眩暈

私立探偵の畝原はある夜、なにかから逃げている様子の少女を目撃する。乗っていたタクシーで慌てて引き返すものの、少女の姿は忽然と消えていた。翌日、無残な遺体となって発見される少女。畝原は、自責の念から独り聞き込みを行うが、少女の両親の態度に不審を抱くのだった。さらに、かつて連続殺人を犯した少年が周辺に住んでいるという噂が…。果たして少女殺害事件との関わりはあるのか。そして第二の殺人事件が―。私立探偵・畝原シリーズ待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第七弾の長編ハードボイルド小説です。

 

人気作家なのだから当たり前ではあるのだけれど、この作家は物語の作り方が上手いと思います。

このシリーズでも人物造形が極端だとは思いながらも、ありがちとも思える人物、そこまで行くかという人物が多数登場し、そうした人物がストーリーを面白くさせていることもまた間違いないと思われます。

謎解きが好きな人たちには物足りなさがあるかもしれませんが、個人的には、ストーリー重視の物語が好きなので、なお更にはまるのだと思っています。また、社会派と言われる作家の方が好みだし、この人も現実社会に起きている事件をヒントに物語を構築しているようで、そこが私の好みに合うのでしょう。

主人公が家に帰り、家族の日常の微笑の中に幸せを感じるくだりなど、私の好みにぴたりとはまるのです。

挑発者

「エスパーを自称する男から父親を救ってほしい」―私立探偵・畝原に依頼してきた男は、飲食店を運営する会社の専務で美咲と名乗った。巽大人という怪しげな男に父親である社長が惚れ込み、多額の投資を進めているというのだ。社長の前で巽の詐称を暴く畝原。巽を撃退し、事は済んだかに思われた…。後日、クラブ・キャストたちのミスコンテストの素行調査を依頼された畝原は、その途中何者かに襲われる―。傑作長篇ハードボイルド。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

クラブ・キャストたちのコンテストの素行調査を行っていた畝原は、その帰りに何者かに襲われた。畝原が撃退した、自称エスパーの巽たちの仕業なのか。そんな矢先、巽たちの詐欺商法を証言した男が、殺害される事件が起きた。さらに、取材したテレビ・クルーも行方不明に。一方、調査を重ねるごとにミス・コンテストの女性たちに不審な動きが…。身の危険を感じつつ、畝原は真相に近づく。待望の完結篇。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第六弾の長編ハードボイルド小説です。

 

似非超能力者の正体を暴いたことで、正体不明の集団から襲われる毎日を送ることになります。主人公はそうした中でも仕事は続けなければならず、キャバクラの女たちのミスコンのための身辺調査や、夫の浮気調査をこなしています。

そうした日々の中で殺人事件が連続し、事件は主人公の畝原が請けた調査に絡んでくるのです。

 

シリーズの流れの中で、新しい生活を得た畝原の身辺は相変わらず暴力の危険に満ち溢れており、家族もその渦中に居ます。

普通のスーパーマーケットで買ったシャツを着る等身大の主人公の生活の中で、この理不尽な暴力への接触だけが特殊で、その特殊な環境の中でこそ主人公の活躍の場面があるようです。

並行する事件の中での殺人事件、その残酷さ、それにより引き起こされる悲哀が丁寧に描写され、一方で家庭の温かさが描かれます。

暴力に対して強さを持つ半面、人間としての弱さをも併せ持つ主人公の行動は、その点で読者に共感を呼ぶのではないでしょうか。

 

ストーリーは若干冗長な点が無きにしも非ずと感じたのですが、それよりも数段面白さの方が勝ち、長編であることを忘れさせてくれました。

墜落

女子高生の素行調査を引き受けた私立探偵畝原は、その行動に驚愕した。ホストクラブに出入りし、そのお金を稼ぐために老人に身体を売っていたのだ。一方、猫の首なし死体が投げ込まれるという相談を受けた畝原は、依頼主の経営する駐車場で、殺人事件に巻き込まれる。畝原を狙ったものなのか?彼が受けた二つの依頼に、ある共通点が見えた時、事件の恐るべき実体が明らかになる―。私立探偵畝原シリーズ、待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第五弾の長編ハードボイルド小説です。

 

本書に関しては、読んだのが遠い昔であり、かつ時のメモが残っていないため、レビューを書けません。申し訳ありません

熾火

私立探偵・畝原は、足許に突然縋りついてきた少女に驚きを隠せなかった。彼女は血塗れで、体中が傷ついていたのだ―。言葉も発することなく意識を失った少女。だが、収容先の病院で、少女を狙ったと思われる人物たちに、畝原の友人・姉川が連れ去られてしまう。何かを隠すような警察の捜査と少女の疵跡は、何を意味するのか。姉川を救うため、畝原は恐るべき犯人と対峙する。傑作長篇ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

