秀士館の門人が、相次いで頭巾の侍に襲われた。侍は捨て台詞に湯瀬直之進の名を出したという。だが渦中の直之進は、館長の大左衛門から大山・阿夫利神社への納太刀を頼まれる。同行する塚ノ介、珠吉との賑やかな旅路に、邪悪な影が忍び寄る。道中知り合った訳あり父娘の厄介事も背負い込み、大山詣は益々穏やかならざるものに。因縁の対決の火蓋が切られ、山間の清流に鋭い刃音が響き渡った。書き下ろし人気シリーズ第三十九弾。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十九弾の長編痛快時代小説です。
秀士館の門人が、何者かに暴行を受けるという事件が発生します。犯人は去り際に湯瀬直之進の名を挙げたということでした。
左腕の治りがおもわしくない直之進は、秀士館館長の佐賀大左衛門の配慮により、相模国伊勢原にある大山の阿夫利神社への木刀の奉納と、その帰りに信玄の隠し湯といわれる中川温泉へと旅立つことになりました。
その旅立ちには、門人への暴行事件の犯人をひきつける意味もありましたが、何故か自分の子が欲しい琢ノ助や、富士太郎の嫁の智代の安産を願う珠吉も同行することとなります。途中ヤクザから親子連れを救い出しながらの旅となるのでした。
前巻まで、御前試合の顛末のあと、秀士館医術方教授の雄哲の行方不明事件がおき、直之進も何かと忙しい日々を送っていました。
ところが、御前試合やその後の雄哲の失踪に伴う事件で怪我をした腕の怪我もいま一つおもわしくないところから、館長の大佐衛門の配慮により、震源の隠し湯へと行くことになった直之進です。
本巻は、シリーズの途中の息抜きといった立ち位置にある、物語としては前後の繋がりには全く関係のない独立した話になっています。
本書の出来事としては、秀士館門人への暴力を働く暴漢の存在でしょうが、分かってしまえば取り立てて言うほどのこともありません。
また、旅の途中で知り合った、ヤクザに追われている親子にしても今回の物語のためにとってつけたような話であって、単に話を膨らませるだけでしかありません。
結局は、次巻へのつなぎでしかない本巻だったと言えます。というのも、次巻『赤銅色の士-口入屋用心棒(40)』がかなり面白く仕上がっていて、久しぶりにこのシリーズらしさが出ていると感じた物語になっていたからです。
本書の意義としては、信玄の隠し湯の中川温泉に入ったおかげなのか、直之進の腕の怪我も一気によくなる、ということくらいでしょうか。
ただ、その点も一日温泉に入ったくらいでそんなに即効性があるのかという疑問はありますが、そう言う点は追求しないことにします。
とにかく、本巻はシリーズ中のちょっとしたちょっとした休憩、という程度に思っていたほうがいいと思われます。