプリの構造など実によく考えられ、また表現してあります。

そうした事実に驚くこと自体が、一つにはアイドルが片手間に書いた作品だという先入観がどうしても抜けないことがあるのでしょう。

そしてまた、テレビに出てアイドルとして暮らしている人間に人を感動させるような文章が書ける筈がないという偏見があったに違いないのです。

そんな偏見はとんでもないことであり、文章のテクニックの巧緻などは私には分かりませんが、この人の文章を読んで受ける高校生たちの心象の描き方は作家以外の何物でもありませんでした。

 

そうした作者に関することとは別に、本書『オルタネート』を読み始めたとき、本書に対する印象は決して良いものではありませんでした。

八章まで読んだ時点では、自分たちの高校時代との差異の大きさについていけない状態での読書であり、また物語全体の流れがとりとめもなく感じられていたからです。

それは、短い項ごとに頻繁に視点が入れ代わるためか物語の流れが細切れに感じられ、さらには登場人物に現実感が感じられずに物語が素直に頭に入ってこなかったからだと思います。

そう感じたときに、本書の章分けがかなり細かくなっている意図が分からなくなりました。

 

作者としては、登場人物三人それぞれの視点を早めに切り替えることで物語のテンポを上げる意図があったのかもしれませんが、少なくとも私にとってはテンポよくは感じなかったのです。

しかし、本書『オルタネート』も中ほどになり、尚志の仲間のマコさんがホルンを吹く場面あたりでは、妙に惹き込まれていました。

その後、女子高校生との出会いの場面では文章までも軽やかに感じ、本書に対する印象が少しだけ変わりました。

そのままの印象で十四章に入り、高校生たちの恋愛ドラマが始まり、その後も本書に対する印象はどんどん上向きになるばかりです。

 

もちろん、高校生の会話としてなんとも不自然に感じる文章もありました。

例えば、伴凪津とその友達の志於李との会話で、彼氏との付き合いが新鮮味に欠けてきたと言う志於李に対し、「対象に変化を求めて、安定を打破する要求はどんどん強くなって、・・・」と畳みかけます。

二人の仲が安定していることはいいことではないかというのです。志於李の家庭に問題があり、そのことを念頭に出てきた言葉なのですが、女子高生でなくてもこのような言い回しでの会話はしないでしょう。

他にも、いかにも考えて書かれた文章であり、友達との会話の中では出てこないだろう表現がありました。

こうした指摘は、もしかしたら「ためにする」批判かとも思えます。そこらは言っている自分自身もよく分かりません。

 

しかし、そうした個人的な細かな疑問点はどうでもよく、前述のように本書はよく調べられています。

本書『オルタネート』も後半のクライマックスに向かうにつれて、三人の物語はそれぞれに盛り上がりを見せますが、特に新見蓉の料理の大会である「ワンポーション」での料理の場面は圧巻です。

作者の加藤シゲアキ自身が料理が好きなのだと思わせられるほどに料理に関し、よく調べられています。

実際に料理が好きなのだとしても、料理を全くしない私には分からないのですが、本書で書かれている料理の内容は多分かなり専門的だと思われます。

料理の専門家に聞かなければ本書のような文章は書けないと思われるのです。それほどに詳しく、またその表現力が見事であり、読者の関心を一気に惹きつけ、読ませます。

 

こうして、冒頭では自分の高校時代との落差を感じ、本書『オルタネート』の物語に違和感を感じていたのに、後半にはスポーツ小説にも似た高揚感が感じられ、ついには惹き込まれていました。

恩田陸の「著者と読者が、この先、何度も立ち返る里程標のような作品になるだろう」という言葉が本書の帯に書いてありましたが、まさにそのような作品としてあると思われます。

素晴らしい青春小説でした。