遺文: 吉原裏同心(二十一)

吉原会所の頭取・四郎兵衛の傷がようやく癒えた折り、またも吉原が「脅威」にさらされた。吉原裏同心の神守幹次郎は、いまだ復調ならぬ四郎兵衛に伴って、吉原の秘された過去の「遺文」があるとされる鎌倉へ。そこで彼らを待ち受けていたのは過去最強の刺客たちと衝撃の「秘密」だった。シリーズ史上最高傑作!吉原、鎌倉を舞台に壮大なドラマが繰り広げられる第二十一弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズ第二十一弾です。

ここしばらく続いてきた吉原会所への攻撃も、本書で一応の解決を見ることになります。

前作で大怪我を負った吉原会所七代目頭取の四郎兵衛は、吉原を狙う勢力のおびき出しも兼ね、神守幹次郎を警護として自らがおとりとなって鎌倉の建長寺へと出かけるのです。そして四郎兵衛の思惑通りに刺客らが襲ってきますが、幹次郎の活躍で見事に刺客を撃退してしまうのでした。

この物語について、惹句には「シリーズ史上最高傑作!」との謳い文句がありました。たしかに、吉原の成り立ちからの秘密をめぐって鎌倉で活劇が展開され、物語としては最高の展開になる筈だったと思います。

しかしながら、シリーズ中盤のクライマックスの筈が個人的にはそうでもありませんでした。

というのも、あまりにも幹次郎が強すぎるのです。幹次郎一人がいれば相手が幾人いようと問題ではなく、そのすべてを退けてしまうのですから、幹次郎という存在さえあればもう吉原は安泰だと思えてしまいます。

ここまで主役の存在感があり過ぎると、痛快小説ということを越えて、物語の筋などどこかへ行ってしまいます。主人公さえいれば叶わないことは無くなってしまい、物語としての面白みまで霧消してしまいます。

本書の場合、そこまでは行きませんが、それに近い印象を持ってしまったことも事実です。主人公はそれなりに強くなければならず、それでいて物語としてスリリングな緊張感を維持していかなければなりません。

そうしたことがキャラクター造形や、ストーリー構成の工夫ということになるのでしょうが、本書は決してうまくいっているとは言えないのです。

吉原の成り立ちからの秘密という謎の設定も、今ひとつ物語に馴染んでいるとは感じなかった点もあり、本書についての厳しい印象につながってきたと思われます。

シリーズとしての間延び、マンネリ感が出てきたんかもしれません。今後の展開に期待しましょう。

髪結: 吉原裏同心(二十)

吉原裏同心の神守幹次郎に女髪結のおりゅうが相談をもちかけた。妹のおきちが不審な者に狙われているのだという。おきちの警固に動いた幹次郎だったが、それがとんでもない騒動の幕開けだった。そして、次に狙われたのは、「吉原の主」ともいえる人物・四郎兵衛。再び蠢きだした「闇の力」の前に、幹次郎の豪剣が立ちはだかる!大人気シリーズ、待望の第二十弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズ第二十弾です。

314頁という頁数の、中身の濃い痛快捕物帳とも言える物語です。

吉原で働く女髪結のおりゅう依頼で、おりゅうの妹であるおきちへのストーカーからおきちを守ることになった神守幹次郎です。

しかし、そのストーカーの影には吉原をつけ狙う大きな勢力が見え隠れします。そしてその先には、吉原会所の七代目頭取である四郎兵衛の命を狙う輩と、その背後に控えている勢力との対決をも見据える話になってくるのです。

文字通りの痛快活劇小説です。幹次郎と吉原会所の面々は、おきちを付け回す男の背後に控える反会所勢力と、吉原そのものの存在にもかかわる闇の勢力との対決にのぞむことになります。

本書の解説はポーラ文化研究所研究員の村田孝子氏が担当されています。この解説が、単に物語の解説を越えて、江戸時代の女性の髪形について詳しく説明してあり、興味をそそられるものでした。

浮世絵に描かれている女性の髪形を挿絵として挟みながら、髷の結い方まで説明されていて非常に関心をそそられました。

未決: 吉原裏同心(十九)

