寺社奉行・本山相模守が神君家康公より拝領した刀を盗まれた。困った本山は幼馴染みの南町奉行・曲田伊予守を頼り、定廻り同心の樺山富士太郎に密命が下る。折しも謎の墜落死を調べていた富士太郎は探索を中断し、わずか一日で拝領刀の行方を突き止めてみせる。ふたたび墜死事件を追う富士太郎に、大石に上半身を潰された死体発見の一報が届く。摩訶不思議な連続死と拝領刀の盗難は、何の繋がりもないと思われたのだが…。大人気書き下ろしシリーズ第44弾!(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの四十四弾となる長編痛快時代小説です。
前巻であらたに登場してきた、南町奉行所与力の荒俣土岐之介の妻である菫子が秀士館の師範代となる試験を受けることになった。
一方、空から人が降ってきて地面に突き刺さったり、大石につぶされたりと奇妙な事件が続き、南町奉行所定町廻り同心の樺山富士太郎は江戸の町を奔走していた。
そこに、南町奉行の曲田伊予守から、寺社奉行の本山相模守が家康公からの拝領刀を盗まれたためその拝領刀を探すようにとの命が下る。
ところが、こんどはその本山相模守自身が行方不明となり、ふたたび富士太郎に寺社奉行を見つけ出すようにとの命が下るのだった。
前巻で感じたように、南町奉行所与力荒俣土岐之介の妻の菫子がこのシリーズで需要な役割を担うようになりそうです。本巻では、その菫子の秀士館師範代の試験の場面を冒頭近くで描いてあります。
しかし、本巻の本筋はこの菫子ではなく、樺山富士太郎にあります。
人が空を飛んだり、大石の下敷きになったりという不可思議な事件の探索に振り回されたり、南町奉行の曲田伊予守の命で、曲田の幼馴染みでもある寺社奉行の本山相模守のために探索する姿が描かれます。
湯瀬直之進や倉田左之助の活躍も見られないという点では、富士太郎の上司である荒俣土岐之介とその妻の菫子を中心とした話であった前巻に続いているともいえます。
ただ、富士太郎の拝領刀探しが案外楽に済んでしまったり、曲田自身が探索に乗り出すというまず見られない事態が描いてあったりと、このシリーズの常の進み方からするとかなり変則的な一冊であり、その意味では特異な一冊ともいえます。
直之進や左之助の活躍の代わりに菫子の薙刀の場面があったりと、今後の菫子の活躍が楽しみでもあります。