東京輪舞

田中角栄邸の警備をしていた警察官・砂田修作は、公安へと異動し、数々の事件と関わっていく―圧倒的スケールで激動の時代の暗闘を炙り出す。

 

昭和・平成の重大事件の陰で動いた公安警察員を主人公とする長編の警察小説です。

 

本書は月村了衛のこれまでの作品と比べると地味です。月村了衛という作家のこれまでの傾向からして、アクション重視の警察小説との思いは見事に裏切られました。

それは一つには、本書が国家を守るための情報を得るために協力者を育成し、そして情報を収集するという外事警察を描いた作品であることに由来するのでしょう。

しかし、それも作者の処理の仕方一つであり、例えば同じ公安警察官を主人公とする麻生幾の小説である『ZERO』は、かなり派手なアクション小説として仕上がっています。

 

 

つまりは、アクションではなく、現代歴史の隠された裏面史を淡々を描き出すこと自体がこの作品の意図だったのだろうと思われます。

そこには、著者自身が「本作『東京輪舞』は、小説家としての我が仕事における第二期の出発点である。」というように、小説としての成り立ちがこれまでの作品とはまるで異なり、作者の冷静な眼を感じるのです。

 

これまで歴史小説と言えば時代小説でしたが、それでも現代史を背景にした小説はそれなりに存在しています。

例えば、山崎豊子の『不毛地帯』は、本書にも登場する伊藤忠商事の元会長瀬島龍三をモデルとした作品と言われ、ロッキード事件の背景などが描かれていました。この作家は同様の作品が多いですね。

 

 

また、160回直木賞受賞を受賞した真藤順丈の『宝島』は、沖縄の戦後史を描いた小説であり、現実に起きた事件を絡めながら物語は進んでいきます。

 

 

しかしながら、これらの作品は歴史小説と言うよりは現実に起きた事件を題材にした小説と言うべきであり、そこでは「歴史」は背景にしか過ぎないと思います。

 

本書の場合そうではなく、昭和・平成の実在の歴史の隙間を小説家としての感性を通した解釈を加えて新たなストーリーを構築していて、そういう点でかなり異なると思うのです。

事実、読み始めてしばらくはこのタッチに慣れず、またテーマへの関心の度合いもあって、少々退屈気味な感じもありました。しかし、いつの間にか、本当に気付けば本書にどっぷりと惹き込まれていた自分がいました。

 

主人公は、若い頃に田中角栄の自宅の警備で暴漢を逮捕し骨折をした際、角栄本人から入院先でお礼を言われた経験を持つ砂田修作という警官です。

この田中角栄への思い入れを持つという人物設定はうまいものであり、読者の共感をも呼びやすいと感じたのは私だけでしょうか。

 

この砂田の眼を通して、田中角栄のロッキード事件から東芝COCOM違反事件へと続き、東西冷戦の終結を迎え、オウム真理教、警察庁長官狙撃事件、金正男の来日事件へと続きます。

これらの事件そのものではなく、その事件の陰に隠された事実、例えばロッキード事件の際はCIAから依頼された特定の人物の所在確認作業を通して、公安部外事一課に配属された砂田の公安警察員としての観点からロッキード事件を見直すことになります。

そこには一般国民が知らない、ごく一部の特殊な立場にある人間だけが知る秘密を通してみた歴史の姿があります。

 

最初の章の「ロッキードの機影」は1976年の出来事ごとであり、私が二十五歳のときのことですからその状況は鮮明に覚えています。しかし、私たちが知っていたロッキード事件の本当の意義は全くわかっていなかったことが示されます

そのあとの「東芝COCOM違反」の章は経済関連の事柄でもあり、当時から共産圏諸国への輸出禁止違反以上の意味を把握していませんでしたし、その次の「崩壊前夜」の章もソヴィエト連邦の崩壊の裏で繰り広げられる諜報戦の意味をよく理解できないきらいがありました。

しかし、その次の「オウムという名の敵」「長官狙撃」の章からは自分の身近の人間が警察に勤務していたこともあり、また、サリン事件の衝撃が強すぎてかなりのめり込むことになりました。

ただ、個人的にはこの作品全体を通して登場するルシーノワというKGB機関員の美女はいらないという気もしました。それはすなわち眉墨圭子という女性の振る舞いにもかかわってくるのですが。

せっかくの公安警察官としての観点からの物語が少しのぶれを感じてしまったからです。

 

とはいえ、かなり硬派な読みごたえのある作品であることは間違いなく、今後の月村了衛という作家の作品を注目したいと思いました。

追想の探偵

追想の探偵』とは

 

本書『追想の探偵』は、2017年4月に刊行されて2020年5月に360頁で文庫化された連作短編小説集です。

本書では誰も死にませんし、アクション場面もありません。それでいて一人の女性の人探しを描く、まさに「日常のハードボイルド」という言葉がピタリと当てはまる小説です。

 