吉原にある老舗妓楼「千惷楼」で人気の女郎が客と心中した。知らせを受けた吉原裏同心の神守幹次郎と会所の番方・仙右衛門は、その死に方に疑いを抱く。真相を究明せんと探索する二人だったが、その前には常に大きな影がつきまとう。そして、吉原自体の存在を脅かす危機が訪れる。幹次郎、そして吉原の運命は―。快進撃の人気シリーズ、一気読み必至の第十九弾。(「BOOK」データベースより)

吉原裏同心シリーズの第十九弾です。

吉原にある老舗妓楼「千惷楼」で起きた女郎とその客との心中騒ぎがた女郎とその客との心中騒ぎがおきます。その死に方に疑いを抱いた吉原裏同心の神守幹次郎と会所の番方・仙右衛門は真相を探るべく探索を始めるのでしたが、そこには吉原の存続にかかわる秘密が関わっていたのです。

これまでは、幹次郎の剣によって幕府を始めとする吉原の外部の勢力の攻勢を乗り越えてきた物語との印象があったのですが、今回はその印象が変わる筋立てでした。

ただ、このシリーズを再度読み始めようと本書を読んだのが三年ぶりのことであり、もしかしたらシリーズ自体の印象が薄れていたためにそのような感じを抱いたのかもしれないし、それとも私個人が歳を重ねたためにそう思ったのかもしれません。

印象の変化の原因は分かりませんが、佐伯泰英という作家の他の作品とは少々シリーズの雰囲気を異にしています。ただ、佐伯泰英の痛快活劇小説であることに違いはなく、楽しめる作品であることに間違いはありません。

本作品は、文庫本で320頁もあります。決して短くはない物語ですが、女郎の心中騒ぎがあり、その女郎の正体、あたしい足抜き方法といった、決して大きくはない出来ごとが次から次へと巻き起こり、一つのパターンではありますが、読者を飽きさせない仕掛けがきちんと施されています。

佐伯泰英という作家がベストセラーを連発する秘密が垣間見えるような作品でした。

柳に風 新・酔いどれ小籐次(五)

新兵衛長屋界隈で、赤目小籐次を尋ねまわる怪しい輩がいるという。小籐次ネタを他所の読売屋にかすめ取られていた空蔵は、これは大ネタに化けるかもしれないと探索を引き受けた。そして小籐次と因縁のある秩父の雷右衛門が絡んでいると調べ上げたが、そこで空蔵は行方を絶った。空蔵の身に一体なにが?好調のシリーズ第5弾! (「BOOK」データベースより)

新兵衛長屋界隈で、赤目小籐次について尋ねまわる怪しい男の話を聞き、読売屋の空蔵に妖しい男について調べるように頼むと、ネタに困っていた空蔵は一も二もなく引き受けます。

一方、小藤次と駿太郎は、やっと望外川荘近くの寺の本堂という稽古場を見つけ住職の了解も得ることができたのです。そこに、ヤクザが押し掛けてきますが、住職の思惑通りに、そのヤクザを追い払う小藤次と駿太郎、そして二人の弟子たちでした。

他方、江戸の町の四か所で同時に押し込み強盗が発生します。その押し込みは、何故か小藤次を恨み、敵と狙うのでした。探索を続けていた空蔵は、この押し込みらの情報に行きあたり捕まってしまいます。

小藤次は、豊後森藩からの帰藩要請などもありましたが、火の粉を払う必要もあって空蔵の救出へと向かうのでした。

新しくなったこのシリーズは、結局旧来のシリーズとそれほど異ならないままに落ち着いたようです。ただ、望外川荘でのおりょうとの生活があり、更に駿太郎の成長、それに新しい弟子二人が増えたことがこれまでと異なる点ですね。

そうなると、居眠り磐根シリーズの磐根と空也、それに密命シリーズの金杉惣三郎と清之助親子といったこれまでのシリーズとの区別化をきちんとしてもらいたいものです。

勿論、磐根シリーズの松平辰平、重富利次郎といった弟子たちと本シリーズの創玄一郎太や田淵代五郎という弟子たちとの区別化も同様です。

そしてまた、今ひとつ物語の芯がはっきりとしていない気がします。もちろん、痛快小説としての面白さを持っていることは否定しませんが、シリーズ全体の大きな謎なり、敵なりが見えないのです。

