築地の読売「末成り屋」。その主、水月天一郎の元へ勘定吟味役と水油仲買商人が癒着しているとの情報が入った。探索を始めた天一郎はすぐに何者かに襲われる。そして、新たに入った情報を追う天一郎の前に現れた侍たちの影。正義のため瓦版に命をかける天一郎の剣が煌めく。迫力の剣戟に、胸躍る展開、心を打つ物語―。大人気の著者が放つ渾身の新シリーズ第一弾。(「BOOK」データベースより)
読売屋天一郎シリーズの第一弾の長編の痛快時代小説です。
ベストセラーとなった『風の市兵衛シリーズ』の辻堂魁による、瓦版屋である主人公水月天一郎が仲間とともに走り回る痛快活劇小説です。
部屋住みだった水月天一郎ですが、家を出て、絵師の錦修斎、彫師であり摺師でもある鍬形三流、そして売り子の蕪城和助の三人の部屋住み仲間と共に築地で読売屋「末成り屋」を始めます。
天一郎は、勘定吟味役の高石友則が油問屋の株仲間のことで賄賂を受け取っているという噂を聞きこみ調べ始めますが、何者かに襲われます。
役職に就こうとする旗本の不正を暴くという、現代で言う新聞記者ものといえるでしょう。
そこに、聞きこんだ公儀小納戸衆旗本の筒井太七郎という者が島帰りだとの話が絡んできます。
言わば、人情話の色合いも添えられた活劇小説というところであって、そう言ってしまえば普通の物語ということになってしまいます。
そして、少なくとも本書を読んだ限りでは、情感豊かに物語の厚みも感じた『風の市兵衛シリーズ』の作者が書いたものとは思えませんでした。
面白くないというのではなく、辻堂魁という作者の作品にしては、ということです。単純に本作品だけをみると、普通の活劇小説のちょっとだけ重さを感じる作品、というところでしょうか。
しかしながら、やはり辻堂魁という作家の作品という期待はものすごくあるので、またシリーズ続編を読むことになるのだと思います。
と以上のように書いたのが二年半くらい前のことです。
その後、『風の市兵衛シリーズ』はテレビドラマ化もされ、一大ベストセラーになり、辻堂魁の小説も多くのシリーズが書かれ、更なる人気作家となりました。
だからなのかもしれません。本書の続巻を二年半後に読んでみると、本シリーズも最初に読んだ印象とは違った印象のシリーズとなった気がします。
それだけ私自身も世間の評価に流されているということでしょう。同じことは『夜叉萬同心 冬かげろう』でも書いているので、私の感想もあてにならないようです。