追想の探偵』の簡単なあらすじ

 

消息不明の大物映画人を捜し出し、不可能と思われたインタビューを成功させるー“人捜しの神部”の異名を取る「特撮旬報」編集部の神部実花は、上司からの無理難題、読者からの要望に振り回されつつ、持てるノウハウを駆使して今日も奔走する。だが自らの過去を捨てた人々には、多くの謎と事情が隠されていた。次号の特集記事を書くために失われた過去を追う実花の取材は、人々の追憶を探る旅でもあった…。(「BOOK」データベースより)

 

日常のハードボイルド / 封印作品の秘密 / 帰ってきた死者 / 真贋鑑定人 / 長い友情 / 最後の一人

 

追想の探偵』の感想

 

本書『追想の探偵』の主人公は映画雑誌「特撮旬報」の編集長をしている神部実花という女性です。

この雑誌は不定期刊であり、特撮映画を扱う雑誌です。つまりは、この雑誌の目玉記事として往年の特撮映画の特集をし、関係者のだれもその消息を知らないその映画関連の人物を探し出し、インタビュー記事を書こうとするのです。

誰もその人の行方を知らないからこそ価値があり、雑誌の売り上げに結びつきます。しかし、誰も知らないのですからその人物を探し出すことは困難を伴います。

だからこそ「人捜しの神部」という異名があるほどの手腕のある本書『追想の探偵』の主人公の出番があります。

本書の一番の魅力は、主人公である神部実花という編集者の人捜しの過程にあります。

 

例えば、『流星マスク』という作品が特集される場合、この作品の特撮を担当した佐久田政光という特殊技術者が目玉となります。

この人物は特撮作品というだけでなく、国際的にも高く評価されている名の通った名作映画に多く関わった伝説の人物なのですが、三十年も前にその消息は一切不明になっているのです。

この人物の探索を始めるに際し、まず、佐久田政光のプロフィールから少しでも連絡先を知っている可能性のある人物をリストアップします。そして、アルバイトに片っ端から電話をかけさせるのです。

その後、国会図書館や大宅壮一文庫で当時の新聞、雑誌の類を全部調べ、映画雑誌に限らず学年誌や児童誌に至るまで見るのですが、ここまでは誰でもやることだそうです。大事なのはその先であって、落ち穂よりもなお細かい「綿毛」ほどの何かを見るのだといいます。

この号の場合、どこかの囲み記事にあった「佐久田の親戚の球磨美大生」という言葉がその「綿毛」です。

ただ、こうした作業の末に、熊美大生ではあっても球磨美では分からずにネットという利器のおかげで見付け出しますが、依然佐久田政光のことは不明でした。

そこで電話に戻り神部実花自身が電話をかけるのです。そうすると、今度は編集長である上司が連絡をしてきたということで、アルバイトでは聞き出せないことを話してくれたり、忘れていたことを思い出してくれることが少なからずあるのだそうです。

つまりは、人探しには限りない忍耐力が必要だということです。

 

本書『追想の探偵』の第一話「日常のハードボイルド」は、以上のような作業を描いてあります。

この話では上記の作業では佐久田政光は見つからず、結局は別のルートでたどり着きます。その過程もまた相応の努力が為され、その先に佐久田政光という人物にまつわる人間ドラマが待っていたのでした。

 

最初に書いたように、本書の魅力は人捜しの過程にあります。そして、この主人公にはモデルがあり、作者はその人物を前提にこの小説を書こうと思ったのだそうです。

本書で描かれている人捜しのエピソードのどれほどが現実の話かは分かりませんが、先に書いたようなことも現実の人捜しのノウハウの一端が示されていることは間違いなさそうです。

月村了衛という作家の作品というにはアクションも無く、いつものタッチを思う人には物足りない作品かもしれません。

私自身、本書の『追想の探偵』というタイトルのイメージから、端的に一匹狼の探偵の抒情的なハードボイルドを予想していたのですが、全く異なる内容の作品でした。しかし、戸惑いは最初のうちだけであり、やはりいつものように引き込まれていました。

 

本書はまた、特撮映画の専門誌が舞台ということで、そうした映画が好きな人にも満足のいく作品ではないかと思われます。

勿論、取り上げられている特撮映画や人物は全くの架空の作品ですが、語られている内容は事実の裏付けがあると思われるからです。

 

そもそも「人捜し」という行為はハードボイルドの基本であり、東直己の『探偵はバーにいる』を始めとして、大沢在昌の『佐久間公シリーズ』、 原りょうの『そして夜は甦る』などきりがありません。

