読売屋の新しい主人、庄之助に、なぜか武士のような威厳がある。しかも日に焼けた逞しい体つきからして、かなりの遣い手のようだ―乾物屋への強請をとっちめた琢ノ介が、直後に襲われた。悪評芬々の読売屋「かわせみ屋」の仕業と見られたが、養子に入った庄之助が跡を継いだ昨今は、奉公人を厳しく取り仕切り、行状は改まっているはずだ。定廻り同心の樺山富士太郎と湯瀬直之進らが琢ノ介襲撃の下手人を追うなか、独自に探索を始めた旧知の岡っ引の姿が消えた。大人気の書き下ろしシリーズ第四十巻。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第四十弾の長編痛快時代小説です。
金杉町の乾物問屋「出水屋」を訪れていた米田屋琢ノ介は、出水屋に難癖をつけてきた男を叩き出してしまう。その男はかわせみ屋の公造という男だった。
米田屋の近くまで帰ってきた琢ノ介は、待ち構えていた三人の男に木刀で殴られて大怪我を負ってしまう。さいわい大事には至っていない琢ノ助だった。
駈けつけた富士太郎は、読売屋であるかわせみ屋先代の恒五郎が怪しいという琢ノ介の言葉でかわせみ屋に行くが、かわせみ屋の今の主人である庄之助も、先代の恒五郎琢ノ介を襲ったことはないというのだった。
その帰り道で、金之丞という男が富士太郎に声をかけてきた。岡っ引きだった五十過ぎの男で、庄之助という男が何かと怪しく、見張っているというのだ。
他方、直之進も琢ノ介から話を聞いてかわせみ屋に向かうが、かわせみ屋から出てくる巨大な気を持った庄之助思われる男に出会う。
庄之助をつけているほっかむりの男に気づいた直之進はその後をつけるが、庄之助の合図で現れた八人の侍襲われているほっかむりの男を助け、庄之助を見失ってしまうのだった。
本書に至り、マンネリ感を感じていたこのシリーズも本来の面白さを取り戻しつつあるかもしれないという印象を持ちました。それほどに読みごたえを感じた物語であったのです。
本書ではかわせみ屋の庄之助という男が登場します。この男については未だ何も分かっていません。
ただ、直之進や佐之助が勤める秀士館に対し含むところがあると思われます。また、何か大望があるらしく、その邪魔になるかもしれない男を本書冒頭で簡単に殺してもいます。
その上で、直之進をして「巨大な気を持っている男」を言わせるほどの存在感を有しているのです。
本書自体では殆ど何も起きないと言ってもよさそうです。ただ、庄之助の正体を探ろうとしている男がいて、その身が危ういことになるだけが語られています。
そのなかで庄之助の正体が少しずつ見えてくることが本書で描かれていることです。その正体不明感で最後まで引っ張られます。そして、意外な終わり方をするのです。
こうしてみると、痛快小説では悪役の描き方が一つのポイントになっていることは間違いなさそうです。魅力的な敵役がいて初めて主人公も活躍できるということでしょう。
そういうことはあらためて言うことでもないのですが、本書のように、面白さを取り戻してきた作品を読むとそのことが思い知らされるのです。
面白が復活してきたこのシリーズの続編が期待されます。