高嶋 哲夫

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28歳の若き研究者、瀬戸口の計算式は、マグニチュード8規模の直下型大地震が東京に迫っていることをしめしていた。十年前の神戸での震災、あのとき自分は何もできなかった。同じ過ちを繰り返したくはない。今、行動を起こさなければ…。東京に巨大地震が起こったら、高速道路は、地下鉄は、都心のビル街は、いったいどうなるのか。最新研究に基づいてシミュレーションした衝撃の作品。(「BOOK」データベースより)

 

この作家のいわゆる「パニック小説三部作」のうちの一冊です。

 

阪神淡路大震災の被災者でもある瀬戸口誠治が開発した地震関連のシミュレーションプログラムの結果は、M8クラスの東京直下型の地震が起きるというものだった。

同じ被災者である河本亜紀子が秘書をしている堂島智子衆議院議員に会い、東京で起きる直下型地震への対応を働きかけるが、地震学会が東京直下型地震は除外しているため手が打てないでいた。そんな中、M5.5クラスの地震が東京を襲う。

 

原子力技術者としての経歴を有する著者は、その科学的知見をもとにして種々の啓蒙書を書かれています。地震関連の書籍を挙げると『[体験者が明かす] 巨大地震の後に襲ってきたこと』や『巨大地震の日―命を守るための本当のこと』『東海・東南海・南海 巨大連動地震』などです。

 

 

本書に限らずではありますが、高嶋哲夫という作家の描くパニック、シミュレーション小説は、エンターテインメントのタッチに乗せた啓蒙の書の意味合いが大きいと思われます。

パニック小説という分野は、非日常下における人間ドラマを描くことにその主眼があったのでしょう。しかし、地震、津波、台風(洪水)の三部作の他にパンデミックや富士山の噴火など、さまざまな災害ものを書かれている著者は、どれも原子力技術者として現場に深くかかわってきた経験から、人間の持つ技術に対する信頼を持ちながらも、一方で、大自然とのかかわり方をも含め、深く危惧されているようにも思えるのです。

そんなパニック小説は、災害を予見する科学者、それに対しなかなか動かない行政、その行政を動かそうとする主人公、という一つのパターンがあるように思えます。災害を予見する科学者自身が主人公というパターンもありますが・・・。

 

本書の場合もこのパターンにあてはまり、地震学者である瀬戸口誠治が、自らの研究結果をもとに割り出した東京直下型地震の危険性を行政の長に認識させようとします。なかなかに動かない総理大臣と、それとは対照的にそれなりの対策を整え来るべき地震に備えようとする東京都知事という設定のもと、現実に地震が襲います。

その後は襲ってきた地震に対応する行政や一般市民の姿が描かれます。この点、実際に被災されたであろう方などからは、本当はまだ悲惨だという声もありますが、現場を知らない身には、本書は本書なりにかなりリアリティを持って描写してあると感じました。

 

いずれにしても、特に「地震」に関しては、阪神淡路大震災や東日本大震災を経験し、更には確実にくると言われている東海大地震などの問題を抱える我ら日本人にとって喫緊の課題であることには違いなく、そういう意味でも本書には大きな意義があると感じます。

[投稿日]2016年01月26日  [最終更新日]2019年1月24日
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