『鬼しぶ』とは
本書『鬼しぶ』は、2025年07月にコスミック出版から352頁の文庫版書下ろしとして出版された、長編の時代小説です。
この作者の作品はかなり読んでいたのですが、本書に関してはどうにも感情移入できない物語だったとしか言えないのがとても残念でした。
『鬼しぶ』の簡単なあらすじ
「あいそねえ」「金がねえ」「出世しそうにねえ」北町奉行所の平同心・渋井鬼三次は、景気悪そうな面構えのせいか、そう陰口を叩かれていた。さらに「女にもてねえ」、「女房子供にも見限られた」とも。そんな渋井に期待する人物がいた。お奉行の永田備後守である。渋井の「少々癖のある性根が、探索にはうってつけである」らしい。札差の若旦那が拐かされて、身代金三千両を奪われた事件が発生、その真相究明を命じられる。渋井は岡っ引きの助弥と、物真似芸の大道芸人で見目麗しき人気者・菊市と共に、粘りある探索で影さえ見えぬ犯人たちに、僅かな手掛かりで迫っていく。「風の市兵衛」の濃厚脇役・渋井鬼三次が主役になって大活躍!(「BOOK」データベースより)
『鬼しぶ』の感想
本書『鬼しぶ』は、『風の市兵衛シリーズ』のスピンオフの長編の時代小説です。
とても残念なことに、どうにも感情移入できないとしか言えない作品でした。
この作者の『風の市兵衛シリーズ』が、江戸時代を”経済”という新しい視点から見ていながらも、主人公の設定が非常に小気味よくて好みの物語だったので、この作者のほかの作品もずっと追いかけてきました。
近年の『介錯人別所龍玄始末シリーズ』なども若干マンネリ感のあった 辻堂魁という作者の時代小説に新しい印象をもたらしてくれていたと思っていたのです。
しかし、『風の市兵衛シリーズ』の魅力的な脇役であった「鬼しぶ」こと渋井喜三次を主人公とする本書は、期待値が高かったこともあってか、残念な読後感となってしまいました。
そもそも辻堂魁という作家の作品は、丁寧な情景描写と人情噺的物語展開が一つの魅力ではあったのですが、それも近年ではしばしば悪い意味で通俗的な人情ものへと堕してしまいがちな印象がありました。
その上で、当初は丁寧な描写という印象であったはずのこの作者の緻密な描写が、この頃は過剰な状況説明との印象に変わってきたのです。
そして、さらには台詞回しも説明的に感じるようになっており、物語にもマンネリ感を感じるようになってきていたのです。
本書などはまさにその典型であって状況説明はもう少し簡潔にしてほしいと思ってしまいましたし、台詞回しも同様に説明的でした。
また、捕物帳としても今一つでしたし、何より、主役の渋井喜三次にあまり魅力を感じられなかったのです。
近年の時代小説作家としてとても好みの作家さんであっただけに、本書の印象はかなり残念でした。
本書がシリーズ化されるかは分かりませんが、多分もう読まないのではないかと思われます。
それほどに、魅力を感じない作品でした。残念です。