私立探偵が人捜しを依頼されるが、その人捜しには何らかの事件性がつきまとい、探偵自らもその事件に巻き込まれていく、という王道のパターンですね。

本書『追想の探偵』では人捜しはしますが事件性はありません。それでもなおハードボイルドであり、だからこそ「日常の」という接頭語がつくのです。

槐(エンジュ)

槐(エンジュ)』とは

 

本書『槐(エンジュ) 』は2015年3月に刊行されて2017年6月に400頁で文庫化された、長編の冒険小説です。

 

槐(エンジュ)』の簡単なあらすじ

 

水楢中学校野外活動部の弓原公一らが合宿で訪れた湖畔のキャンプ場で、惨劇は起こった。隠された大金を捜す半グレ集団・関帝連合がキャンプ場を封鎖し、宿泊客を虐殺し始めたのだ。囚われの身となった公一たち。だが絶体絶命の状況下、突然何者かが凶悪集団に反撃を開始した!謎の闘士と中学生たちが決死の脱出に挑む。今最も旬な著者による戦慄と興奮の物語。(「BOOK」データベースより)

 

 

槐(エンジュ)』の感想

 

本書『槐(エンジュ)』は、典型的なアクションエンターテインメント作品だと言えると思います。同じ月村了衛の作品では『ガンルージュ』と似た印象の作品でもあります。

 

 

とにかく、物語のリアリティーなど全く無視した、アクションを見せるためだけの舞台設定であり、物語の筋立てです。本書を読んですぐは、この物語の舞台設定の安易さに驚いたというのが正直なところで、それくらい荒唐無稽な話です。

なにせ、半グレ集団がキャンプ場をおそい、そのキャンプ場にいる人間を皆殺しにするところから始めるのですからたまりません。その後の物語の展開も、いくらなんでも、と思わせられる場面が相次ぎ、感情移入などという話どころではなかったのです。

前述の『ガンルージュ』でも似たような印象を持ったのですが、本作はそれ以上でした。

 

両作品共に、普通人として生活している女性が、実はその世界では名の通った戦士であり、圧倒的な暴力により殺されそうになっている子供たちを救出する、という点で共通しています。

ただ、私には『ガンルージュ』のほうがより、受け入れやすい設定だった、というだけです。

そして、本書を読んで時間を経たいまでは、痛快アクション小説として単純に楽しむべき小説であり、それ以上のものを求めるといけないと思うようになりました。

そう思って本書『槐(エンジュ)』を読むと単純に痛快物語であり、ある種のカタルシスを得ることができるのかもしれません。

 

単純な痛快物語という点では大沢在昌の作品の中にもその荒唐無稽さにおいて似たところを持つ作品群があります。

まず思い出すのは『明日香シリーズ』でしょうか。

銃撃戦で頭部以外をハチの巣にされた麻薬取締官神崎アスカが、脳移植により女マフィアの美しい肉体を得て、かつてのパートナー仁王と共にマフィアと戦う物語というだけでその荒唐無稽さが分かるというものです。

でありながら、痛快アクション小説として抜群の面白さを持っています。ただ、映画版は酷評されたようですが。

 

 

また、ちょっと前になりますが、冒険アクション小説と言えばやはり西村寿行が好きな作家でした。

なかでも『鯱シリーズ』は、仙石文蔵をリーダーとする天星、十樹、関根という四人の荒唐無稽なスーパーヒーローの活躍が爽快です。エロス満開ではありますが、アクション小説としても超一流だと思っています。

 

黒警

本書『黒警』は、ヤクザとそのヤクザと義兄弟の契りを結んだ事なかれ主義の警察官との姿を描く長編の警察小説です。

ただ、この作者の『機龍警察』ほどの濃密感はなく、軽い仕上がりになっている、気楽に読むエンターテイメント小説です。

 

街で女を見捨てた警視庁組織犯罪対策部の沢渡と、行きずりの女の命を救った滝本組の幹部ヤクザ・波多野。腐れ縁の2人の前に、女を助けたい中国黒社会の新興勢力「義水盟」の沈が現れる。3人の運命が重なる時、警察内部の黒く深い闇が蠢きだす…。(「BOOK」データベースより)

 

冒頭には本書『黒警』は警察小説だと書きましたが、警察小説と言いきっていいかは若干の疑問もあります。警察組織としての働きを描くことは二の次と感じられるからです。

 

滝本組の幹部である波多野は、かつて見捨てた女がその場で殺されてしまったという過去を持ち、ヤクザのくせに今でも困っている女を助けずにはいられません。

一方、事なかれ主義の警官である沢渡は、夜の街で絡まれている女を見てもそのまま見過ごすだけです。

ところが、沢渡が昔見過ごした女は波多野が見捨てたその女でした。共に負い目を背負って暮らしていたのです。沢渡と波多野との縁もその時にできたものでした。

そしてもう一人、中国マフィア義水盟の沈という男が、波多野を男と見込んで一人の女を預けます。たまたまその場にいた沢渡もその女を守る羽目になったのですが、沈の相手は沈の思った以上の力を有していました。そのために、沢渡も自分が戦うべき相手を見出すのですが、その相手は意外な相手だったのです。