もしかしたら、シリーズを通した大きな謎などは設定しないままに、巻ごとの小藤次の活躍が描かれるのかもしれませんが、創作のハードルは高くなる気がします。

姉と弟 新・酔いどれ小籐次(四)

小籐次一家との身延山久遠寺への代参旅から戻ったお夕は、父のもとで錺職修業を始めた。だが父を師匠とする関係に、お夕は思い悩む。一方、駿太郎は実父・須藤平八郎の埋葬場所が判明し、小籐次から墓を建てるよう提案される。姉と弟のような二人を小籐次は見守るが、当の本人もまた騒ぎに巻き込まれ…。シリーズ第4弾!(「BOOK」データベースより)

新・酔いどれ小籐次シリーズの第四巻となる長編の痛快時代小説です。

前巻では、小藤次が長年住んでいた長屋の元差配である新兵衛さんの代参として身延山久遠寺へ参ったお夕でしたが、今回は、父のもとで錺職修業を始めます。

駿太郎が小藤次が実の父親ではないと知らされた時には、駿太郎の心の内の苦悩を、駿太郎の姉ともなって聞いていたお夕ですが、今回は自身の葛藤を駿太郎に助けられるのです。

その駿太郎には実の両親の埋葬場所が見つかるのでした。そして、駿太郎の実母のお英と、実父である須藤平八郎の墓を建てることになります。

一方、小藤次のもとにはかつての奉公先である豊後森藩から指南役としての復帰の話が起こり、二人の若者と駿太郎とが立ち合うことになります。

今回は話の進み方としては沢山の事柄が盛り込まれていました。小藤次自身の親の話も少しずつ語られてはいたのですが、今回は駿太郎の実の両親の話、そして、駿太郎と姉弟のようにして育ってきたお夕との話を中心に、小藤次自身の身の回りにも少しの変化があるのです。

今の小藤次の生活の状況をきちんと整理しつつ、駿太郎やお夕説いた登場人物たちの環境も整備されていくようです。

桜吹雪 新・酔いどれ小籐次(三)

近ごろ呆けの進んだ新兵衛が妙な間合いで「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えるため、みんなは困り果てていた。身延山久遠寺に詣でたことがあり、それを思い出しているらしい。どうにかしようと、孫のお夕の付き添いで小籐次はおりょう、駿太郎とともに代参の旅に出るが、一行を何者かが待ち受けていた。好調シリーズ第3弾! (「BOOK」データベースより)

新・酔いどれ小籐次シリーズの第三巻となる長編の痛快時代小説です。

前巻での駿太郎の身に降りかかった理不尽な出来事も何とか乗り越え、無事親子の絆を確認できた小藤次と駿太郎でした。

ところが、小藤次のかつての住みかだった長屋の元差配の新兵衛さんのボケが進行し、南無妙法蓮華経とのお題目を唱え続けるばかりです。どうも幼い頃に身延山に参った記憶がよみがえっているらしく、孫娘の夕が新兵衛さんの代わりに身延山久遠寺にに代参することになります。

その旅に小藤次とおりょう、それに駿太郎も同行することになるのですが、そこに小藤次をつけ狙う雑賀の一族が襲いかかってくるのです。

今のところ、従来の小藤次の物語が、面白さもそのままに展開されている新しいシリーズです。駿太郎の成長が新しい魅力として加わっているとも言えるかもしれません。

とにかく、小気味いい痛快時代小説の御王道を行っているこのシリーズです。次の巻を待つばかりです。

願かけ 新・酔いどれ小籐次(二)

近ごろ、小籐次が研ぎ仕事をしていると、その姿に手を合わせ念仏を唱え柏手を打つ者、さらには賽銭を投げる者が続出する。周囲は面白がるが、小籐次は店仕舞いを余儀なくされた。一方おりょうの芽柳派では、門弟の間で諍いが起き、おりょうを悩ませる。ふたつの騒動は、誰が、何の目的で企てたものなのか。シリーズ第2弾!

