辻堂 魁

風の市兵衛シリーズ

イラスト1
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軽く読めてなお且つ面白い、という小説であることには間違いはないのですが、少々期待にそぐわない展開になってきている印象もあります。

日本橋小網町の醤油酢問屋「広国屋」の責任者である頭取たちが、主人をないがしろにして店の経営を私しているらしい。渡り用人唐木市兵衛の兄の公儀十人目付筆頭である片岡信正から市兵衛に話がまわってきて、市兵衛が雇われることになった。調べていくと、頭取たちは古河藩の用人と結託して抜け荷を企んでいる様子がうかがえるのだった。

本書では、「渡り用人」という本シリーズの一番の魅力は殆どと言って良い程に見ることができません。かわりに剣の使い手としての唐木市兵衛が大活躍をするのです。

しかし、そのことは本書の最大の魅力である”経済面からみた時代小説”としての色合いが薄れていくことを意味します。せっかく「渡り用人」という独特なキャラクター設定で、経済の面から江戸の市井を描くという特色を出しているのにもったいないのです。

でも、剣戟の場面こそが時代小説の醍醐味という方々にとっては、唐木市兵衛の「風の剣」での立ち回りは、その興味を十分に満たしてくれるかもしれません。

もう一点、今回も異国の件の使い手の「青」が登場します。しかし、その登場の仕方が納得できるものではありませんでした。たまたま今回の敵役である古河藩の用人のところにいるというのは、安直にしか感じられません。この作者ならば、もう少し自然な展開を期待できると思うだけに、残念です。

何度も繰り返しますが、本シリーズの魅力はは、「渡り用人」としての見せ場、つまりは江戸の経済の側面に焦点を当てて物語を展開している点にあると思うのです。そのことこそが相当に難しい要求だとは思います。しかし、だからこそ新しい視点での時代小説を期待したいし、またそんな我がままな読者の期待にこたえるだけの力を持った作者だと思うのです。

[投稿日]2015年07月07日  [最終更新日]2015年7月7日
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