砂原 浩太朗

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『小石川養生所青春譜』とは

本書『小石川養生所青春譜』は、2026年7月に光文社から244頁のハードカバーで刊行された、長編の時代小説です。

小石川養生所を舞台とはしていても医療小説ではなく、養生所を舞台としたミステリー作品というべきでしょう。

『小石川養生所青春譜』の簡単なあらすじ

父の急逝により、跡を継ぎ「小石川養生所」の見廻り同心として初出仕した結城長三郎。病を患った貧しい人々を収容する養生所は、与力、同心、医師、看病中間などが支えている。薬の匂いや病人の様子に戸惑う長三郎に、早々、謎めいた紙片で接触がある。どうやら亡き父は内部に手下を忍び込ませていたらしい。黒い噂の絶えない所内で、父は何を探っていたのかー。(「BOOK」データベースより)

『小石川養生所青春譜』の感想

本書『小石川養生所青春譜』は、小石川養生所を舞台としたミステリー作品ですが、砂原浩太朗の物語らしく情感に満ちた作品です。

これまでのこの作者の作品に比べると若干インパクトが弱いとも感じましたが、それでもなおこれまで同様に惹きこまれて読んだ作品でした。

 

小石川養生所を舞台にした作品と言えば『赤ひげ診療譚』がありますが、本書の主人公は医者ではなく、小石川養生所を担当する新人の見廻り同心です。

言うまでもなく、『赤ひげ診療譚』は山本周五郎の手になる名作の中の一冊ですが、”赤ひげ”と呼ばれる新出去定とその下で働く若き医師の保本登とを主役とする医療作品です。

本書の場合、舞台は同じ小石川養生所ではあっても話は医療ものではなく、主人公の同心の成長を描く作品であるとともにミステリー作品です。

江戸時代ですから同心が主役の捕物帳というべきなのかもしれませんが、そこまで謎解きがメインというわけでもありません。

やはり、物語の中心はこの作者らしい情感豊かな情景描写にのって語られる主人公の結城長三郎の成長譚です。

同時に、見るべきは彼を取り巻く主人公の上司の長門伊兵衛や、磯貝新平や田原十蔵らの同心部屋の仲間であり、看病中間の弥吉と勘次、看病人のおそのといった療養所の人たちとの人間関係なのです。

もちろん、ミステリーとしての面白さも十分にあります。そこで活躍するのが北町奉行所の水分(みくまり)丹次郎というユニークな存在であり、さらには南町奉行の根岸鎮衛(やすもり)までも登場し、主人公を導きます。

 

話は変わりますが、同じ時に読んでいたのが、蟬谷めぐ実の『見えるか保己一』という直木賞候補にもなった作品ですが、この作品にも南町奉行の根岸鎮衛の名前が出てきたのは驚きました。

同じ時代を描いた時代小説である以上、同じ奉行が登場するのは不思議でも何でもないのでしょう。

しかし名奉行として名高い大岡忠相とは異なり、根岸鎮衛は私の中ではそんな高名な人物という意識はなかったため、単純に驚いてしまったのです。

 

さらに話は飛びますが、根岸鎮衛と言えば「耳袋」という随筆集が有名で、この耳袋をテーマにしたのが風野真知雄の『耳袋秘帖』という作品です。

この作品は、上記の「耳袋」とは別の『耳袋秘帖』という随筆集があったという設定のもとに描かれる『「殺人事件」シリーズ』と『「妖談」シリーズ』の二つのシリーズがあるファンタジックな物語で、楽しく読んだものです。

 

また、本書を読んで思い出したのは藤沢周平の『獄医立花登手控えシリーズ』です。

伝馬町牢屋敷で獄医を務めることとなった青年医師が牢内の科人の話にまつわる事件を解決していくミステリーであり、また彼の成長譚でもあります。

伝馬町牢屋敷と小石川養生所という場所の違いこそあれ、同じ成長譚であってミステリーの形式をとっている点で共通するものがあります。

また作者が自信を「藤沢教信者」と言っている砂原浩太朗であることも文体の類似につながっていて思い出したのでしょう。

 

ともあれ、割と読みやすいこの作者の作品の中では本書は一段と親しみやすい作品だと思われ、さらにはシリーズ化も視野に入ってくると思われるのです。

続編を楽しみにしたいと思います。

[投稿日]2026年09月16日  [最終更新日]2026年9月16日

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