南町奉行所与力・荒俣土岐之助を突如、頭巾の侍が襲った。辛くも難を逃れた土岐之助は、襲撃者をかつて“人頭税導入”に絡んで因縁が生じた、前南町奉行・朝山越前守と見て取った。配下の同心・樺山富士太郎と女丈夫の奥方・菫子の奮闘が始まる!大好評シリーズ、待望の第43弾!(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの四十三弾の長編痛快時代小説です。
富士太郎は、庄之助に殺された岡っ引の金之丞の下っ引だった伊助の迎えで寒い朝から殺しの現場へと向かった。
殺されたのは養吉というヤクザの嫌われ者だったが、すぐに元大工の棟梁だった源市という男が浮かび捕縛する。しかし、源市は捕縛の際も、また入牢の際もまた笑みすら浮かべていたのだった。
荒俣土岐之介は、井倉家用人の村上孫之丞から、井倉下野守宛に「人頭税を確実に実行せよ」との文が届いたことを聞いた。
しかし、その帰りに、荒俣土岐之介は朝山越前守と思われる人物から斬りかかられるが、住吉のおかげで何とかその場を逃れることが出来たのだった。
奉行は富士太郎に荒俣の陰警護をつけるように命じ、結局左之助が警護をすることになる。
一方荒俣は、一昨日に富士太郎が捕らえた源市が吟味方与力の岩末長兵衛によって解き放ちになっていることに気付くのだった。
今回の話はこのシリーズには珍しく、富士太郎の上司である荒俣土岐之介と、その妻の菫子を中心とした話になっています。
荒俣が何者かに襲われたため、左之助が荒俣の陰警護を願うことになります。その際、荒俣土岐之介の妻の菫子が薙刀の遣い手であり、夫の警護まで任せておけるほどのものであることが判明するのです。
荒俣土岐之介を狙う朝山越前守のいう「人頭税」とは、「納税能力に関係なく、全ての国民1人につき一定額を課す税金」のことを言うそうです( ウィキペディア : 参照 )。
本書でも、荒俣土岐之介の上司でもある南町奉行曲田伊予守などは、朝山のいう「人頭税」は公儀の要人にごまをするだけのために話を持ち出したに過ぎないのであり、庶民のためになるはずもなく、悪法でしかない、と言い切るほどです。
そもそも、「人頭税」を持ち出し、その後職を辞する頃の朝山は常軌を逸しており、心を病んでいるとしか思えなかったのでした。
この設定自体、荒俣土岐之介を守るべき状況を作り出すためのものでしょうから、朝山越前守の人物設定もあまり丁寧にできているとは思えません。
多分ですが、作者は菫子の薙刀の腕を物語の舞台にあげることによって、このシリーズの今後の展開に、具体的には左之助の剣の修行に役立つ相手として登場させたのではないかと思われます。
ですから菫子本人のことについてはまだあまり詳しくは描かれてはいません。
それでも、荒俣土岐之介の妻女であり、薙刀の遣い手であって、気が強く、武士の妻はあっても鈴木作品らしく夫のことは心から慕っていることは分かります。
今回は直之進はほとんど出てきません。出てはくるのですが、すぐにいなくなり、左之助と菫子の活躍の場面になるのです。
これだけ長いシリーズになるとなかなかにストーリーを考えるのも大変だとは思いますが、薙刀の遣い手の登場とは意外でした。読み手としては大いに期待したいと思います。