『警視庁心理捜査官 KEEP OUT II 現着』とは
本書『警視庁心理捜査官 KEEP OUT II 現着』は『警視庁心理捜査官シリーズ』の第三弾で、徳間文庫から2016年2月に刊行され、2021年6月に392頁の新装版として出版された、警察小説集です。
短編二編と中編一編の計三篇が収められた、吉村爽子とその上司の柳原明日香の二人を中心に置いた痛快ともいえる作品でした。
『警視庁心理捜査官 KEEP OUT II 現着』の簡単なあらすじ
男社会の牙城ともいえる警察組織。何かというと、女はすっこんでろ! とドスを利かせた台詞が飛び交ったりするものだが、どっこい、この二人にはそんなものは蛙の面にションベン、右から左への吹き流し。下手すりゃ、言ったほうが大ヤケドを食らってしまう。警視庁心理捜査官シリーズの名コンビ、柳原明日香と吉村爽子。部内の権力闘争の結果、公安部から捜査一課に異動した明日香(『公安捜査官 柳原明日香』)。ある事件での規律違反を問われ警視庁捜査一課から所轄の多摩中央署に都落ちした爽子(『警視庁心理捜査官』『Keep Out』)。二人あるところに難事件あり。硬直した頭脳の持ち主の男刑事たちを尻目に、しなやかにしたたかに事件を解決に導く。ネオ警察小説の旗手が送る全三篇の事件簿。こんなに正々堂々と本筋で女が大活躍する警察小説、ほかに見たことがない!(内容紹介(JPROより))
『警視庁心理捜査官 KEEP OUT II 現着』の感想
本書『警視庁心理捜査官 KEEP OUT II 現着』は『警視庁心理捜査官シリーズ』の第三弾で、二編の短編と本書のために書き下ろされた中編の計三篇が収められた、小気味のいい作品です。
第一話の「嗤う女狐」は、柳原明日香が主人公の短編です。
この第一話は時が戻り、吉村爽子が柳原明日香が主任を務めている警視庁刑事部捜査第一課の第二特殊班捜査四係に新しく配属された時点から始まります。
ところが犯人と目される男の観察拠点にいた池袋署の機動捜査隊の芦原と名乗る警部を中心とした捜査員たちは、ある意味有名人の公安上りの柳原明日香を目の敵にしている男たちだったのです。
この話は、ミステリーというよりは、柳原明日香という人物のユニークさを前面に押し出した作品です。
「女」というだけで差別的な視線を向ける男たちに、明日香の「公安の女狐」と呼ばれた実力を見せつける痛快小説です。また、まだ何もわからない爽子を育てようとする明日香自身の気持ちに気づいた事件でもあります。
第二話の「寝台刑事」は、支倉由衣が主人公の短編です。
現場には多摩中央署庁舎内に分駐所を持つ第九方面自動車警ら隊や第三機動捜査隊も出動しており、慣れない支倉は同じく宿直当番でかつて自身が所属していた盗犯係の元田孝造巡査部長と共に事件現場に駆け付けます。
支倉以外の捜査員たちは事件性がないと判断しようとするところでしたが、疑問を抱いた支倉は単身待機寮で眠る爽子に電話をし、自分の違和感を告げるのです。
前話では先輩の柳原明日香の背中を見ていた爽子ですが、この話では爽子の背中を後輩が追いかけています。
安楽椅子探偵的な立場の爽子の姿が描かれ、若干都合がよすぎる気もしますが、話としてそれなりに楽しめた物語でした。
第三話の「嵐の中で」は、柳原明日香係長と吉村爽子の二人を中心とした中編というよりも長編と言った方がよさそうな物語です。
そんな時、爽子の所属する多摩中央署では捜一第二特殊犯捜査第五係の柳原明日香係長は別の殺人事件に駆り出されていたのです。
八王子署での事件で捜査本部の意見と対立する爽子と、多摩中央署での事件を担当する柳原明日香とがタッグを組み事件解決に邁進し、二人と対立する敵役として園部係長ら設定されています。
この話でも爽子のプロファイリング技術はそれほど語られてはいません。それよりも、女性捜査官を格下に見る男たちと戦う柳原明日香という女性捜査官の活躍する姿をメインにした痛快物語だと思えてきました。
ちなみに、この話で柳原明日香は捜査五係の係長ということになっていますが、第一話の「嗤う女狐」では捜査四係と記されています。この点については、特殊班増設に伴い第二特殊班捜査五係になったとの説明がありました。
結局、このシリーズは当初は心理捜査官である吉村爽子が主人公の警察小説だと思い読み始めたのですが、この第四弾まで読み進むと、結局は吉村爽子に加えてその上司の柳原明日香も加えた二人が主役のシリーズだと思えてきました。
いずれにしても、エンターテイメント小説として楽しく読めるシリーズですので読み続けたいのですが、わが図書館にはシリーズの途中までしか収納されていないようです。
残念ですが、あるだけの作品を読みたいと思っています。