『黄色い家』とは
本書『黄色い家』は、2023年2月に中央公論新社から608頁のハードカバーで刊行され、王様のブランチでも特集された長編の青春小説です。
また2024年の本屋大賞にもノミネートされ、数々のメディアにも取り上げられた話題の作品ですが、個人的な好みとは異なる作品でした。
『黄色い家』の簡単なあらすじ
2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶ー黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな“シノギ”に手を出す。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい…。善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作!s(「BOOK」データベースより)
『黄色い家』の感想
本書『黄色い家』は、主人公の伊藤花を中心とした四人の女の生活を描いた長編の青春小説です。
2024年本屋大賞では第六位となり、第75回読売文学賞(小説賞)や王様のブランチBOOK大賞2023を受賞し、数々のメディアにも取り上げられた話題の作品です。
本書については、冒頭では「青春小説」と明記しましたが、多くの声は「クライム・サスペンス」と紹介する場合が多いようです。
本書『黄色い家』の主人公の伊藤花は育児放棄ともとられかねない自身の親元から逃げ、若干十七歳で母親の知人であった吉川黄美子という女性のもとに転げ込み、貴美子のスナック「れもん」を手伝いながら共に生活を始めます。
その生活にキャバクラに勤めていた加藤蘭、金持ちの娘である玉森桃子の二人が加わり、四人の生活が始まります。
こうして、本書の中ほどまでは特に主人公の花の心象を中心に描きつつ、花を中心とした四人の生活が描かれていきます。
その過程が、家族問題や友達との新しい関係も含め、まさに青春の一側面を描いていると感じたのです。
ところが物語も中盤を過ぎるころ、四人の生活に次第に影が差すようになってくると物語はクライムノベルへと変化していきます。
「れもん」の経営もうまくいかなくなり、日々の生活を維持するという現実に直面したとき、彼女らは闇の世界の「シノギ」に手を出し始めるのです。
この「シノギ」が犯罪の一端を担う仕事であり、そこから四人の生活の転落が始まります。
本書『黄色い家』では、悲惨な暗い過去を持った登場人物たちの過去をこれほどの描写が要るのかと思うほどに詳説してあります。
その緻密な描写があってこそ物語に真実味が加味されるということは理解できます。
主人公やそのほかの登場人物の心象をこれでもかと精密に描き出すのは、対象となる人物の存在を明確にするためだと思われるのです。
本書の帯には「人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのか
」との文言が記してありました。人が犯罪に走る理由の一端を明らかにしているということなのでしょう。
しかしながら、この緻密な描写が冗長に過ぎないかと思ってしまいました。
読書にひとときの安らぎを求める私にとって、この手の作品は読むのに努力が必要であり、どうしても感情移入ができない、苦手な作品というほかありません。
でも、日々の出来事までも詳細に描写しながら、また人物の心象をもこれほどまでに描写しなければならないのか、不思議にさえ思えたのです。
何度か読むのを辞めようかと思いましたが、本書は本屋大賞の候補になっているくらいだから読む価値がないわけはないと自分に言い聞かせ、何とか読み終えました。
本屋大賞にノミネートされた本書と同様に私が苦手とした作品の中の一冊として、町田そのこの『星を掬う』という作品があります。
この作品もまた、2022年本屋大賞の候補となるほどに評価された素晴らしい作品ですが、破滅的な家族、家庭が主題になっていて、私の好みとは異なる物語でした。
本書『黄色い家』が本屋大賞の候補作となっているのにはやはりそれなりの理由があると思われ、それは、四人の生活が少しずつ、本当に少しずつ壊れていく後半になって明確に理解できます。
しかし、本当に読み通すのに力が要りました。
結局、いい本ではあるけれども私の好みとは異なる作品だったというしかありません。