本書に関しても、読んだのが遠い昔であり、かつ時のメモが残っていないため、レビューを書けません。申し訳ありません

悲鳴

ごくありふれた浮気調査のはずだった。私立探偵・畝原の許へ現れた女は、夫の浮気現場の撮影を依頼してきた。だが、畝原が調査を始めると依頼人から指定された現場に現れたのは夫の本当の“妻”だったのだ。依頼人の女は、何者なのか?やがて畝原へのいやがらせが始まり、依頼人の女に関わった者たちに危機が。警察、行政をも敵に回す恐るべき事実とは何か!?深く刻まれた現代の疵を描く、傑作長篇ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

本書に関しては、読んだのが遠い昔であり、かつ時のメモが残っていないため、レビューを書けません。申し訳ありません。

流れる砂

私立探偵・畝原の受けた依頼は、些細なマンションの苦情だった。女子高生を部屋へ連れ込む区役所職員の調査の中で畝原は、彼の父親が、口を封じるように息子を殺して心中する現場に遭遇してしまう。だがそれは、札幌を揺るがす事件の序章に過ぎなかった…。翌日、行方不明の娘を持つ女性の素行調査を依頼された畝原は、殺された職員との恐るべき関係を掴むが―。関係者が殺されるなか、畝原は、巨大な闇の真相に辿りつけるのか!?傑作長篇ハードボイルド。(「BOOK」データベースより)

 

探偵・畝原シリーズの第一弾の長編ハードボイルド小説です。

 

正統派の探偵の活躍です。

少々調査の対象となる人物造形が極端すぎるかと思わないでもないのだけれど、その説明も主人公の口を借りて為されていて、まあ、そういう人物もいないことも無いかと自分を納得させてしまいます。それくらい、ストーリーに絡む主人公の行動が興味を引き、物語の中に入ってしまいました。

本『探偵・畝原シリーズ』には『ススキノ探偵シリーズ』のような明るさは殆ど無いのですが、これはこれで面白く読ませてもらっています。

待っていた女・渇き

八年前、卑劣な罠で新聞記者を追われた畝原は、以来探偵として一人娘の冴香を養ってきた。ある日、畝原は娘の通う学童保育所で美貌のデザイナー・姉川明美と出会った。悪意に満ちた脅迫状を送りつけられて怯える彼女の依頼を受けた畝原は、その真相を探りはじめたが―。畝原と姉川が出会う猟奇事件を描いた短篇「待っていた女」と長篇「渇き」を併録した、感動のハードボイルド完全版。(「BOOK」データベースより)

 

本書は探偵・畝原シリーズの第一弾の長編ハードボイルド小説です。

 

守るべき過去はない。だが、守るべき人がいる。私立探偵畝原の許に舞い込んだ奇妙な依頼は北の都市・札幌を揺るがす事件へと発展していった―今、最も期待される作家が描く、書下ろし長篇ハードボイルド小説。(「BOOK」データベースより)

 

上記文章は、当初出版されていた勁文社版の『渇き』という単行本の紹介文です。

この『渇き』と『待っていた女』という短編との、このシリーズで重要な役目を担っている姉川明美との出会いを含め、姉川が絡んだ事件をテーマにした作品がハルキ文庫から出版されたのが上記のAmazonリンクのイメージのものです。

 

 

そして、下記は『渇き』についての私のメモ、別ブログでの私の文章です。

 

やはり、というか、それなりに面白く読むことができました。

ただ、どうしても『ススキノ探偵シリーズ』の「俺」と比べてしまうのだけれど、ススキノ探偵の方が私の好みではありました。

どこが違うのだろう、と考えてみると、まず、ススキノ探偵の方が時間的に後で書かれている、という点があります。その分作者の表現力が増して読み手として満足できたのかもしれません。

でも、一番の理由は登場人物のキャラクターでしょうか。ススキノ探偵の方が軽妙ですっきりしています。こちらは、娘持ちで生活感一杯です。

何より、作品として、他の作家のハードボイルド作品との差別化があまり無い感じがします。

ストーリーは面白いです。でも、そこに「畝原」で無ければならない必然性があまり感じられず、他の作家の作品を押しのけてまでこの本を読みたいと思わせるものが今一つの感じです。

 

