ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編 SISTER編


ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』とは

 

本書『ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』は、両書共に2023年9月に256頁のソフトカバーで小学館から刊行された長編の推理小説です。

 

ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』の簡単なあらすじ

 

史上初! ひとつの事件にふたつの真実

古き良き商店街で起きた不穏な事件。探偵役は四兄弟と三姉妹、事件と手がかりは同じなのに展開する推理は全く違う!? 〈Sister編〉との「両面読み」がおすすめです!
ぎんなみ商店街近くに住む元太・福太・学太・良太の兄弟。母は早くに亡くなり父は海外赴任中だ。ある日、馴染みの商店に車が突っ込む事故が起きる。運転手は衝撃で焼き鳥の串が喉に刺さり即死した。事故の目撃者は末っ子で小学生の良太。だが福太と学太は良太の証言に違和感を覚えた。弟は何かを隠している? 二人は調査に乗り出すことに(第一話「桜幽霊とシェパーズ・パイ」)。
中学校で手作りの楽器が壊される事件が発生。現場には墨汁がぶちまけられ焼き鳥の串が「井」の字に置かれていた。学太の所属する書道部に犯人がいるのではと疑われ、兄弟は真実を探るべく聞き込みに回る(第二話「宝石泥棒と幸福の王子」)。
商店街主催の「ミステリーグルメツアー」に随行し、長男で料理人の元太は家を空けている。学太が偶然脅迫状らしきものの断片を見つけたことから、元太が誘拐事件にかかわっている可能性が浮上。台風のなか兄の足跡を追う福太たちに、ある人物が迫る!(第三話「親子喧嘩と注文の多い料理店」)(内容紹介(出版社より))

新・読書体験。驚愕のパラレルミステリー!

古き良き商店街で起きた不穏な事件。探偵役は三姉妹と四兄弟、事件と手がかりは同じなのに展開する推理は全く違う!? 〈Brother編〉との「両面読み」がおすすめです!
ぎんなみ商店街に店を構える焼き鳥店「串真佐」の三姉妹、佐々美、都久音、桃。ある日、近所の商店に車が突っ込む事故が発生した。運転手は衝撃で焼き鳥の串が喉に刺さり即死。詮索好きの友人を止めるため、都久音は捜査に乗り出す。まずは事故現場で目撃された謎の人物を捜すことに。(第一話「だから都久音は嘘をつかない」)
交通事故に隠された謎を解いた三姉妹に捜査の依頼が。地元の中学校で起きた器物損壊事件の犯人を捜してほしいというものだ。現場には墨汁がぶちまけられ、焼き鳥の串が「井」の字に置かれていた。これは犯人を示すメッセージなのか、それとも……?(第二話「だから都久音は押し付けない」)
「ミステリーグルメツアーに行く」と言って出掛けた佐々美が行方不明に!? すわ誘拐、と慌てる都久音は偶然作りかけの脅迫状を見つけてしまう。台風のなか、姉の足跡を追う二人に、商店街のドンこと神山が迫るーー。(第三話「だから都久音は心配しない」)(内容紹介(出版社より))

 

ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』の感想

 

本『ぎんなみ商店街の事件簿』の『BROTHER編』と『SISTER編』という作品は、発生した同じ事件を両編それぞれに異なる探偵役が調査し、結果的として内容の異なる二つの真実を見つけるという独特な構成のミステリー小説です。

つまりは本書『ぎんなみ商店街の事件簿』は、『BROTHER編』『SISTER編』という二冊の姉妹編を読み終えて初めて作品としての評価ができるような物語だと言えます。

私は『ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』を最初に読んだのですが、ぎんなみ商店街で起きるいろいろな事件の謎を、料理人の元太を長男とする福太学太良太という四兄弟が探偵役として解決する物語として、単品だけでも面白い作品でした。

同じことは姉妹編の『SISTER編』についても言え、ただ探偵役が内山家の佐々美都久音という三姉妹に代わっている点が異なるだけです。

 

両書で起きる事件は「ぎんなみ商店街で起きた交通事故」、「中学校で手作り楽器が壊された事件」、「発見された脅迫状から推測される誘拐らしき事件」の三件であって、普通の推理小説で起きる殺人事件などではありません。

そして、両方の作品で起きる事件は同じものですが、ただそれぞれの作品において起きた事実の持つ意味が異なってくるのであり、見つけるべき真実も異なっています。

客観的な事実は同じでありながら、関わる当事者ごとに見るべき視点をずらし、取り上げる事実も異なることでその先にあり発見されるべき真実も異なるものになります。

 

両方を読み終えてみると、確かに起きる事件は一つです。

その上で各事件の背後には登場人物の家族や友人関係があり、それぞれの関係性が複雑に絡んでいて、それらを背景にした真相がきちんと構築されていいるのです。

そうした構成、つまり『BROTHER編』と『SISTER編』とで起きる事実を同じくしながら矛盾なく意味を持たせる、という作業がどれほど困難さは素人でも分かります。

ここでの二冊はそうした困難な作業を乗り越えて、両編それぞれで破綻することなく評価の高いミステリーとして仕上げてあるのです。

 

登場人物たち、それぞれの兄弟姉妹の個性はうまく書き分けられており、軽いユーモアも散りばめられていて読みやすく、それなりに読み通すことがきついなどということはありません。

兄弟姉妹の仲の良さは読んでいても心地よく、当然ですが商店街の各店の登場人物も共通でありながら問題解決に同じような役割を果たしている点もまた読みやすい構成です。

それぞれの兄弟姉妹の抱える問題もユーモラスな面もあり、小暮家、内山家の家族の内情も面白く描かれていて好感が持てます。

さらには、小暮家、内山家が互いに相手の担当する巻に少しずつ登場してそれなりの役割を果たしたりと両編の繋がりにも配慮を見せてあります。

 

