高見 広春

高見広春という作家は2015年1月現在、「バトル・ロワイアル」一冊しか出版していないようです。

この「バトル・ロワイアル」という作品は第5回日本ホラー小説大賞の最終候補として残ったものの、中学生のクラスメイト同士が殺し合う、というその内容から撰者に拒否され、選に漏れたそうです。

何より、深作欣二監督の手で映画化されたのをきっかけに国会でも取り上げられるほどの社会的関心を集めました。

高野 和明

各作品がよく調べられていて、その取材力の上に剛腕とでもいうべき筆力が加わり、圧倒的な迫力で文章が進んでいきます。

また、各作品の色合いが夫々全く異なります。各作品で、作者の異なる顔が見られます。

ただ、少々選ばれるテーマが重い。死刑制度であったり、自殺や人工妊娠中絶であったり、それらの重いテーマをまた正面から四つに組んで描こうとされるので、読み手としては半端な気持ちでは読めません。

勿論、そうしたことは無視して単純にエンターテインメントとして読み進めればいいのでしょうが、そうした読み方もできない構成になっていたり、と、ちょっと読み手を選ぶかもしれません。

でも、「13階段」で第47回江戸川乱歩賞を受賞し、ジェノサイドは「このミステリーがすごい!」の一位になり、山田風太郎賞も受賞しています。

面白い小説の書き手であることは間違いないでしょう。お勧めです。

高田 郁

高田郁』のプロフィール

 

小説家。兵庫県出身。1993年、漫画原作者・川富士立夏としてデビュー。08年、小説家デビュー。『あきない世傳 金と銀』シリーズ、『みをつくし料理帖』シリーズ、『銀二貫』などを手掛ける。引用元:ORICON NEWS

 

高田郁』について

 

「久しぶりに良質の人情物に出会った。宇江佐真理の『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』を読んだときのような気がする。」と、『みをつくし料理帖シリーズ』の第一作『八朔の雪』を読んだ当時のメモに書いていました。

 

 

高田郁の作品は宇江佐真理作品に比べ更に印象が優しい気がします。

これは読みやすいということでもあるのでしょうが、逆に短所なのかもしれません。読後感が宇江佐真理作品に比べて若干軽い気がするのです。

これは主人公が料理人である娘だから、ということではなく、作者の個性の差なのでしょうか、それとも筆力の差なのでしょうか。

 

作品は市井に生きる人々の生活を描く山本一力の書くそれにも似ています。

しかし、山本一力の文章は力強くきちんと構築されているのに対し、高田郁の文章はどちらかというと宇江佐真理の文体に近く、人を見つめる目が優しいと感じられます。

このことは現代小説についても同様で、やはり、作者の視点はかわりません。

 

あたたかな人情話を好む人には特にお勧めの作家ではないでしょうか。この人の作品は、今のところはずれはありません。

高木 彬光

小説家という人たちは司馬遼太郎松本清張と言った大御所を例に挙げるまでも無く、実に勉強家で、一つの作品を仕上げるために膨大な資料を読み、勉強をしていると聞きます。中でもこの高木彬光という作家は法律方面の知識は弁護士をもしのぐと言われており、その知識を生かした作品を多数発表されています。

経済問題にも強く、「白昼の死角」は手形犯罪の教科書とも言える本だし、正木弁護士が丸正事件に関連して名誉既存で訴えられた事件では、刑事訴訟法の知識を生かし特別弁護人として実際の法廷に立ったこともあるそうです。

文章は読み易いのですが、作者が真面目な人なのでしょう、個人的にはもう少し遊びがあってもいいのではないかと思った記憶があります。

さすがにどれも30年以上も前の作品なので舞台は少々古いかもしれませんが、その点さえ分かって読めば今でも十分に面白い作品だと思います。

何故かこの頃この作家の名前を見ない。松本清張横溝正史という名前はそこそこ聞くのだけれど、何故だろう。高木彬光という人には面白い作品がたくさんあるのに。

鈴木 英治

「面白い小説」の条件のひとつに主人公のキャラクター造形があると思うのですが、この人はこれがうまい。

鈴木英治初期の作品である「義元謀殺」を読んだときは少々読みにくい作家だと思っていました。何故かと考えましたが、解説を読んで納得しました。登場人物に平等に光が当てられており、メリハリがつけにくかったようなのです。

しかし、今は文章にリズムがありとても楽に読み進めることができます。

鈴木英治の文章の特徴は、その独白に近い地の文にある思うのですが、その独特の地の文とせりふ回しが小気味よく、調子がいいのです。とにかく軽くてなお且つ面白い読み物を求めている人には丁度いい作品だと思います。

ただ、この特徴である独白の使い方が目障りな人には初期作品を除けば皆同じ作風なので当然ながら向きませんね。

 また、最近の時代小説ブームの中での文庫本での書き下ろし小説は、大半がシリーズを通して大きな謎または事件があり、並行して一冊ごとに読み切りとしても読める構成になっています。しかし、この鈴木英治作品は殆どのシリーズが一冊完結ではなくそのまま次の巻に話が続きます。その点が今のテンポの速い構成に慣れた人にはもどかしいかもしれません。

その点さえ気にしなければ面白く読めると思います。

杉本 章子

杉本章子という作家さんは、幕末から明治初期の日本を舞台にした作品が多いように見受けられます。第100回直木賞を受賞した「東京新大橋雨中図」もそうですし、2011年に出版された「東京影同心」もそうです。

