『水車小屋のネネ』とは
本書『水車小屋のネネ』は、2023年3月に毎日新聞出版から496頁のソフトカバーで刊行された長編小説です。
1981年からの十年ごとの一組の姉妹の人生を全五章で描いてあり、2024年本屋大賞第2位となった作品です。
『水車小屋のネネ』の簡単なあらすじ
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2024年「本屋大賞」第2位!●第59回「谷崎潤一郎賞」受賞!
●「第4回 みんなのつぶやき文学賞」国内編 第1位!
●「本の雑誌」が選ぶ2023年上半期ベスト 第1位!
●「キノベス!2024」第3位!
—————“誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ”
18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉
ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生ーー助け合い支え合う人々の40年を描く長編小説
毎日新聞夕刊で話題となった連載小説、待望の書籍化!(内容紹介(出版社より))
『水車小屋のネネ』の感想
本書『水車小屋のネネ』は、十八歳の理佐と八歳の律という一組の姉妹の人生を描いただけの作品ですが、それでも惹き込まれて読んだ作品でした。
姉妹の暮らしはその出だしこそドラマチックなものでしたが、その後は取り立てて大きな事件が起きることもない毎日であり、極論すれば平凡な日常だとも言えます。
ただ一点、姉の理佐が勤めた蕎麦屋には水車小屋があり、そこにいたのがネネという名がつけられた一羽のヨウムという種類の鳥でした。
理佐が勤めた蕎麦屋では自前の水車小屋で挽いた蕎麦粉を使っていたのですが、その蕎麦粉を挽く作業を見守り作業の区切りを知らせる役目を担っていたのがネネだったのです。
このネネは、インコ科の鳥類であり人語などを真似ることを得意としていて、時には会話として成立しているのではないかというほどの返事をします。
このネネが、蕎麦屋の主人夫婦や理佐姉妹などの登場人物の人生の節目にいつもそばにいて彼らの生活を見守っているのです。
私は初めて聞いたのですが、「ヨウム」とは「オウム目インコ科の鳥類で、アフリカ西海岸の森林地帯に分布する大型インコ」だということです( ウィキペディア : 参照 )。
この蕎麦屋の主人が守さんであり、妻の浪子さんと共に先代から続く蕎麦屋を守っていたのです。
その夫婦がまだ幼い律を連れた理佐を雇い、蕎麦屋の手伝いと別棟の水車小屋にいるネネの世話や蕎麦粉を引く作業を担当してもらうことになったのでした。
この町に落ち着いた理佐姉妹は律の小学校の担任の藤沢先生や、同級生の寛実ちゃんとその父親の榊原さん、それに老齢の画家である杉子さんなどに見守られながら暮らしていくのです。
その後、とある事件で知り合った中学生の研司や、発電所の掃除の仕事について蕎麦屋にも食事に来る鮫渕聡などが登場してきます。
前述したように、本書『水車小屋のネネ』は全五章からなっていますが、その章ごとに十年が経過しており、理佐や律の二人及び二人を取り巻く人々の様子、そしてその変化が描かれています。
第一章では、理佐の大学進学用のお金を彼氏の会社資金に流用してしまったり、その彼から理不尽な扱いを受ける律をかばおうともしない母親のもとから独立する理佐姉妹の姿から始まります。
その後、理佐姉妹はネネのいる水車小屋の持ち主である蕎麦屋夫婦のもとで暮らし始め、以降の二人やその周りの人々の姿が描かれていくのです。
このように、本書では全巻を通してそれほど大きな事件は起きませんが、日常に起きる様々な困りごとなどを周囲の人々に助けられながら生きていく理佐姉妹の姿があります。
その日常の暮らしのリズムの中にネネとの会話があり、その会話でほのぼのとした雰囲気が醸し出されていきます。
同時に、ネネの周りでは「赤い鳥」から「レッド・ホット・チリペッパーズ」「ニルヴァーナ」、またバッハやリストなどのクラシック作品まで私の知らない音楽が流されています。
そして、その時間はユーモアも交えてあって、物語の息抜き的な時間としてあると同時にリズムを整えているように思えます。
このネネの存在がこの作品の中にどれだけ大きな存在であるか、是非実際に本書を読んでいただきたいと思うのです。
本書『水車小屋のネネ』は本屋大賞の二位という高い評価を受けた作品であり、五百頁弱の長い作品ですが、それだけのものはある作品でした。