友垣を見舞いに品川に行くと言い残し、秀士館から姿を消した医者の雄哲。さらにその後を追うように、雄哲の助手だった一之輔も行方を晦ました。二人を案じる湯瀬直之進ら秀士館の面々は、南町同心の樺山富士太郎と中間の珠吉に品川での探索を依頼する。一方、倉田佐之助と秀士館教授方で薬種問屋古笹屋のあるじ民之助は江戸を発ち、川越街道を北上していた。書き下ろし人気シリーズ第三十八弾。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十八弾の長編痛快時代小説です。
前巻で上覧試合も終わり、優勝こそ逃したものの見事な成績を収めた直之進でした。しかし、決勝では室谷半兵衛に打たれ骨折した右腕を治療しようにも、前巻で行方不明になった秀士館の医術方教授の雄哲は未だ秀士館には帰ってきていませんでした。
そこで、秀士館館長の佐賀大佐衛門らは、共に雄哲を探しに行くと言って出掛けたまま帰らない一之輔の生国だと思われる川越へ、佐之助と薬種教授方で薬種問屋古笹屋主人の民之助とを探索へと送り出します。
また、怪我のために留守番をしていた直之進も、雄哲が川越行きの船に乗り込んだことを聞き込んできた富士太郎からの知らせで川越へと向かうことになったのでした。
そのころ、川越の新発田従五郎の屋敷では、藩内の権力闘争に巻き込まれた八重姫を助けるために、雄哲が必死の看病を続けて居ました。しかし、その新発田屋敷を見張る目があったのです。
なかなか秀士館に帰ってこない医術方教授の雄哲ですが、今度は雄哲を探しに行くと言って出掛けた一之輔まで帰った来ない事態となり、雄哲を探索する秀士館の仲間らの姿が描かれています。
シリーズとして特別なことが起こるわけではありません。秀士館の日常のちょっとした異常が描かれるという程度です。
直之進や佐之助らの剣戟の場面もそれなりに準備してはありますが、今ひとつの盛り上がりでした。それは、今回の倒すべき相手の姿が妙にはっきりとしていない、曖昧な印象があるところからきているようです。
このところの本『口入屋用心棒シリーズ』は、少々物語としての緊張感というか、勢いがなくなってきているように感じます。
それは、やはり何度も書いているように直之進と佐之助との間の対立が無くなった頃から感じていたことと思えます。そのことがより鮮明になってきているのではないでしょうか。
本シリーズの場合、キャラクターは悪くないと思うのですが、何とも微妙なところで物語が進んでいると思います。つまらないということではなく、だからといって絶賛できる、ということもないのです。
本作品『武者鼠の爪-口入屋用心棒』にしても、物語の進み方に必然性というか、納得感があまり感じられないうえに、敵役の存在があまり存在感がありません。
面白いと思える物語の条件は、魅力的な主人公の存在に加えて、説得力のあるストーリーと存在感のある敵役があってこその話なのでしょう。
残念ながら、私の書き込みにしても同じようなことばかりを書いている気がします。このシリーズは私の好きなシリーズでもあり是非、大きな転換を期待したいものです。