『星の教室』とは
本書『星の教室』は、2025年2月に角川春樹事務所から256頁のハードカバーで刊行された、長編の現代小説です。
まさに高田郁の文章で夜間中学校という学び舎で学ぶ人たちの姿を紹介する感動的な成長小説だと言えます。
『星の教室』の簡単なあらすじ
主人公の潤間さやかは、中学の卒業証書を受け取っていない。義務教育さえまともに終えていないという枷が、社会でも家庭内でも、さやかを生き辛くさせていた。しかし、ある日、さやかは夜間中学という存在を知る。それは、戦争や貧しさや病など、さまざまな事情で義務教育を終えられなかった大人たちの集う学校だった。二十歳の春、さやかは河堀夜間中学への入学を果たす。仲間たちに支えられて過ごす日々が、学校や親への不信で雁字搦めだったさやかの心を解きほぐしていく。やがて、さやかには密かに叶えたい、という夢が芽生え始めるのだが…。(「BOOK」データベースより)
中学時代いじめにあい、彼らがいた中学の卒業証書など絶対に受け取りたくないと思った潤間さやかは、しかし義務教育を終えていないことがその後の人生でいかに負担を強いられることになるのか思い知らされることになります。
面接に行くたびに、履歴書でさやかが義務教育を終えていないことを知る雇い主は、雇うことを断ってきたのです。
そんなさやかですが、何とか見つけたアルバイト先のレンタルビデオ屋で、西田敏行という俳優が出演している「学校」という映画に出会ったことから夜間中学校という存在を知るのでした。
『星の教室』について
本書『星の教室』は、様々な理由で義務教育を終えることが出来なくなった人たちが夜間中学校で学ぶ姿を紹介しつつ、主人公が成長していく姿を描き出す「心揺さぶる」物語です。
高田郁の独特の文体に載せて、人の営みの中に垣間見える人々の善意を前面に押し出した心温まる、成長小説でもあります。
さやかが通い始めたのは河堀夜間中学という学校でしたが、そこでの生徒は様々な事情から義務教育を終えることができなかった人たちが集まっていました。
個々の人物が抱える事情については実際に読んでもらいたいのですが、本書では終戦時の混乱に伴う思いもよらない事情など、ちょっと考えられないような事情が紹介されています。
それだけ私たちが幸せに暮らしている証拠なのでしょうが、平凡に暮らしている私たちでは思いもよらないような事情がいくつも紹介されていて逆に現実味がないように感じてしまいそうです。
現実の夜間中学校で、本書で登場するような悲惨な過去や理不尽な仕打ちの結果義務教育を終えることが出来なかった人たちがどれほどいるのかわかりません。
しかしながら、たとえ一人であってもそうした現実のもと夜間中学校にたどり着いた人たちが少なからずいるのは事実だと思います。
もちろん、提示された事実に対しての受け取り方は読み手の個別の問題です。
そうではなく、本書の表現する夜間中学の存在とそこで学んでいる人たちがいるという事実、そしてその場は夜間中学に通う個々人がかつて経験することが出来なかった学びの場であるという事実は否定できません。
そのうえで、この経験はもしかしたら単に社会で要求される義務教育終了という資格を得るに過ぎないのかもしれませんが、本書で紹介されているように、彼らが経験することが出来なかった中学校という青春のひと時を過ごす人たちもいることでしょう。
本書ではその側面がより強調されているようにも思えますが、事実を知らない私には何とも言えませんし、本書での登場人物たちの明るさは素晴らしいものだと思えるのです。
また、主人公の潤間さやかが夜間中学校に通うなかで夜間中学校の仲間から支えられ、そして教えられながら成長していく姿は感動的です。
本書でも、主人公が夜間中学校を知るきっかけとなった西田敏行主演の「学校」という作品は私も聞いたことがあります。シリーズ化され、四本の作品が作られました。
残念ながら私は見たことがないのですが、山田洋二という大好きな監督と、西田敏行というこれまた大好きな役者さんの作品ですからなぜ見なかったのか、多分、当時この映画の印象が決して明るくはなかったために見なかったのだと思います。