 

このながれを簡単に見ても分かる通り、本書『黒警』は警察を描いてはいますが、かつての任侠映画やハードボイルド、またはある種の人情物に見られる構造です。

人情に絡んだ自己犠牲の物語は、一般的に好まれる物語の構造として定型とも言えるものでしょう。

その定型を月村了衛という達者が描くのですから面白くないわけがないのです。ただ、その形を深く描き出しているわけではありません。

とくに、沢渡の人物造形などは事なかれ主義の警官だったはずが義理人情に厚い、男の部分もあったりする少々半端な印象もあります。

 

本書『黒警』のような刑事とヤクザとの心の交流という点で言えば、その構造は 大沢在昌新宿鮫シリーズの中でも特に『狼花 新宿鮫IX』で見られたと思います。鮫島と仙田という正体不明の男らとの闘いは一読の価値ありです。

また「老いぼれ犬」こと高樹警部と今は堅気となっている持とヤクザを描いた北方謙三なども、構造は違いますが挙げていいかもしれません。

 

 

月村了衛という作家は、物語の骨格がきちんと練り上げられていて、シリーズの幾編かは「日本SF大賞」などの大賞を受賞している『機龍警察』を第一巻とする『機龍警察シリーズ』のような重厚な作品とは別に、『槐(エンジュ)』や『ガンルージュ』のように、肩肘張らずに軽く読むことができるエンターテインメント小説も多数書かれています。

本書『黒警』は、後者に近く、わりと気楽に楽しむことができるエンタメ小説と位置付けられると思います。

 

 

ちなみに、本書には『黒涙』という続編が出ています。まだ読んでないので早めに読みたいものです。

 

ガンルージュ

韓国の大物工作員キル・ホグン率いる最精鋭特殊部隊「消防士」が日本で韓国要人の拉致作戦を実行した。事件に巻き込まれ、人質となってしまった中学1年生の祐太朗。日本政府と警察は事件の隠蔽を決定した。祐太朗の母親で、かつて最愛の夫をキルに殺された元公安の秋来律子は、ワケあり担任教師の渋矢美晴とバディを組み、息子の救出に挑む。因縁の関係にある律子とキルの死闘の行方は、そして絶体絶命の母子の運命は―。(「BOOK」データベースより)

この作者の作品である『機龍警察』の持つ重厚なイメージを持って読むと、全く裏切られます。本作品は、ときにはコミカルに、ときにはハードに、またちょっとした遊びもある、まさに娯楽に徹したアクションエンターテインメント作品というべき作品なのです。

秋来祐太郎と神田麻衣は、韓国の特殊部隊がとある韓国要人を拉致する現場を目撃したために共に誘拐されてしまいます。そこで祐太郎の母親秋来律子と彼らの教師である渋矢美晴とが救出に向かう、というのが大まかな物語の流れです。

普通の母親と教師が、高度な訓練を受けた特殊部隊を相手に立ち回りを繰り広げようというのですから、普通の物語であるわけがありません。当然のことながらこの二人が「普通の一般人」であるわけがないのです。

即ち、祐太郎の母親の秋来律子は、元公安の、それも凄腕の捜査員であったという過去を持っていて、渋矢美晴は元ロックシンガーであり、祐太郎らの体育の教師であって、かつての彼氏である敏腕刑事から教わった格闘術で立ち向かいます。

こうした設定からも分かるように、本書は単純にストーリーに乗っかって楽しむべき類の作品です。いくら格闘術を習っていたとしても、一般素人の女性が高度な訓練を受けた特殊部隊隊員を相手に闘えるわけがないなどと、当たり前の感想を持ったりしてはいけないのです。

あくまで、アクションエンターテインメントとして素直に物語を楽しめばよく、そうすればかなりの爽快感を持って読了することができると思います。

そういうゆとりを持って読み進めると、本書は登場人物のキャラクターなどかなり書きこまれていて、感情移入しやすい物語であることはすぐにわかると思います。実際、316頁の新刊書という決して薄くはない本ではあるのですが、この手の作品の常として書会話文が多く、改行も多用してあるところから、かなり早いペースで読み終えることができました。

アクションエンターテインメントということで私の読書歴から既読作品を振り返ってみると、やはりまずは西村寿行の名があげられると思います。荒唐無稽な物語ではありながら、骨子がしっかりとしているためか純粋にエンターテインメントを楽しむことができる作品が多数あるのです。中でも突飛ではありますがアクション性を重視すると鯱シリーズということになるでしょう。仙石文蔵をリーダーとする天星、十樹、関根という四人の荒唐無稽なスーパーヒーローが活躍し、更にエロス満開のサービス付きです。『赤い鯱』を第一作とし、全十一巻になるシリーズで、その面白さは折り紙つきです。

