雨上がり、家族とともに和やかなときを過ごしていた湯瀬直之進が突如黒覆面の男に襲われた。さらに同じ日、秀士館の敷地内にある古びた祠のそばから、戦国の世に埋葬されたと思しき木乃伊が発見され、日暮里界隈が騒然となる。野次馬を巻き込んでの騒ぎが一段落したと思われたその矢先、今度は新たな白骨死体が見つかり…。人気書き下ろしシリーズ第三十五弾。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十五弾の長編痛快時代小説です。
三人田をめぐる物語も一応の決着を見、直之進の秀士館での日常も戻ってきたと思われた矢先、理由も不明のまま、何者かが直之進を襲ってきました。
からくも襲撃を退けた直のしいでうすが、今度は秀士館の敷地内から木乃伊が発見され、秀士館は大騒ぎとなります。そのさなか、直之進と共にいた佐之助はこの様子を冷めた目で見つめる一人の侍に気づきます。
永井孫次郎と名乗るその侍の後をつけ、その男の幸せそうな家庭を確認した後、秀士館に戻った佐之助ですが、今度は秀士館内で白骨死体が見つかり、富士太郎が探索に乗り出すことになります。
富士太郎は、秀士館敷地の従来の持主の山梨家が、伊達家当主とのいさかいがきっかけで取り潰しにあい、山梨家当主の手により焼失した屋敷跡に秀士館が建っていることを調べ上げ、定岡内膳という目付の名前を突き止めます。
一方、直之進は自分を襲った賊と姿が良く似た桶垣郷之丞という伊沢家の家臣に目をつけます。桶垣は「侍は死を賭して主君に仕えるもの」と言い、富士太郎や佐之助のの探索にも繋がってくることになるのでした。
本書では、やっと活動を始めた秀士館の建つ土地にまつわる物語が展開されます。本書の軸となる直之進と佐之助、そして富士太郎らの中心人物が各々に事件の探索に動き、その探索の流れが一つに収斂していくというこのシリーズのパターンの形に収まっています。
このシリーズについては毎回同じようなことを書いていますが、このごろ物語の世界がこじんまりと小さな世界で完結しているように思います。
それは、このシリーズ当初は敵対していた直之進と佐之助が親友となり、二人共に家庭を持ち、かつては直之進に懸想していた富士太郎も今では普通に女性を愛し、家庭を設けるまでになっている、という事情にもよるのかもしれません。
結局普通の痛快時代小説の設定と変わるとことが無いようになってきているのです。際立っていた個性が減少してきたとも言えます。
物語として魅力的な敵役を作るなり、もっと大きな活躍の舞台を設定するなりのテコ入れを期待したいと思います。