本書『図書館の魔女 第四巻』は、文庫本での解説まで入れて642頁というかなりの長さの長編のファンタジー小説です。
四分冊の文庫版『図書館の魔女』の最終巻である本書は、最終巻にふさわしい実に読みごたえのある物語でした。
『図書館の魔女 第四巻』の簡単なあらすじ
海峡地域の動乱を期するニザマ宰相ミツクビの策謀に対し、マツリカは三国和睦会議の実現に動く。列座するは、宦官宰相の専横を忍んできたニザマ帝、アルデシュ軍幕僚、一ノ谷の代表団。和議は成るのか。そして、マツリカの左手を縛めた傀儡師は追い詰められるのか?超大作完結編。第45回メフィスト賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
一ノ谷に攻め込もうとするアデルシュに自ら乗り込んだマツリカは、アデルシュを背後から操るニザマの宦官から力を取り戻そうとするニザマ帝をも取り込み、三か国による会議に望んでいた。
その会議では、キリンの明晰な戦略分析に加え、アデルシュ北部台地での新規農地開拓用揚水機である「水槌」を最終的な武器として、アデルシュ篭絡の策謀が為されていた。
その結果、ニザマ帝と共にアデルシュとの和議が成り、マツリカの自分の左腕の動きを奪った魔術師の双子座へと戦いを挑みに向かうのだった。
『図書館の魔女 第四巻』の感想
本書『図書館の魔女 第四巻』はかなり長い一冊ですが、その内容はかなり濃密であり、読みごたえがあります。
冒頭から繰り広げられる三カ国会議の模様はキリンの弁舌の見事さが浮き彫りにされ、その後の「水槌」の原理など図示して解説してあり、実際動作するのだろうと思わせられます。
読者にそう思わせることができているのであれば、実際の稼働可能性は問わずとも物語としてはそれで成功でしょう。
さらに、本書では双子座との戦いの場面が控えています。
これまでもアクション場面が無いことはなかったのですが、本シリーズの中では、本書程に緻密に、そしてそれなりの長さをもって描かれたことは無かったのではないでしょうか。
ただ、双子座との戦いを終えた後の描写は物足りません。
それまであれほど詳しく読者を濃密な世界に引きずり込んでいたのですが、終盤はなんともあっさりとしています。
それがいかにも物足りなさを感じ、また寂しくもありました。
マツリカとキリヒトとの物語が一応の区切りをつけたのは分かりますが、もっと読みたいという読者の期待を見事に裏切っています。
もしかしたら、それこそ作者の、あっさりと物語を閉めることで物語の余韻を長く保とうとする計算された終わり方であり、私としてはその意図に見事にはまったのかもしれません。
ともあれ、本書『図書館の魔女(全四巻)』は、作者が言語学者というだけに、「言葉」というものを根底に据え、「言葉」の持つ意味を突き詰めた作品です。
そして、その延長上には「書物」が控えていて、知の集積場としての図書館、それ以上に国の存立にかかわる機関としての役割も担う「図書館」の意義が示されます。
その「図書館」の中心にいるのが魔女マツリカですが、その背景は全く示されておらず、今後も示されそうではありません。
すでに「図書館」の中心であり、まさに魔女と呼ぶにふさわしい知力と洞察力を兼ね備えているのです。
でありながら少女らしい可愛さをも併せ持つマツリカの物語を、そして少年キリヒトの物語をもっと読みたいものです。
ともあれ、本書『図書館の魔女(全四巻)』の続編として『図書館の魔女 烏の伝言(つてこと)』が出版されています。
本書のラストの物足りなさをこの続編が解消してくれるものなのか、早く読みたいものです。