荒唐無稽さという側面を重視し、ヒーローが活躍する小説ということに限定すると楡周平Cの福音を思い出します。大藪春彦が作り出した伊達邦彦や朝倉哲也などのヒーローを彷彿とさせてしまう朝倉恭介と川瀬雅彦という二人を主人公とする、Cの福音を第一作とする全六巻からなるアクション小説です。『Cの福音』に続く『クーデター』と読み進んでいるのですが、次第に面白くなっている感じがします。

土漠の花

本書『土漠の花』は、ソマリアに赴任している陸上自衛隊員を主人公とした長編のアクション小説で、日本推理作家協会賞を受賞した作品です。

重厚で存在感のある『龍機兵シリーズ』に比べ、よりエンターテインメントに徹した感のある、読みやすいアクション小説として仕上がっている。

 

ソマリアの国境付近で活動する陸上自衛隊第一空挺団の精鋭達。そこに命を狙われている女性が駆け込んだ時、自衛官達の命を賭けた戦闘が始まった。一人の女性を守ることは自分達の誇りを取り戻すことでもあった。極限状況での男達の確執と友情。次々と試練が降りかかる中、生きて帰ることはできるか?一気読み必至の日本推理作家協会賞受賞作!(「BOOK」データベースより)

 

本書が『龍機兵シリーズ』よりもエンターテインメント性が強いとはいっても、社会性が無いというわけではありません。

逆に、より現実に即した物語という意味では抱えるテーマは大きいかもしれません。

 

本書『土漠の花』の舞台となるソマリア及びジブチは、アフリカの東端に位置し、アラビア海に突き出した形状の半島の沿岸を占めています。

ソマリア(正式にはソマリア連邦共和国)は近年海賊の出没が問題となっていて、各国がその対策に苦慮している地域です。

本書の自衛隊も日本の船舶の護衛のために派遣されているのです。

 

本書で描かれている物語は、上記の海賊とは関係のない、内陸部で起きた自衛隊への襲撃事件についての話です。

フィクションではありますが、前述のように、本書『土漠の花』の提起する問題は大きいものがあります。

自衛隊員が事実上の軍隊、軍人として、外国で、外国の人間に対し現実に発砲するという事実がいかに大きなことであるか。

自衛隊員として他国の軍勢に対して発砲することが、国内的に、また国際的にさまざまな問題を巻き起こすであろうことは素人でも分かります。本書でも少しですが触れられています。

しかし、本書ではそれよりも、ひとりの人間として人を殺すことへの葛藤や、指揮官としての苦悩など、人間としての側面に焦点が当てられています。

「自衛隊というよりは人間として戦わざるをえない」状況だと、これは著者本人の言葉です。

 

残念なのは、本書『土漠の花』でのそうした問題への掘り下げがあまり深くは感じられないことです。それよりも、戦闘行為の描写に興味が移ってしまいます。

著者は多分、意識的に人間の内面の深みにまで踏み込むことを避けられたのではないでしょうか。

実際、インタビュー記事を読むと「現代社会のリアルな国際情勢を背景にしたエンタメの復権」などと著者本人が語られていたので、案外的外れでも無かったと思ったものです。

 

そういう「問題提起」という意味では、安生正の『ゼロの迎撃』の方が鋭かったかもしれません。

 

 

日本の都市部でのテロリストへの反撃行為自体の持つ法律的な問題点に対する掘り下げや、分析官である主人公の自分のミスに対する煩悶など、本書よりも緻密であったと思います。

この提起されている問題に対する関わりの浅さが残念ながら物足りなく思ってしまいました。でも、アクション小説としての面白さは十分なものがあります。そう割り切ってしまえば、かなり面白い物語でしょう。

機龍警察 未亡旅団

機龍警察 未亡旅団』とは

 

本書『機龍警察 未亡旅団』は、『機龍警察シリーズ』第四弾の長編のアクション警察小説です。

前巻まで三人の龍機兵の操縦者たちの過去が語られてきました。今回は城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の話です。

 

機龍警察 未亡旅団』の簡単なあらすじ

 

チェチェン紛争で家族を失った女だけのテロ組織『黒い未亡人』が日本に潜入した。公安部と合同で捜査に当たる特捜部は、未成年による自爆テロをも辞さぬ彼女達の戦法に翻弄される。一方、特捜部の城木理事官は実の兄・宗方亮太郎議員にある疑念を抱くが、それは政界と警察全体を揺るがす悪夢につながっていた―世界のエンタテインメントに新たな地平を拓く“至近未来”警察小説、衝撃と愛憎の第4弾。(「BOOK」データベースより)