新・酔いどれ小籐次シリーズ第二巻となる長編の痛快時代小説です。

何故か理由も分からないままに、小籐次をひたすらに拝むとご利益があるとの噂が立ち、小籐次の仕事場所には、小藤次を拝もうとする参拝客が列をなすのでした。そして、そのさい銭の額も相当な額に上るようになったのです。

こうした事態はお城でも関心を呼び、小藤次本人にも累が及びかねない状況になっていたのですが、その裏で動き回る影があり、それは余波は駿太郎にも及んだのでした。

一方、おりょうの歌会では門弟の間でいさかいが起き、門弟数が減る事態になっていました。

本シリーズが新しくなり、前巻では「江戸の知られざる異界をテーマ」にするなどという、よく分からないことを言われていたのですが、両シリーズの間に数年が経過していただけであって、従来とほとんどその内容は変わっていませんでした。

第二巻である本書でも同様で、単に出版社が変わったというだけで何の影響も無い、筋の運びようです。

ただ、時間が経過している分だけ駿太郎が成長し、物語の中での重要な位置を占めるようになってきているのです。

小藤次とおりょうの仲も変化はなく、ただ、駿太郎の本当の父親は小藤次により返り討ちにあっているという事実だけが気にかかります。

佐伯泰英作品の中では私が一番好きな本シリーズですが、新らしくなってもそれほど内容に変化はありません。それがいいことなのか、悪いことなのか分かりませんが、今は単純に喜びながら、続刊を待ちたいと思います。

神隠し 新・酔いどれ小籐次(一)

わけあって豊後森藩を脱藩し、研ぎ仕事で稼ぎながら長屋に暮らす赤目小籐次。ある夕、長屋の元差配・新兵衛の姿が忽然と消えた。さらに数日後、小籐次の養子・駿太郎らが拐しにあった。一連の事件は小籐次に恨みがある者の仕業なのか。小籐次は拐しに係わった阿波津家の謎に迫る。痛快シリーズ、文春文庫でついにスタート!文春文庫40周年記念書き下ろし。(「BOOK」データベースより)

本書からこのシリーズも新しくなりました。

作者によると、本書は「江戸の知られざる異界をテーマにした」のだそうです。その言葉通りに、新兵衛さんが神隠しにあったのか行方不明になります。また、駿太郎もさらわれてしまいます。

本書自体は、新シリーズになってもこれまで通りの面白さを維持しているようには感じました。しかしながら、新兵衛さんが神隠しに遭うという設定にはどんな意味があるのか、私にはよく分かりませんでした。神隠しそのことが、本書に何らかの意味を附加しているようには思えなかったのです。

また、それとは別に、駿太郎がさらわれてしまうのですが、本書のような手の込んだ手順を踏まなければならなかった理由がよく分かりません。この作者のこれまでの書き方では、何らかの事件はそれなりの必然性を設けてあったと思うのですが、本書の場合、その手順をとる必然性が全く感じされなかったのです。

これらの点を除くと、単に数年が経過しているというだけで、旧シリーズと特別変わったところもなく、大人の事情での出版社の変更というだけのことなのでしょう。

せっかく新シリーズになったのに不満点ばかりを挙げてしまったのですが、結局は新しくなったといっても何らの変化はない、と言ってもよさそうです。ただ、新しいシリーズにかなりの期待を抱いた分、こちらの見方も厳しくなった感は否めません。

「異界」などという変な言葉を持ちこんだだけ深読みしてしまった気もします。

ともあれ、新シリーズとなって、多分ですが新しい敵も登場していると思います。この点はまだはっきりとはしません。できれば、磐根シリーズのように内容の劣化と感じられる変化は無しにしてもらいたいと願うばかりです。

ちなみに、本書のあとがきには、まずは読者へのお詫びが書いてあります。その全文はネット上にもあるので興味のある方はそちらをご覧いただきたいと思います。( 文春:本の話WEB : 参照 )

陽炎の辻 居眠り磐音 [ コミック ]

作者のかざま鋭二という人は、ビッグコミックオリジナルで『風の大地』というゴルフ漫画を書いていた人ですね。この漫画は熊本でゴルフ教室を開いている坂田信弘氏が原作を書いていて、ゴルフをやらない私はこの本で坂田信弘氏のことを知りました。

ひと昔前は高橋三千綱氏の原作で野球漫画も書かれていて、よく読んだものです。しかしながら、本書は未読です。