また、時代背景の描写が上手いのでしょう、幕末から明治期の町の雰囲気が伝わってきます。侍(為政者)目線ではなく、一般庶民の目で見た東京の町の印象の方が強いでしょうか。そんな町で生きる庶民の会話がまた生きて感じます。福岡出身の筈なのに上手いものだと感心してしまいます。当たり前と言えば当たり前ですが、作家という人はプロとして語り口まで勉強するものなのでしょう。しかし、一般的な知識と違い、語り口は慣れしかないと思うのですが。

少し調べてみると、杉本章子という作家の時代考証の確かさを指摘しているレビューを多く見かけます。先に書いたこの人の文章の印象も。こうした考証の裏付けがあって生きているのでしょう。

あまり普段耳にすることのない歴史上の実在の人物を取り上げている点も、特徴の一つとして挙げて良いかもしれません。「東京新大橋雨中図」は最後の浮世絵師と呼ばれた小林清親の物語ですし、「東京影同心」に出てくる「中外新聞」も実際に存在したものです。他にも多数あります。

以上のような考証の確かさは物語の背景を強固なものとしているのですが、文章は非常に読みやすく、テンポよく読み進むことが出来ます。詩情豊かにと言うと誤りかもしれませんが、それでも正確な情景描写は落ち着いて読み進むことが出来ます。

面白いです。



突然ですが、杉本章子さんが2015年12月4日に乳がんのために亡くなられました。62歳ということですが、私よりも若い。あまりにも早すぎます。
杉本章子さん死去 福岡市在住の直木賞作家 西日本新聞より)

つい先日(11月7日)、宇江座真理さんが同じく乳がんで亡くなられたばかりでした。情感に満ちた時代小説の書き手がまた一人いなくなり、寂しいばかりです。

御冥福をお祈りいたします。

城山 三郎

私にとって経済小説といえば城山三郎です。

ダイエーの創業者中内功がモデルと言われる「価格破壊」を読んだのが最初だったのですが、当初は全くのノンフィクションだと思って読んでいたので、モデルがいると、それも当時一番勢いのあったダイエーの創業の物語だと知り驚いたものです。

その後、まだ社会に出たてだった私は、経済官僚を描いた「官僚たちの夏」や、世界の片すみで一人苦労している商社海外駐在員を描いた「真昼のワンマンオフィス」などを読むにつけ、現実の社会の仕組みの少しだけ触れた気がしていました。

「官僚たちの夏」は先般NHKでドラマ化もされたのでご存知の方も多いかと思います。

この城山三郎という作家はこのほかにも渋沢栄一を描いた「雄気堂々」や広田弘毅の生涯を描いた「落日燃ゆ」などの作品もあります。

また、NHK大河ドラマの原作でもある、呂宋助左衛門を描いた「黄金の日日」などの時代小説も著しています。

このように色々なジャンルの小説を書いてはいるのですが、結局はどの作品も経済小説に帰着するといって良いと思います。

そして、どの作品も物語として面白い作品です。

朱川 湊人

この作家の作品は「かたみ歌」の他に「銀河に口笛」も読んでいるのだけれど、なぜか「銀河に口笛」に関しては殆どその内容を思い出せません。

ちょっとストーリーを見てみると確かに読んだ記憶があり、そういえばと思いだすのですが、そこまでです。とにかく「かたみ歌」の印象ははっきりと残っているのに不思議です。

この作家はいわゆるホラー作家なのですが、ノスタルジーを感じさせる内容になっているようで、「かたみ歌」はまさにその典型と言って良いのかもしれません。

雫井 脩介

とにかく読んでいて文章のリズムが良いのでしょう。どの作品も一気に読ませてくれます。

物語自体の意外性はそれほどないけど、文章のリズムが良いので全体がテンポ良く読める、と思っていました。でも、改めて考えてみると、特に結末については予想していたのではなく、文章のリズムに乗って読んでいるので、あたかもその結末を自分が予想していたかのように思ってしまったようです。そのくらい、自然な流れで物語が進んでいるのでしょう。

犯人に告ぐ」のようなサスペンス色豊かな物語、「クローズド・ノート」のようなロマンチックな物語、「つばさものがたり」のような家族の物語と、この作家は作品ごとに異なる一面を見せてくれます。

重松 清

未だ三作品しか読んでいないので重松清という作家について語るには早すぎるようです。でもユーモアを交えたその語り口はとても心地良く、読みやすい作家さんのようです。ただ、『空より高く』のように今一つ乗り切れない作品もありますが、多分本質は『エイジ』にあるのではないでしょうか。

「現代の家族を描くことを大きなテーマと」する作家さんだそうで、『エイジ』は確かにそうなのですが、他の二冊は若干ニュアンスが異なるように感じました。ということは、私はまだこの作家さんの本質的な作品を未だ読んでいないということなのでしょう。

まずは受賞作品などから始めてみようかと思います。

受賞歴

  • 1999年 『ナイフ』 坪田譲治文学賞受賞。
  • 1999年 『エイジ』 山本周五郎賞受賞。
  • 2000年 『ビタミンF』 直木賞受賞。
  • 2006年 『その日のまえに』 本屋大賞第5位。
  • 2008年 『カシオペアの丘で』 本屋大賞第10位。
  • 2010年 『十字架』 吉川英治文学賞受賞。