 

ある密売取引の現場を急襲した神奈川県警は、バイヤーである不法入国者グループを逮捕しました。

ところが、若い女性ばかりのそのバイヤーのうちの数人が包囲陣にむかって駆け出し、周りを巻き込んで自爆してしまいます。

凄惨な現場には倒壊した車両や炎上する家屋が残されたのみで、残る六人の女性の姿はどこにもありませんでした。

 

機龍警察 未亡旅団』の感想

 

本書『機龍警察 未亡旅団』はこれまでの作品と異なり、城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の話が語られてはいます。

しかし、現在進行している事件、それも未成年らによる戦闘行為がメインのテーマだとの印象があります。

テロ行為そのものが許されないことは勿論なのですが、加えて「児童を徴集、あるいは誘拐して兵士に仕立て上げ」られている現実、「最も安価で効果的な戦力増加方法」だとして未成年者が戦闘員として闘っているという現実に対する問題提起がなされています。

 

より詳しく言うと、本書『未亡旅団』ではチェチェン紛争という現実を詳細に描写し、テロルの実行犯側の論理をも展開しています。

私達はチェチェン紛争のそうした現実を知りません。描かれている紛争の裏側がどこまで事実なのかは分かりませんが、似たようなことは現実に行われているのでしょう。

本書『未亡旅団』でテロリストとして描かれているのは、チェチェン紛争で夫や家族を失った女性たちだけからなる組織である「黒い未亡人」と呼ばれる組織で、実在の組織だそうです。

こうした組織が現実に存在し、テロ行為を行っているのが現実の世界であるということが目の前に示されるのです。

未成年者や、夫や家族を失った女性たちがテロリストとして闘っているという実際の世界の現実がテーマなので、話は重く、決して痛快活劇ではありません。

 

しかし、作者の筆力はそうした重みをも弾き飛ばす勢いで展開します。アクション小説としての面白さはこれまでにも増しています。

更には警察内部の反特捜部勢力である「敵」との戦いも、より熾烈でサスペンスフルなものになってきています。

 

付け加えますと、物語が内包している龍機兵そのものにまつわる謎や、秘密のかたまりのような沖津旬一郎特捜部長の背景についてはまだ何も語られてはいません。

まだまだ解き明かされるべき謎は山積しているのです。今後の展開が楽しみな作品です。

機龍警察 暗黒市場

本書『機龍警察 暗黒市場』は、『機龍警察シリーズ[完全版]』第三弾の長編のアクション警察小説です。

前巻の『機龍警察 自爆条項』ではライザ・ラードナーの過去が語られましたが、今回はユーリ・オズノフが中心とななっています。

 

警視庁との契約を解除されたユーリ・オズノフ元警部は、旧知のロシアン・マフィアと組んで武器密売に手を染める。一方、市場に流出した新型機甲兵装が“龍機兵”の同型機ではとの疑念を抱く沖津特捜部長は、ブラックマーケット壊滅作戦に着手した。ロシアの歴史と腐敗が生んだ最悪の犯罪社会に特捜部はどう立ち向かうのか。吉川英治文学新人賞に輝く世界標準の大河警察小説。警察官の魂の遍歴を描く、白熱と興奮の第3弾。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

日本のどこかでロシアン・マフィアによる武器密売市場が開かれようとしている。大物マフィアのゾロトフと組んだユーリは、バイヤーとして参加を許された。その背後で展開する日本警察と密売業者との熾烈な攻防。渦中のユーリは自分とゾロトフとの因縁の裏に、ロシアの負う底知れぬ罪業が隠されていたことを知る。時を超えて甦るモスクワ民警刑事の誇り―至高の大河警察小説、運命の影と灯火の第3弾。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

武器密売の国際的ブラックマーケットを内偵中であった警視庁組織犯罪対策部の安藤巡査部長が、その死と引き換えに、日本で新型機甲兵装のマーケットが開かれるらしいとの情報をもたらした。

当然、警視庁特捜部が乗り出すことになるが、何故かユーリ・オズノフ元警部は契約解除になっていて、残りの二体で対処することになるのだった。

 

本書『機龍警察 暗黒市場』前半で語られるユーリ・オズノフの物語とは、モスクワ第九十一民警分署刑事捜査分隊操作第一班の物語です。

この班は、腐敗したロシア警察の中でも清廉さを謳われて「最も痩せた犬達」と呼ばれた警察という職務に忠実であろうとする男達で構成されていました。

誰からも慕われた警察官の父を持つユーリにとって、この職場は天命とも言える職場であり、警察官としての自分を最大に生かせる職場でもありました。その職場で起きた悲劇、それが現在まで続いているのです。

