沈黙のエクリプス

皆既日蝕に騒然とするニューヨークで、滑走路上に突然、活動停止したジャンボ機に残された、乗員乗客の死体と巨大な棺。バイオテロかアウトブレイクか?CDC(疾病対策センター)は疫学者イーフリアムをリーダーとする特別チームを招集し、原因究明にあたるが…。アカデミー賞受賞監督デル・トロが、その奔放なアイディアを注ぎ込んだ究極のエンターテインメント・シリーズ、ここに開幕。「BOOK」データベースより)(上)
沈黙したジャンボ機の四人の生存者は事件の記憶を失っていたものの、たちまち快復する。だが、自宅に戻った彼らに異変が起こり、イーフリアムらの懸命の努力もむなしく、禍々しい悪疫が街を襲う。ルーマニア生まれの老質店主、セトラキアン教授は、若き日の恐怖の体験とその後の生涯をかけた研究の内容をイーフリアムに告げ、協力を要請するが…。全米ベストセラーの傑作ノンストップ・サスペンス。「BOOK」データベースより)(下)

本書は、映画監督として高名なギレルモ・デル・トロと、チャック・ホーガンというアメリカの気鋭のサスペンス作家の共著です。当初は『ザ・ストレイン』というタイトルでしたが、邦訳されるときに『沈黙のエクリプス』と改題されたものです。

ギレルモ・デル・トロについては「作者の頁」を見て頂くとして、チャック・ホーガンは『強盗こそ、われらが宿命(さだめ)』という作品でハメット賞を受賞したアメリカの気鋭のサスペンス作家で、この作品はベン・アフレック主演で『ザ・タウン』として映画化されたそうです。

本書はギレルモ・デル・トロのテレビシリーズの企画として進められていたものが頓挫し、紆余曲折のすえに企画が進む元になり、チャック・ホーガンの力を借りて小説として発表されたものだそうです。その後テレビシリーズ化され、「ストレイン 沈黙のエクリプス(シーズン1)」としてDVDも出されています。

本書のストーリーは「BOOK」データベースのあらすじの紹介を見ても分かるように、運び込まれた謎の棺があって、同時に原因不明の奇病が蔓延し、死者が復活するという、モダンホラーの筋書きそのものとも言えます。

即ち、乗客全員の死亡、そしてゾンビとしての復活、ヨーロッパから秘密裏に運ばれてきた棺桶、その中にいた吸血鬼のマスター。そのマスターに対抗する存在としてのルーマニア生まれの老質店主セトラキアンと、舞台設定はそのまま吸血鬼ものです。ゴシックホラーの代名詞である『吸血鬼ドラキュラ』が現代風に蘇ったというところでしょうか。勿論、ストーリーが面白ければそれでいいので、それ以外何も言うことはありません。

しかしながら、その面白さという点で難点がありました。冗長なのです。私が読んだソフトカバー版は頁数が574頁もあったのですが、何人かの死者が蘇る様子を描写するだけで本書の半分ほどもかかるのです。物語として具体的な展開を見せてくるのは本書の四分の一くらいを過ぎたあたりからでしょうか。

本来、本書は映像化を前提としていた作品であり、DVDの一巻を見たところでは、映像自体の面白さもあって冗長な感じはありませんでした。しかし、活字として読むには間延び感がすごいのです。全体で三部作ということなので、今後の展開は面白さを増してくるとは思えるのですが、少なくとも小説としての本書は今一つとしか言いようがありませんでした。

本書を読むとこれまで読んだいろいろな作品が思い浮かびました。まず、冒頭の飛行機内の全員が死亡した場面は、小説ではネルソン・デミルの『王者のゲーム』もそうでしたし、映像では『FRINGE/フリンジ』がそうでした。

ネルソン・デミルという作家には『誓約』『将軍の娘』などの名作がありますが、『王者のゲーム』も第一級のサスペンス小説で、その面白さは文句のつけようがありません。重厚で読み応えのある小説を読みたいときはネルソン・デミルの冒険小説ははずれ無しと言えます。

『FRINGE/フリンジ』のほうはパラレルワールドをテーマにしたSF仕立てのミステリードラマで、こちらも見ごたえがありました。私は第三シーズンまでしか見ていないので、どうも半端な感じがしてなりません。いつか最後まで見たいものです。

本書のようなゾンビ・吸血鬼ものとしてはスティーブン・キングの『呪われた町』をはずすことはできません。ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』の系譜を継ぐ吸血鬼ものとしては数多くの作品がありますが、何と言ってもキングの『呪われた町』を超えるものはないと思っています。

ともあれ、本書『沈黙のエクリプス』は小説としては諸手を挙げておすすめとは言えませんが、モダンホラーが好きな人にはたまらない小説かもしれません。やはり、ギレルモ・デル・トロという名前は大きい、そう感じさせられた作品でした。