恋歌

本書『恋歌』は、文庫本で384頁の長編小説で、第150回直木賞を受賞した感動作です。

明治期の歌人中島歌子の彼女の夫に対する想いを描いた、上質な文章が光る読みがいのある作品でした。

 

恋歌』の簡単なあらすじ

 

樋口一葉の師・中島歌子は、知られざる過去を抱えていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗堂の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く、直木賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

恋歌』の感想

 

中島歌子は、明治時代の小説家であり歌人であった、三宅花圃(かほ)樋口一葉らの師であり、歌塾「萩の舎」(はぎのや)を主宰していた歌人です。

その名前だけは知っていたのですが、樋口一葉らの師であったとは知りませんでした。

中島歌子は水戸の藩士に嫁ぎましたが、その夫が天狗党の乱に加担したために自身も投獄されたといいます。

その獄に繋がれていた間やその後の歌子のことを、作者朝井まかてなりに解釈をして脚色を加えた小説が本書です。

 

本書『恋歌』は、歌子の女中であったと先に述べた三宅花圃とが語り部となって歌子の手記を読む、という体裁になっています。

その文章は格調高く、随所に挟まれる短歌と共にこの作品全体の雰囲気を決定ずけています。

気丈で気位が高く奔放であった歌子の生涯が、落ち着いた、品格を保った文体で語られていながら、最後まで物語としての興を残しながら読者を引きつけています。

そこでは歌子の夫への恋い慕う想いが語られているのです。

『恋歌(れんか)』という表題が読後に心の底に落ち着きました。

 

一方、明治維新時の時代の動きを今までとは異なった、水戸藩の視点から描写しているという点でも面白く読んだ作品でした。

水戸藩内部の抗争など、今まで読んだ本ではあまり書いてなかった事柄について、水戸藩からの観点で語られる点が新鮮だったのです。

 

品のある文章と、示される短歌の格調高いしらべとに、贅沢なときを感じながらの読書となりました。

本書のような作家、そして作品を知った時に読書の楽しさと、幸せを感じます。貴重なひとときでした。