深夜プラス1

G・ライアル著の『深夜プラス1』は、冒険小説の古典的名作として誰しもが認める、長編のハードボイルド小説です。

もう四十年近くも前に内藤陳というコメディアンが、絶対に面白い、と言っていたので読んでみた本です。

それが1970年代だと思っていたのだけれど、彼が設立した「日本冒険小説協会」が1991年に設立されているところからすると1990年代に入ってから読んだのでしょうか。いや、1990年代にはなってはいなった筈です。

今読んでもやはり面白い。

腕利きドライバーのケインが受けた仕事は、ごくシンプルな依頼だった。大西洋岸からフランスとスイスを車で縦断し、一人の男をリヒテンシュタインまで送り届けるのだ。だが行く手には、男を追うフランス警察、そして謎の敵が放った名うてのガンマンたちが立ちはだかる。次々と迫る困難を切り抜けて、タイムリミットまでに目的地へ到着できるか?プロフェッショナルたちの意地と矜持を描いた名作冒険小説が最新訳で登場。(「BOOK」データベースより)

 

物語はフランス西岸のブルターニュからスイスとオーストリアの中間にあるリヒテンシュタインという小さな国まで、マガンハルトという実業家を運ぶだけのことです。

一行は主人公の「カントン」ことルイス・ケインマガンハルトと秘書のヘレン・ジャーマン、それに凄腕のガンマンであるハーヴェイ・ロヴェルの四人です。

問題はマガンハルトは婦女暴行の疑いでフランス警察に追われており、更には彼の事業に絡む事柄から正体不明の敵からも狙われているということであり、もう一点はヨーロッパでもベスト3の腕を持つと言われるハーヴェイ・ロヴェルがアル中だということです。

 

解説の田中光二氏が、本書『深夜プラス1』が人気があるのは「登場人物象の実在感」にある、と書いています。この文言は、人気の冒険ミステリ小説全般に言える事柄として書かれているのですが、本書にももちろん該当します。

第二次世界大戦中のイギリスの諜報員であり、フランスレジスタンスと共同して工作を行っていたという過去を持つ主人公のルイス・ケインや、人としての優しさ故に殺人の重圧からの逃避として酒を飲んでしまうハーヴェイ・ロヴェルなど、実に魅力的です。

共に自分の生き方に矜持を持つ男であり、ハードボイルドとしての魅力をも持っている本書です。

 

初対面時のルイス・ケインがハーヴェイ・ロヴェルの銃を手に取った時の二人のやり取りなど、普通の会話の中にプロだからこその台詞や、行動が描写されているなど、小さな事柄の積み重ねが物語の厚みを作りだしています。

更には、ルイス・ケインとハーヴェイ・ロヴェルとのモーゼル銃についての会話に見られるように、銃や車についてのうんちくも随所に出てきます。

こうした事柄は本書『深夜プラス1』だけではなく、面白いと言われる冒険小説はどれも備えている事柄ではありますが、本書の全編を貫くアクションに深みを添えているようです。

 

久しぶりに読みましたが、やはり面白い小説でした。

当時、この本を読んだ後にこのギャビン・ライアルという作家が書いた『ちがった空』などを始めとする数冊を読んでいるのですが、『マキシム少佐の指揮』だったかを読んで少々違和感を感じてから遠ざかったと記憶しています。

何が合わなかったのでしょう。近いうちにまた読んでみたいものです。