『カフネ』とは
本書『カフネ』は、2024年5月に講談社から304頁のハードカバーで刊行された、長編の現代小説です。
さすがに2025年の本屋大賞を受賞した作品だけあってとても読みやすく、その上いろいろな人生パターンをも垣間見せる構成で、かなり惹き込まれて読んだ作品でした。
『カフネ』の簡単なあらすじ
一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。やさしくも、せつない。この物語は、心にそっと寄り添っている。法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。(「BOOK」データベースより)
『カフネ』について
本書『カフネ』は、様々な人生パターンを垣間見せつつ、成長していく主役二人の関係性を描き出している作品で、2025年の本屋大賞、第8回未来屋小説大賞、さらに第1回あの本、読みました?大賞を受賞した作品です。
本書のタイトルである「カフネ」とは、「愛する人の髪にそっと指を通すしぐさ」という意味のポルトガル語だそうです。
この言葉を「カフネ」の社長が会社の名前にしたのであり、忙しさのために心を失くしかけているような人たちが愛する人の髪に手をのばすことができる時間が持てるように、という思いを込めてあるそうです。
この言葉はクライマックスでさらに生きてきます。ぜひ実際読んでみてほしいと思います。
本書は登場人物が多彩です。登場人物の説明は私が読んだ新刊本に挟み込まれていたリーフレットに主要な五名が記載してありましたので転記しておきます。
野村薫子:法務局に勤務している41歳女性
野宮春彦:薫子の弟で小野寺せつなの元恋人:製薬会社の研究職
小野寺せつな:家事代行サービス会社「カフネ」勤務:春彦の元恋人
滝田公隆:41歳、薫子の元夫で弁護士。
常盤斗季子:「カフネ」の代表。薫子の数歳年上。
野村薫子と小野寺せつなの主役二人のキャラクター設定がうまく、物語設定も含めて素直に読み進めることができました。
この主役二人の会話の掛け合いの面白いのです。薫子の弟の死という明るくない状況のもとでもこの二人の会話に引っ張られて物語の展開がスムーズに展開していきます。
主役二人の個性の強さは改めて言うこともないのですが、彼女らをサポートすることになる家事代行サービス会社「カフネ」の社長のトキさんこと常盤斗季子をはじめとする個性豊かな人たちの存在はこの物語の奥行きを深くしています。
ただ、この人物の多彩さという点は、物語のリアリティとしては逆方向の働くようにも感じました。
というのも、これほどまでにユニークな人材が集まることなど現実にはそれほどないのではないかと思ってしまったのです。
つまりは、主役の二人だけでなく、本書の登場人物たちのそれぞれのキャラクターが皆ユニークであり強烈すぎるのでしょう。
でも、そう言う指摘は言いがかりに近いものでもあり、読者の勝手すぎる感想だとも思っています。
本書『カフネ』では、掲載されている料理の描写が見事です。実においしそうに描かれています。そのうえで、その料理が物語の進行上とても重要な役割を果たしています。
先にも述べたように、私が読んだ新刊書には、登場人物と本書に登場する種々の料理のレシピが載ったリーフレットが挟まれていました。
このリーフレットは本書の公式サイトでも見ることができます( 阿部暁子『カフネ』公式サイト 講談社 : 参照 )。
また、このリーフレットには人気ユーチューバーの「まい(Mai)」さんによる料理の写真も載っています。
小説の中で「料理」が重要な役目を果たしている作品といえば、例えば町田そのこ の『宙ごはん』も挙げていいかもしれません。
この物語は、母でいることのできない母親とその娘の姿を、一人の料理人の料理を作る姿を挟みながら描く、感動的な家族小説です。
料理の場面が印象的な作家といえば『池波正太郎』ですが、『剣客商売』などはここで挙げるには不都合かもしれませんが、物語の情景の一つとして小説の重要な要素になっているという意味では当てはまるかもしれません。
つまるところ、本書『カフネ』の魅力は、作者の文章の読みやすさと中心人物の二人がそれぞれに救い、救われていくその流れが読み手の心に確実に沁み込むところにあるのでしょう。
かなり惹きこまれて読んだ作品でした。