後半は現在の日本に戻り、ブラックマーケット壊滅作戦が語られます。この描写は相変わらずに十分な迫力を持って読者に迫ってきます。

少々出来過ぎな感じがしないでもありませんが、そうした思いを越えた迫力で物語は展開されるのです。

 

十分に練られたストーリーは綿密に計算された人物造形と併せて物語に深みと厚みを感じさせてくれます。

ただ、これまでの三作の中では一番感傷的な物語とも言え、その点が弱点と思う人もいるかもしれません。

 

しかしながら、物語はそうした疑問点をものともしない筆致で進みます。

SF的な設定は単に一つの道具として考えれば、この手の物語が苦手な人でも十分面白いと思ってもらえるでしょう。それほどに力強く、面白い物語です。

機龍警察 自爆条項〔完全版〕

機龍警察 自爆条項〔完全版〕』とは

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』は、『機龍警察シリーズ[完全版]』第二弾の長編のアクション警察小説です。

第一巻『機龍警察』よりも力強さの増した重厚な物語で、日本SF大賞を受賞しているほどにその面白さが増していると言える小説です。

 

機龍警察 自爆条項〔完全版〕』の簡単なあらすじ

 

軍用有人兵器・機甲兵装の密輸事案を捜査する警視庁特捜部は、北アイルランドのテロ組織IRFによるイギリス高官暗殺計画を掴んだ。だが、不可解な捜査中止命令がくだる。首相官邸、警察庁、外務省に加えて中国黒社会との暗闘の果てに、特捜部が契約する“傭兵”ライザ・ラードナー警部の凄絶な過去が浮かび上がる!極限までに進化した、今世紀最高峰の警察小説シリーズ第二作が、大幅に加筆された完全版として登場。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

ライザ・ラードナー、警視庁特捜部付警部にして、元テロリスト。自らの犯した罪ゆえに、彼女は祖国を離れ、永遠の裏切り者となった。英国高官暗殺と同時に彼女の処刑を狙うIRFには“第三の目的”があるという。特捜部の必死の捜査も虚しく、国家を越える憎悪の闇が見せる最後の顔。自縄自縛の運命の罠にライザはあえてその身を投じる…過去と現在の怨念が狂おしく交錯する“至近未来”の警察小説第二弾。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

横浜港大黒埠頭で作業中の男は、職務質問をかけられた鶴見署の刑事らを軽機関銃で射殺し、完成形態の機甲兵装(通称キモノ)が格納されていたコンテナ船に閉じこもった末に自殺してしまう。

そこで、日本国内での大規模なテロの可能性があるとして、警視庁特捜部がその捜査を担当することとなった。

 

自爆条項〔完全版〕』について

 

まず、本書は〔完全版〕と銘打たれています。

私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。

作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『機龍警察』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。

なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。

 

機龍警察 自爆条項〔完全版〕』の感想

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』では本筋の警察とテロリストとの対決という流れのほかに、龍機兵の操縦者の一人であるライザ・ラードナーの過去が語られます。文庫本で上下二巻という長い小説の半分はライザ・ラードナーの物語です。

そして、そのライザの過去と本筋の物語とが交錯し、IRAの歴史が現代のテロ行為へとつながってくるのです。

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』では物語の背景がかなり明らかになります。

まずは、悲惨という言葉では語りつくすことのできない過去を持つライザが何故にIRAから離脱したのか、また彼女が自らの命を絶てないのは何故か、といった疑問への回答が語られます。

また、「龍機兵」の操縦者が警察外部から選ばれ、警察官の中から選ばれない理由も示されます。

そして、イギリスでのテロに巻き込まれ命を落とさざるを得なかった家族を持つ鈴石緑技術主任とライザの関係も明らかになるのです。

 

本書『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』は第一作目に比して更に骨太になっているという印象があります。

シリーズものは二作目になると少しなりとも文章の迫力なり構成なりが落ちることが多いのですが、本書は、より緻密に練り上げられている印象すら受けるのです。

相変わらず情緒過多とも言えそうな文章ですが、別に違和感を感じるほどではありません。

 

本書の半分はライザの物語だと書きましたが、ライザの話は常に悲惨です。不運をまとわりつかせて生きる女であり、そうしてしか生きていけない女でもあります。

反面、終盤近くのアクションシーンは一気にたたみ掛けてきて、本を置くことができません。映像的ですらあります。

私がSF好きでコミック好きであるために、本書のような作品はより好みなのでしょうが、アクション小説が好みであれば是非一読してもらいたい小説です。

 

ちなみに、本書は〔完全版〕と銘打たれています。

私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。

作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。

なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。

機龍警察〔完全版〕

機龍警察〔完全版〕』とは

 

