影の火盗犯科帳(一) 七つの送り火

公儀直属の鉄砲組を差配する山岡景之は、ある夜、白金台の刈田の中で卒塔婆に縛り付けにされている娘の亡骸に遭遇した。
翌日、火付盗賊改役就任の内意を告げられた景之は、さっそく初仕事として娘の死について調べることに。
甲賀忍者伴氏の末裔である山岡家は、家臣の中でとくに忍術に長けた者を選びぬき秘かに「影火盗組」を組織していた。
景之は火盗改方と「影火盗組」を率いて、次々に起こる奇怪な事件に立ち向かうのだが……。
家重の治世、民のために世の安寧を守り抜いた実在の人物を描く、
心意気あふれる新シリーズ! (解説・細谷正充)(「内容紹介」より)

 

本シリーズは、火付盗賊火盗改となった山岡吾郎作景之という実在の人物を主人公にした「影の火盗犯科帳」シリーズの第一巻である長編の痛快時代小説です。

 

まわりで火柱が立ち、娘が卒塔婆に縛り付けにされた状態で殺されるという事件が続き、火付盗賊改役に任命されたばかりの山岡五郎八景之がその事件解明するように申し付けられます。

山岡景之は古くからの甲賀忍者の頭の家系であり、その配下の忍びや、たまたま知り合った多田文四郎という男の知恵を借りながら、事件の裏にある壮大な企みをあぶりだすのでした。

 

影の火盗犯科帳シリーズ』の項でも書いたように、火付盗賊火盗改といえば池波正太郎の描く長谷川平蔵を主人公とした『鬼平犯科帳』を避けては通れません。

池波正太郎という大御所の描く世界は他の追随を許さないのです。

 

 

本書は、同様に火付盗賊改役を主人公とする時代小説ではあるものの、頭の山岡景之はその家柄から忍者集団の棟梁でもあり、配下の忍者を使って事件を解決していくという独特の設定となっていて、エンターテイメント小説としての要素をかなりの部分持ち込んだ小説として今後の展開が期待されます。

特に第一巻の本書の場合、北斗の星に関わりのある呪法などが登場し、修験道などとの関係も持ち込み、伝奇小説的な色合いが濃い物語となっています。

 

この舞台設定で思い出したのが、時代小説ではありませんが、荒俣宏の『帝都物語』(Kindle版)です。この物語は「風水」を絡めた話であり、関東の地下を走る地脈を操る魔人の加藤保憲を中心として展開する物語です。

映画化もされ、大ヒットをしたと記憶しています。

 

 

本書は風水ではありませんが、修験道という、同様に超自然的な力を利用した物語として展開します。

そこに景之が率いる忍者が戦いを挑むのです。

 

蛇足ながら、本書を読むときに、同時に朝井まかての『悪玉伝』も並行して読んでいたのですが、同じ人物が登場してきたのには驚きました。

時代背景が同じですから、同じ人物が登場しても何ら不思議ではないのですが、老中ではあっても、松平和泉守乗邑(のりさと)というあまりメジャーではない人物だったので少々驚いてしまったものです。

時代小説の醍醐味の一つだともいえるかもしれません。

 

影の火盗犯科帳シリーズ

影の火盗犯科帳シリーズ(2019年10月01日現在)

  1. 七つの送り火
  2. 忍びの覚悟
  3. 伊豆国の牢獄

 

本シリーズは、山岡吾郎作景之という人物を主人公に据えた長編の痛快時代小説です。

火付盗賊改役というと、池波正太郎の『鬼平犯科帳』があまりにも有名です。

鬼平犯科帳』という作品は、やはり実在の人物である火付盗賊改方長官の長谷川平蔵を主人公とする物語であり、他の追随を許さない作品として、八代目松本幸四郎や二代目中村吉右衛門ほかの役者を主役として幾度もテレビドラマ化もされた大人気小説です( ウィキペディア : 参照 )。

 

 

本書の主人公である山岡吾郎作景之という人物は、1756年(宝暦6年)に火付盗賊改に就任したという歴史上に実在した人物であり、甲賀忍者伴氏の末裔だという設定も歴史的な事実であり、そのことをもとに本書では忍者集団を率いて火付盗賊改の役務を全うしたという物語になっています。( ウィキペディア : 参照 )。

 

本書本文によりますと、火付盗賊改役とは、「泰平の世が続いてはいたものの、次第に凶悪な犯罪が増えて、次第に町奉行所だけでは治安維持が難しくなって」きたため、町奉行所よりも勝る武力を持った軍警察ともいうべき盗賊追捕の役を設けたものであり、「戦時には将軍先陣を切る精鋭である先手弓組、鉄砲組の頭が加役として兼務した」とありました。

 

本シリーズの登場人物としては、主人公である御先手鉄砲組頭であった山岡景之がまずいます。

そもそもこの山岡家はもともと甲賀忍者を率いる小領主の家柄であり、明智光秀の謀反である本能寺の変の際し、徳川家康が逃走のために伊賀越えを行ったときに服部半蔵らと共に景之の先祖である山岡景佑がこれを助けたことにより徳川家に召し抱えられたそうです(本書本文より)。

その甲賀忍者の領主であった地位はこの物語の時代にも貫かれており、景之は彼ら忍びの力を借りて火盗改めの役務を果たすことになっているのです。

その「影火盗組」と呼ばれる忍びの集団として景之を助けるのが小姓頭の芥川光之進であり、また若党の黒川雄四郎、中間の五平、侍女のという四人です。

それに、かつて景之が世話になり、第一巻の第一話でも登場する六道の辻の弥三郎が「影火盗組」に加わります。

また、学才に長けた能筆の素浪人として多田文四郎がおり、さらに火付盗賊改め方与力の八田左近が景之を助けます。

他に、景之の家族として、妻の美里がおり、景之は何かにつけこの美里に助けられています。また草八郎という数えで十三歳になる一人息子がいます。

そして、田沼意次大岡忠光という歴史上の大物が景之の上司として登場しています。この大岡忠光はあの大岡越前守忠相の縁戚にあたる人物だそうです( ウィキペディア : 参照 )。

 

以上のような登場人物が、さまざまな事件を解決していくことになりますが、少なくとも第一巻に関してはかなり伝奇小説的な色合いを持っており、通常の痛快時代小説とは少々雰囲気を異にしています。

ともあれ、少々毛色の変わった時代小説としてひさしぶりにを読んでみる気になったシリーズです。