旗本の息子・水月天一郎と御家人の息子たちで営む読売屋“末成り屋”。謎の女お慶と同居する読売屋の売子・唄や和助が襲われ、囚われの身となった。朋輩の救出に決死の覚悟で臨む天一郎たち。一方、“末成り屋”の後見をしている座頭の玄の市にも危機が迫る。天一郎の怒りの剣は友情と正義を貫けるか。感涙必至のラスト!人気上昇中の著者渾身のシリーズ第五弾。(「BOOK」データベースより)
読売屋天一郎シリーズ第五巻の長編痛快時代小説です。
読売屋の末成り屋の売子である唄や和助のもとにお慶と名乗る若い女が転がり込んでいました。
正体不明のその女は江戸屈指の材木問屋「朱雀屋」の一人娘のお真矢でしたが、朱雀屋主人の清右衛門の後沿いのお津多が自分の息子に朱雀屋を継がようと画策していたのを察し家から逃げ出したのです。
また、お津多は息子のためにと七万三千石の大名である小平家の隠居了楽の借入の要求に応えるため店の金を持ち出していました。
一方、天一郎の師匠である玄の市は、小平家の隠居了楽のために旧友内海信夫の頼みで百両という金を貸しだします。しかし、了楽は浪費をいさめる内海を手打ちにしてしまうのでした。
これまで天一郎本人、そして絵師の錦修斎、彫師の鍬形三流と末成屋の仲間の各々の過去をたどり、その人物像を明らかにする物語が続いてきました。
そして本書『笑う鬼』では、売り子の唄や和助と天一郎らの師匠である座頭の玄の市を中心とした物語になっています。
特に玄の市に関しては、若い頃の友が今に連なり、過去の亡霊が座頭となった玄の市の今に大きく絡んできます。
玄の市は本名を岸井玄次郎といい、「習いもせずに算盤ができ、四書を諳んじ、しかも城下の新陰流の道場では十代の半ばにして師匠をしのぐ腕前だった」というほどの秀才ですが、目を病み、故郷を出ることになったのでした。
さらにその玄の市の事件に和助の危機まで加わり、結局は一連の流れになっていいくのです。
物語としては単純な構図です。
老舗大店の跡目をめぐって、病に倒れた主と跡目を次ぐことになっている先妻の娘がおり、それに対し自分の子を跡目としたい後添えとの対立があります。
加えて、浪費癖のあるとある大名の隠居の無分別な金銭の借り入れという事実があり、更にはその浪費癖のある隠居と玄の市との因縁が加わっているのです。
以上のような骨子に、和助と娘との出会いがあり、その娘への危難に和助が巻き込まれ、天一郎らの出番となります。
こうした物語の単純な流れに人情劇という肉付けがなされ、痛快小説としての体裁が整えられていくのですが、そのさまが実に読みごたえがあります。
というよりも、痛快時代小説としての構成が一般の、そして私の感覚にあっているというべきなのかもしれません。
読み続けたいシリーズの一つです。