火花

お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。(「BOOK」データベースより)

お笑いコンビ「ピース」の又吉が書いた、芥川賞受賞した小説です。第28回三島由紀夫賞候補にもなったものの残念ながら受賞には至りませんでしたが、第153回芥川賞を受賞し、ブームが更に加熱しました。

この物語は主人公の徳永の心象のみで成立していると言えなくもない物語です。主人公の徳永はスパークスという漫才師の片割れですが、スパークスの相方は少ししか出てきません。本書での徳永の相手は徳永の先輩漫才師である神谷という男です。

この神谷と徳永の二人の会話が中心です。徳永は神谷の「笑い」を天才的だと感じ弟子になろうとし、その神谷は徳永に自分の伝記を書けと命じます。徳永はその言葉通りに神谷のつぶさを感じ取ろうとします。

神谷を笑いの「神」であり天才だとあがめる徳永は、お笑い芸人の典型なのかもしれませんね。常に「笑い」を追い求める芸人は、自分の感性に合う「笑い」を見つけるとそこに心酔するのは当然でしょう。そしてのめりこむのです。

常に「笑い」のことを考えている徳永はそのうちに神谷の中に普通の「人間」を見出します。そのうちにスパークスの人気が出始めますが、神谷は相変わらずです。そうした頃、徳永は神谷の新しい女の部屋でテレビでやっているスパークのネタ番組を見ますが、全く笑わない神谷と喧嘩をし、分かれます。

普段エンタメ小説ばかり読んでいると、たまにこの本のように人間の内面を深く追求する作品に出会うと、つい戸惑ってしまいます。

普段読んでいるエンターテインメント小説と言われる作品の中にも、人間存在に迫る作品もあり、またそうでなくても登場人物の心理描写がうまくて思わず引き込まれてしまい、考えさせられる作品もあるのです。直木賞を受賞した東山彰良の『流』などその最たるもので、両賞の境界はどこにあるのか、あらためて考えてしまったものです。

でも、本書のように正面から人間の存在を、それも「笑い」というフィルターを通しての人間というものを問いかけてくると、若干引いている自分がいるのも事実です。ま、やはり私には気楽に読めるエンタメ小説のほうがあっているようです。