本書は、本「探偵・畝原シリーズ」の重要な登場人物である姉川明美との出会いが描かれる本作品だけど、内容自体は別に特別なものではありません。

単純に姉川明美に付きまとう怪しい人物の調査という、ごくありふれた事件であり、結末も本シリーズでは別に特別なことではないのです。

本当に、ただ姉川明美との出会いが描かれているというだけ、なのだけど、『ススキノ探偵シリーズ』と共に本『探偵・畝原シリーズ』のファンでもある私としては、その出会いこそが大切であり、更にはタクシー運転手の太田さんなども登場する大切な一編でした。

でも、この作家の作品はまたすべて追いかけて読むと思います。

探偵・畝原シリーズ

探偵・畝原シリーズ(2018年10月29日現在)

  1. 待っていた女・ 渇き
  2. 流れる砂
  3. 悲鳴
  4. 熾火
  5. 墜落
  1. 挑発者
  2. 眩暈
  3. 鈴蘭

 

ススキノ探偵シリーズ」とは異なり、正統派のハードボイルド作品です。

饒舌な「俺」とは異なり、一人娘を溺愛するよき父親でもある主人公は無駄口をたたくことは殆どありません。

志水辰夫の叙情性はなく、北方謙三のクールさもありませんが、とても読みやすい文章で、各巻共かなりの長尺なのですが長さのわりに割と楽に読めると思います。

 

どうしてもこの作家の「ススキノ探偵シリーズ」と比べてしまい、確かに、ススキノ探偵の方が私の好みではあるのです。しかし、本シリーズも面白い作品であることは間違いありません。社会の矛盾を毎回のテーマとし、その矛盾からくる事件に正面から取り組む主人公の魅力は「俺」に勝るとも劣らないものがあります。

本シリーズも主人公を取り巻くキャラクターがよく配置してあり、物語世界に浸っていれば、気付けば時が過ぎていることでしょう。

こちらのシリーズの方が正当派な分だけ好きだという人もかなりいるのではないでしょうか。

猫は忘れない

知り合いのスナックママ、ミーナから、旅行中の飼い猫の世話を頼まれた“俺”は、餌やりに訪れたマンションで、変わり果てた姿となった彼女を発見する。行きがかりから猫のナナを引き取り、犯人捜しを始めた“俺”は、彼女の過去を遡るうちに意外な人物と遭遇、事件は予想外の方向へと進展するが…猫との暮らしにとまどいながらも、“俺”はミーナの仇を取るためにススキノの街を走り抜ける。ススキノ探偵シリーズ第12作。(「BOOK」データベースより)

やはり出版年が新しい作品の方が面白い、と言うより作品がきちんと纏まっている気がする。

知り合いのスナックママ、ミーナから、旅行中の飼い猫の世話を頼まれた“俺”は、餌やりに訪れたマンションで、変わり果てた姿となった彼女を発見する。行きがかりから猫のナナを引き取り、犯人捜しを始めた“俺”は、彼女の過去を遡るうちに意外な人物と遭遇、事件は予想外の方向へと進展するが…猫との暮らしにとまどいながらも、“俺”はミーナの仇を取るためにススキノの街を走り抜ける。ススキノ探偵シリーズ第12作。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の長編第十一弾となるハードボイルド小説です。

 

やはり出版年が新しい作品の方が面白い、と言うより作品がきちんとまとまっている気がする。

半端者 – はんぱもん –

授業にも出ないで昼間から酒を飲み、思い通りにならない現実に悩みながらも、また酒を飲む。ひょんなことから知り合った謎のフィリピン女性、フェ・マリーンと恋に落ちた大学生の“俺”は、行方不明となった彼女を捜して、ススキノの街をひたすら走り回る。若き日の“俺”、高田、そして桐原の人生が交錯し、熱く語らい、ときに本気で殴り合う。デビュー作『探偵はバーにいる』の、甘く切ない前日譚が文庫オリジナルで登場。(「BOOK」データベースより)

 

「ススキノ探偵シリーズ」の長編第十弾となるハードボイルド小説です。

 

本書の刊行が2011年3月ですから、やはり、作品を重ねるにつれて面白さも増してくるように思えます。

確かに、中には後で出版されたから面白いとはいえない作品もあります。しかし、基本的に経験は大きいのではないでしょうか。

本作品も第一作に比べると格段に練れている印象を受けます。でも、もしかしたら、内容がシリーズ第一作よりも前の時代設定であり、主人公の青春記的な側面も持っているのでそう思うのかもしれませんが。

ただ、フィリピーナが突然に主人公の「俺」に好意を寄せるなど唐突と言えなくもない点もありますが、そうした事柄は殆ど気になりません。それよりも、後々のこのシリーズの重要メンバーの高田や桐原との出会いなどが描かれていて、そちらの方に関心が高まりました。