砂原 浩太朗

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星月夜 藩邸差配役日日控』とは

本書『星月夜 藩邸差配役日日控』は『藩邸差配役日日控シリーズ』の第二弾で、2026年3月に文藝春秋から232頁のハードカバーで刊行された、短編の時代小説集です。

前作の藩内の権力争いを中心に置いた物語とは異なり、本書はより藩邸内の藩士の日常に焦点が当てられています。

星月夜 藩邸差配役日日控』の簡単なあらすじ

神宮寺藩江戸藩邸でで里村五郎兵衛が務める差配役は、いわば総務部総務課のようななんでも屋。「誰もやらぬ…いや、できぬお役」を果たすために、次女・澪の隠された出自や神宮寺藩の派閥争いの波紋を心にしまい、日々の務めに精を出す。家老の無骨な懐刀と御用絵師の関わりや、澪が小太刀の稽古をつけている奥女中が抱える思いなど、悩みや騒動が持ち込まれる日々。そして、家族が巻き込まれた収賄事件の真相が明らかに…。静謐な機微が心に迫る六篇。(「BOOK」データベースより)

目次

波と波
藩主が参勤交代で国元へと立つ日、江戸家老の大久保重右衛門の側近である波岡喜四郎が大久保から注意を受けていた。普段きちんとしている波岡にしては珍しいと思っていると、波岡の周囲で常ならぬことが重なっていることに気づく五郎兵衛だった。

揺れる槌
神宮司藩の江戸藩邸では、近ごろ藩邸全体の縁側を張り替える工事の槌の音が絶え間なく続いていた。ところが、工事のまとめ役の源蔵親方の様子が変だと感じていた五郎兵衛のもとに、会いたいとの手紙が届くのだった。

梔子日和
五郎兵衛は、「梔子(くちなし)姫」などと呼ぶ者もいる神宮司藩江戸藩邸奥向き奥女中のお玉と顔を合わせる機会に、何かと話したそうにしているのに気がついていた。しかし、言葉を交わすこともなく時が経つうちに、若君と話し込むお玉の姿を見かけるのだった。

碌々亭日乗
普段はやる気を見せることの少ない安西主税は近ごろ文句めいたことを口にしなくなっていたが、今朝はあからさまに眉をひそめていた。聞いてみると、昨年隠居した父親の安西惣兵衛が、時おり家を空ける回数が増え、かえらぬ日まで出てきているというのだった。

小心者
前任者森井惣右衛門の失脚後その後を継いだ窪田は、おのれは不正をしていないことの確認のために、帳簿を改めてもらおうとする人だった。そうした小心と言わざるを得ない窪田について、「くぼたどの ごようじん」との投げ文がみつかった。

星月夜
亡き夫の河瀬新之丞が残した手控えに気になる箇所があると、長女の七緒の様子がどことなくおかしいと感じられてきた。同じころ、里村五郎兵衛のもとを訪ねてきたおあきの頼みで遠山俊次郎のもとを訪れて話をすると、少しなりとも眼に力が戻ってきた様子が見えるのだった。

星月夜 藩邸差配役日日控』の感想

本書『星月夜 藩邸差配役日日控』は『藩邸差配役日日控シリーズ』の第二弾であるとともに、このシリーズそのものが『神山藩シリーズ』を構成するシリーズでもあるという特徴があります。

その『神山藩シリーズ』としては、今(2026年5月)のところ本シリーズのほかに『黛家の兄弟』『霜月記』が出ています。

 

本シリーズの主人公の里村五郎兵衛の役職である江戸藩邸の差配役とは、いわば「総務部総務課」のような何でも屋だと紹介してあります。

この「差配役」という職務ですが、作者によると「江戸時代における総務部総務課として想定した架空の役目」だそうです( 本の話 : 参照 )。

そして、その職務については「藩邸の管理を中心に殿の身辺から襖障子の貼り替え、厨のことまで目をくばる要のお役」だと紹介してあります。

本書の帯に書かれている「なにも起こらないのは、起らぬようにしているおひとがいるから」だという言葉は、本書第二話揺れる槌での神宮寺藩江戸藩邸の仕事ではいつも何も起こらないという源蔵親方の言葉ですが、この物語の本筋には関係はないにしても、里村五郎兵衛の仕事にたいする評価としてこれ以上のものはないのかもしれません。

 

そうした雑務の一つとして言っていいものか、本書では何らかの出来事と共に五郎兵衛を中心とした藩邸内の人間関係が描かれているのです。

ここで主人公の里村五郎兵衛という存在を見ると、妻千代は澪の出生と入れ替わるようにして世を去っており、五郎兵衛は残された娘七緒と共に暮らしています。

前巻のシリーズ第一巻『藩邸差配役日日控』での、留守居役の岩本陣内が旗本の内膳正をかついで家老の大久保を追い落とし、藩主和泉守の病に乗じて跡目を狙った騒動は昨年の秋も遅くに留守居役の岩本陣内の失脚という形で決着を見ていました。

そして今、藩主和泉守正親の国元へ帰る参勤の行列を見送った場面から本書は始まります。

そして、なんとか騒動を乗り切った里村五郎兵衛の下には相変わらずに雑務が持ち込まれているのです。

 

その持ち込まれる雑務をこなす五郎兵衛の姿が描かれ、人情物語としての側面を見せるなか、娘の七緒の亡き夫の死に関し、新たな事実が判明するなど、ミステリアスな展開も用意されています。

その情感豊かな美しい文章に惹かれて読み進めていると、単に心地よいだけではない意外な状況が展開され、エンターテイメント作品としてもとても楽しませてくれるのです。

 

いつも同じことを書くことになりますが、著者の砂原浩太朗の美しい文章にのって主人公の里村五郎兵衛の人となりが知らず浮かび上がってくる作品集だといえます。

[投稿日]2026年05月14日  [最終更新日]2026年5月15日

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