本書『機龍警察』は『機龍警察シリーズ』第一弾の作品で、文庫版で400頁の、現代日本を舞台にした異色の長編警察小説です。

SFのようでありアクションも満載の、それでいて舞台背景も丁寧に書き込まれている、面白さ満載の小説でした。

 

機龍警察〔完全版〕』の簡単なあらすじ

 

テロや民族紛争の激化に伴い発達した近接戦闘兵器・機甲兵装。新型機“龍機兵”を導入した警視庁特捜部は、その搭乗員として三人の傭兵と契約した。警察組織内で孤立しつつも、彼らは機甲兵装による立て篭もり現場へ出動する。だが事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていた…日本SF大賞&吉川英治文学新人賞受賞の“至近未来”警察小説シリーズ開幕!第一作を徹底加筆した完全版。(「BOOK」データベースより)

 

警視庁の通信指令室より指令を受けた巡回中のパトカーが現場に駆け付けると、そこで見たものは「キモノ」と称される二足歩行型軍用有人兵器「機甲兵装」だった。

パトカーを一瞬で踏み潰した「機甲兵装」は江東区内を滅茶苦茶に走り回り、多大な人的物的被害をもたらした後、地下鉄有楽町新線の千石駅に停車中の地下鉄車両を人質に立て籠るのだった。

 

自爆条項〔完全版〕』について

 

まず、本書は〔完全版〕と銘打たれています。

私は従来の版しか読んでいないので、このサイトは正確には間違っていることになりますが、書籍としては最新のものを表示したいので、表記およびリンクは〔完全版〕を表示しています。

作者の当初の思惑とは異なって、かなりの大河小説になってきているので最初の第一弾『機龍警察』そして第二弾の本書『機龍警察 自爆条項』を〔完全版〕として加筆修正されたものでしょう。

なお、作者月村了衛の「オフィシャル・ガイド」によれば、「〔完全版〕は第2弾の『自爆条項』までで、今後『暗黒市場〔完全版〕』などは出ません。」と明記してあります。

 

機龍警察〔完全版〕』の感想

 

龍機兵(ドラグーン)」とは、「機甲兵装」つまりはパワードスーツのことです。R・A・ハインラインの『宇宙の戦士』に出てくるパワードスーツがその始まりでしょうか。

より身近なもので言えば、『機動戦士ガンダム』に出てくるモビルスーツがあります。操縦者が乗り込み、その動作が反映される外装装置ということになります。

近時の映画で言えば『パシフィック・リム』があります。しかし、あちらは八十メートル前後の大きさがありますが、本書のそれは三メートル程です。

アニメ『攻殻機動隊』を挙げる人もいるようです。しかし、少々ダークなトーンの側面を見ればそうかもしれませんが、両作品共に世界観が違う、と私は思いました。

 

 

確かに、本書『機龍警察〔完全版〕』の物語の世界観はコミックの『機動警察パトレイバー』(下掲イメージはKindle版)によく似ています。その小説版と言ってもいいかもしれません。

ただ、『機龍警察〔完全版〕』の世界感はより濃密で、登場人物それぞれの性格付けが丁寧に為されており、重厚な小説世界が構築されています。その世界を舞台に展開されるアクションは読みごたえがあり、飽きさせません。

 

 

本書『機龍警察〔完全版〕』の主人公は警視庁内に設けられた「特捜部」ということになるのでしょう。

本『機龍警察シリーズ』では、すくなくともシリーズの序盤では作品毎に物語の進行の中心となるたる人物が異なり、その人物の過去と現在、そしてメインとなる事件、その解決の物語が語られます。

第一作である本書では警察組織の嫌われ者となっている「特捜部」の現在が描かれ、部長の沖津旬一郎警視長や、城木貴彦宮近浩二といった理事官、技術的側面を管理する鈴石緑技術主任などが登場します。

 

しかし、何といっても特徴的なのは「龍機兵」を操縦するのが元傭兵である姿俊之、元ロシア警察官のユーリ・オズノフ、元IRAのテロリストのライザ・ラードナーだということです。

何故この三人なのか、ということも一つの謎であり、シリーズの中で少しずつ明かされていきます。そして、本書ではまず姿俊之を中心として物語が進みます。

 

SF好きな人以外には本書の設定は受け入れにくいかもしれません。でも、そこを少しだけ我慢して読んでもらえれば、内容の濃い物語を楽しめる筈です。

ただ、決して明るい物語ではありません。どちらかと言えば重めの雰囲気ではあります。

しかし、ほかでも書いたように、シリーズ二作目の『機龍警察 自爆条項』は日本SF大賞を、三作目の『機龍警察 暗黒市場』は吉川英治文学新人賞を受賞し、更に「このミステリーがすごい!」でも高評価を得ているのです。

それほどに面白さは保証付きだと思います。