ダーク・タワー

時間も空間も変転する異界の地“中間世界”。最後の拳銃使いローランドは、宿敵である“黒衣の男”を追いつづけていた。タルの町で死から甦った男や妖艶な女説教師らから情報を聞き出し、旅は続く。やがて、別の世界からやってきた少年ジェイクと出会い、少しずつ心を通わせてゆく。だが思いがけない事態が2人を襲った…。キングの物語世界はすべて、本シリーズにつながる。今世紀最高のダーク・ファンタジー、待望の復活!(「BOOK」データベース -第1巻- より)

 

全七部、文庫本で十六冊にもなる長編作品で、キングの小説の集大成とも言われている作品です。

 

「スタンド」におけると同様に、キリスト教社会の神と悪魔の対立を読みとっても良いのでしょうか。単純に善悪の二元論で割り切れないのが人間なのでしょうが、キングの物語も当然その密度の高い文章を駆使して、重厚な人間ドラマが語られます。

ただ、『IT』や『ザ・スタンド』とは異なり、若干ストーリー運びが分かりにくいです。少々哲学的と言っても良いのかもしれません。

 

 

最後のガンスリンガーであるローランドは、元麻薬中毒者や多重人格の女性、不幸な少年たちと暗黒の塔の修復に向けて旅立ちます。降りかかる困難に立ち向かいながら「旅の仲間」は深紅の王の妨害を受けながら進み続けるのです。

 

重要なのは、この作品はキングの小説世界の鍵となる物語と思えることです。

IT』や『ザ・スタンド』『アトランティスのこころ』といった小説世界の登場人物と共通であったり、各小説世界の「悪」の存在がこの物語で言う「深紅の王」に収斂したりと、様々の謎が少しずつ明らかになっていきます。

 

 

この作品が映像化されるという話がありますが、難しいでしょうね。この壮大な世界が壊れることが怖い気がします。

 

 

ちなみに、新潮文庫版( 全十六巻 )もあります。

 

ザ・スタンド

猛然たる致死率と感染力を持つインフルエンザ・ウイルスが漏洩した。それと知らず、それぞれの人生を真摯に生きる人々。未婚で妊娠した学生、突然の成功に惑うロックシンガー、人の暖かさを知った放浪の青年…彼らの流す絶望と悲嘆の涙のなか、静かに世界は死滅してゆく。巨匠畢生の超大作、壮大な滅びの物語を序曲に開幕。(1巻 : 「BOOK」データベースより)

 

パンデミックにより人類が滅びたのちの世界で生き残る人々の姿を描いた、長編のホラー小説です。

 

軍の極秘研究による細菌は漏れ、人類は滅亡する。そのカタストロフィーを生き延びた、極く少数の生き残りの生存をかけた戦いを描く黙示録的物語です。

この物語がまた「IT」より長く、文庫本で五分冊もありますが、その分面白さもパワーアップしていると言え、ファンタジーでもあり、ロードムービーとも言えそうです。

 

キングの小説ではいつものことですが、本書では特に登場人物も多数に上りますが、その大多数をまた背景情報も含めてきちんと書き込んであります。

生き残りの人たちが見る共通の夢に導かれ、ひと組はある老女のもとに集まり、もうひと組は闇の男のもとに集まります。ここにはやはり神と悪魔の存在を見ても良いのでしょうか。

 

本書は、当初はそのあまりの長さにカットされて出版されていたらしいのですが、1990年に完全版として出版されました。

 

ちなみに、本書はスティーヴン・キング自身の脚本、製作総指揮のもと、1994年にミニシリーズとしてドラマ化されています。

 

 

また、さらに2013年にはハリウッドでのリメイクの話も出ていたそうですが、2020年3月現在、何の情報もありませんでした。

呪われた町

幼い頃を過ごした町に舞い戻った作家ベン。町を見下ろす丘の上に建つ廃墟同然の館は昔と同様、不気味な影を投げかけていた。少年の失踪事件、続発する不可解な死、遺体の紛失事件。田舎の平穏な町に何が起きているのか?ベンたちは謎の解明に果敢に挑むのだが…。「永遠の不死」を体現する吸血鬼の悪の力に蝕まれ崩壊していく町を迫真のリアリティで描いた恐怖小説。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

町の平穏な日常の陰で事態はさらに悪化していた。増え続ける犠牲者たちと甦った死者たちの出現…。ベンと彼の仲間は次第に自分たちの敵が何であるのか分かりかけたところで、彼ら自身の命が危険に曝され始める。ベンたちは町を吸血鬼の侵略から守ることが出来るのか?「モダン・ホラーの旗手」キングの世界を存分に堪能できる名作が改訂新版で登場。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

現代のアメリカに蘇った吸血鬼と、売れない小説家のベンやホラーに詳しい少年マークとの戦いを描いた、長編のホラー小説です。

 