しかしながら、綜合的にみると個人的には決して好みの作品とは言えませんでした。

上記のようなうまい作りを見せてありながら、違和感を感じ感情移入できないのは何故かというと、探偵役となる両家の兄弟姉妹のうちの一人が中心的な存在となっていて最終的なひらめきを見せていること、頭脳役の担当はその弟なり妹なりが控えていること、などの構造が同じだということでしょう。

でも、違和感の正体はそうしたことに加え、なによりも両編での小暮家兄弟、内山家姉妹が物語の中から浮いて見えるという点にあると思います。

個人的に、この町でミステリーの探偵役として動き回る両兄弟姉妹に不自然さを感じてしまったようで、こればかりは個人的な好みの問題なのでどうしようもないことだと思われます。

この点を除けば非常に考えられた面白い作品だと言え、一読する価値はあると思わる作品でした。

アリアドネの声

アリアドネの声』とは

 

本書『アリアドネの声』は、2023年6月に304頁のソフトカバーで幻冬舎から刊行された、王様のブランチのランキングでも紹介された長編のサスペンス小説です。

緊急災害救助の様子を描いたサスペンス小説ですが、救助対象が三重苦の女性であり、救助方法もドローンを使用するというこれまでにない視点の作品で、惹き込まれて読みました。

 

アリアドネの声』の簡単なあらすじ

 

事故で、救えるはずだった兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから災害救助用ドローンを扱うベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)として活動する中川博美だったー。崩落と浸水で救助隊の進入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。無音の闇を彷徨う要救助者の女性と、過去に囚われた青年。二人の暗闇に光は射すのかー。(「BOOK」データベースより)

 

アリアドネの声』の感想

 

本書『アリアドネの声』は、一人の要救助者を制限時間が迫りくるなか、いかにして助け出すかというサスペンス感満載の作品です。

そして、その救助対象者や事故現場環境などに合わせた救助活動がユニークであり、かなり惹き込まれて読んだ作品です。

 

そのユニークさとは、第一に救助を必要とする人物が「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱えた人物とされていることです。

第二に、要救助者が現在いる場所が、「WANOKUNI」という障がい者支援都市の地下都市だということです。

この地下都市が地震のために壊滅状態になったなか、要救助者は「WANOKUNI」の地下五階に取り残されてしまったのです。

そして第三に、彼女を救助するための手段として選ばれたのがドローンだということです。

崩落した「WANOKUNI」内部に救助隊が入ることも難しく、要救助者本人が歩いて地下三階にあるシェルターまで誘導するしかないのです。

ここに、助けられる者は三重障害を負った人物であり、救助手段はドローンという現代最先端の技術の粋を生かした機械だという設定ができています。

 

本書の魅力についてさらに言えば、作者は上記の仕掛けによりもたらされるサスペンス感に加えて、三重の障害を負っている救助対象者の中川博美が、もしかしたら三重の障害はないのではないか、という疑惑を用意しています。

この疑惑を抱えての救助作業であり、その救助作業の中で感じる違和感がミステリアスな印象をもたらしてくれているのです。

 

上記のような見どころに加え、本書では物語が展開していくなかでさらに細かな仕掛けが追加されていくことで一段と面白さが増しています。

「WANOKUNI」という建物の設定は、火災や電気、ガス、各種の機械などの障害物の存在が設定でき、物語の緊迫感はいやがうえにも増すことになります。

また、救済手段のドローンはその実際を知らない人がほとんどだと思うのですが、本書ではその関心をある程度満たしてくれます。

つまりはお仕事小説的にトリビア的なドローンに関する情報をもたらしてくれる作品でもあるのです。

 

登場人物は、救助チームとしては、主人公の高木春生が一等無人航空機操縦士の有資格者として直接ドローンを操縦するメインパイロットとなり、高木が勤める株式会社「タラリア」の先輩我聞庸一が情報分析などのサポートを担当しています。

そして、高木が教えるドローン教室の受講生でもある消防士長の火野誠がサブパイロットとカメラなどの周辺機器操作担当し、火野の直属の上司でWANOKUNI出張所の副所長でもある長井禎治消防司令が作戦全体を指揮しています。 

さらに、進捗報告およびその他の雑務係を消防士の佐伯茉莉が担当しています。

そして、「見えない、聞こえない、話せない」の三重苦を乗り越えた令和のヘレン・ケラーと呼ばれる三十路半ばの中川博美が要救助者であり、彼女の通訳兼介助者の女性が伝田志穂です。

そのほかに、高木の高校の同級生で失声症の妹を持つ韮沢粟緒や、迷惑系のユーチューバーが登場してきています。

 

本書のような限定状況からの脱出といえば、私らの年代では、小説ではなく映画で思い出す作品があります。それは、ジーン・ハックマンが主演していた「ポセイドン・アドベンチャー」という作品です。

転覆した豪華客船ポセイドンから脱出しようとする客たちとそれを率いる神父さんの姿が描かれたパニック作品の名作です。

 

 

何といっても、本書の特徴はギリシャ神話から来ている「何か困難な状況に陥った際、解決の道しるべとなるもの」を意味する「アリアドネ」というタイトルが意味する、道しるべとなるドローンの存在にあります。

このドローンは「光学ズームカメラ」や「赤外線サーモグラフィー」などの高性能で多種多様なセンサーシステムを搭載した、災害救助用ドローンの中でも特に遭難者の発見に注力した機体なのです。

この機体を高木一人ではなく、救助チーム全員が力を合わせて駆使し、様々な困難を乗り越えていく姿は読みごたえがあります。

 

若干のミステリー要素も加わり、サスペンス感に満ちた本作品はその読みやすさもあって面白く読んだ作品でした。