そして、住民が吸血鬼と化してしまう舞台となる町がセイラムズ・ロットであり、この町はその後もキングの小説世界のあちこちに顔を出す記念碑的な町でもあります。

例えば、名作『ダーク・タワー』 (角川文庫全十三巻) のドナルド・キャラハンという牧師はセイラムズ・ロットという町の神父という設定ですし、『ニードフル・シングス』(文春文庫全二巻)で破壊されてしまうキャッスルロックという町はこのセイラムズ・ロットを元としていると聞きます。

 

 

そういう意味でも重要な作品と言えるのですが、何より面白いということが一番です。ストーリーの面白さと充実した内容、キングの小説のエッセンス満載のお勧めの一冊です。

シャイニング

“景観荘”ホテルはコロラド山中にあり、美しいたたずまいをもつリゾート・ホテル。だが冬季には零下25度の酷寒と積雪に閉ざされ、外界から完全に隔離される。そのホテルに作家とその妻、5歳の息子が一冬の管理人として住み込んだ。S・キューブリックによる映画化作品でも有名な「幽霊屋敷」ものの金字塔が、いま幕を開ける。( 上巻 :「BOOK」データベースより )

すずめばちは何を予告する使者だったのか?鏡の中に青火で燃えるREDRUMの文字の意味は?絶え間なく襲い来る怪異の中で狂気の淵へ向かう父親と、もうひとつの世界へ行き来する少年。恐怖と憎しみが惨劇へとのぼりつめ、そのあとに訪れるものとは―。現代最高の物語作家、キングの精髄この一作にあり。( 下巻 :「BOOK」データベースより )

 

ある夫婦とその子供の、外界から隔絶されたホテルでのひと冬の物語を描いた長編のホラー小説です。

 

初期の傑作であり、キングの名を一般に知らしめた映画「シャイニング」の原作でもあります。

スタンリー・キューブリックとジャック・ニコルソンという、名監督及び名優で評判だった映画はヒットしました。私もこの映画からキング作品に入った人間の一人です。

 

 

本作品には「IT」(文春文庫全四巻)におけるような、この世のものではない、具体的な異形の存在そのものは出てきません。

しかし、代わりにこの家族を追い詰める意思とでもいうべき存在があります。ホテルの持つ「悪意」と言っても良いでしょう。

この「悪意」と少年ダニーの持つ「シャイニング」と名付けられた能力との戦いの物語でもあります。

 

 

本作も、やはりというか、当然というか、原作の書き込みの緻密さは読み手のイマジネーションをより膨らませてくれます。主人公家族の夫々の内面に深く入り込んで、物語世界の厚みや広さをどんどん広げてくれるのです。

キングの文章力の凄さはこの描写力に裏付けられた物語世界の構築力にあると思っています。ホラーということを忘れて是非読んでもらいたい一冊です。

 

本作品は2015になって続編が出版されました。書名を『ドクター・スリープ』(文春文庫全二巻)といい、本書の36年後のダニー、および本書の「悪」が具体化された「真結族」が登場し、最後の対決の場面を迎えます。

また、この続編はユアン・マクレガーの主演で映画もされています。

 

IT

1958年アメリカ、メイン州デリーに訪れた恐怖の殺人ピエロ、ペニーワイズ。
子どもばかりが次々と姿を消し、町中がパニックに陥る中、恐怖に立ち向かう7人の少年たち。
そして27年後の1985年、ペニーワイズが再び現れ子どもを襲い始める。
7人の仲間が再び集結、ペニーワイズに打ち勝つことはできるのか。

一本の電話が、六人それぞれの平穏を破る。長いあいだ記憶の底に眠っていたものを、揺り覚ます。
二十七年前、ある場所で、あることが起こった。そして、ひとつの約束がなされた。いま、その時がきたのだ。「さあ帰るんだ、故郷の町へ」。だれもそれを止めることはできない。たとえそれが、青天(ブルー)から暗闇(ブラック)へと渡ることになろうとも。( Amazon内容紹介より )

 

キングの代表作の一つでもある、文春文庫で全四巻にもなる長編のホラー小説です。

 

主人公七人の子供時代と成人してからの両方の時代が描かれます。

キングの回想シーンというか、1950年代の描写は実にノスタルジックです。その雰囲気を醸し出すためにも緻密な描写が必要なのでしょう。

青春小説、ファンタジー、ホラー等様々な要素がびっしり詰まったキングの最高傑作のひとつだと思います。少々長いけど、読了後の達成感はその読んだページ数以上のものがある筈です。

 

本書は1990年に一度映画化され、さらにその27年後の2017年にリメイクされました。

リメイク版は二部構成になっており、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」との邦題で公開され、大ヒットしました。