『冬と瓦礫』とは
本書『冬と瓦礫』は、2024年12月に集英社から176頁のハードカバーで刊行された長編の現代小説です。
阪神神戸大震災をテーマに著者が初めて書いた現代小説で、量的にはそう時間をかかりませんが、内容がそのようには読ましてくれませんでした。
『冬と瓦礫』の簡単なあらすじ
1995年1月17日未明、阪神・淡路大震災が発生した。
神戸市内の高校から都内の大学に進学し、東京で働いていた青年は、早朝の電話に愕然とする。
かけてきたのは高校時代の友人で、故郷が巨大地震に見舞われたという。
慌ててテレビをつけると、画面には信じられない光景が映し出されていた。
被災地となった地元には、高齢の祖父母を含む家族や友人が住んでいる。
彼は、故郷・神戸に向かうことを決意した。
鉄道は途中までしか通じておらず、最後は水や食料を背負って十数キロを歩くことになる。
山本周五郎賞を受賞した作家が自らの体験をもとに、震災から30年を経て発表する初の現代小説。(内容紹介(出版社より))
『冬と瓦礫』の感想
本書『冬と瓦礫』は、時代小説作家としてその名が確立されている著者砂原浩太朗の初めての現代小説だそうです。
阪神神戸大震災に関しての著者の実体験が軸になっていて、私小説的な一面もありつつ、なお記録文学的な側面も持つ作品と言えるでしょうか。
この著者の文章読みやすく、また量的にも短めですが、内容が内容だけに軽く読めるものではありません。
しかし、それでもこの作者の新たな側面を見た気がしました。
砂原浩太朗という著者名だけで本書を借りてきてすぐに読み始めたのはいいのですが、私の思惑とは異なり、この作者では初めての現代小説でした。
それも阪神神戸大震災をテーマにした作品であり、当初は頭がついていけませんでした。
この著者の文章読みやすく、また量的にも短めですが、内容が内容だけに軽く読めるものではありません。
しかし、それでもこの作者の新たな側面を見た気がしました。
作者の「あとがき」によれば、本書は「一九九五年の阪神・淡路大震災をテーマにした作品」であって、本書の「原型となるものを執筆したのは作家デビュー以前、震災後十五年を目前にした二〇〇八年から九年にかけて」のことだと書いてありました。
そして、「こうした作品を書いたのは」自分自身が「神戸市の出身だから」だとも書いてあったのです。
また、「大筋は私じしんの体験にもとづいている」とのことで、細かなエピソードは創作であるにしても、基本的な枠組みは作者自身の体験に基づいていることになります。
その上で、作中の主人公川村圭介同様に作者自身は被災しておらず、「親族で死者はなく、家もどうにか残った
」そうです。
そのために作家として震災を語ることにためらいがあるが、しかしやはり故郷が被災した身として何らかの痛みはあり、それは小説と言う形でしか表せない、と書いておられました。
私自身、2016年4月14日と2016年4月16日に熊本市に近い西原村や益城町で震度7という大地震に遭遇しています。
ただ、私の住む熊本市中央区はそれぞれに震度5強と6強であり、益城町での建物倒壊の写真とは比べものにならないくらい軽いものでした。
それでも、我が家を含めた隣近所では屋根瓦は落ち、壁にはひびが入り、しばらくの間はあちこちの家の屋根がブルーシートに覆われていたものです。それでもそのままに住み続けることはできたのです。
そういう点では本書『冬と瓦礫』の主人公に似たところがあると言えるかもしれません。
家屋倒壊のような大きな被害はなかったものの、数日間の停電、一週間ほどの断水生活やガスも止まった状態が続きました。
ですが、西原村や益城町の被害に比べれば軽くて済んだことを喜びつつも、亡くなられた方まで出たよりひどい被災者の方たちを思うと、何となく素直には喜べない気持ちになったものです。
この文章を記している今日が令和7年1月17日です。そして平成7年1月17日に阪神淡路大震災が起きています。
朝のニュースを見て30年前の今日の早朝、阪神淡路大震災が発生したことを知りました。
数日前に本書を読了していたのですが、なかなかに文章にまとめることができずにいたため、慌てて書いています。
阪神淡路大震災や東日本大震災と比べると熊本地震はまだましな方だという人もいます。しかし、被災者にとっては自分が遭遇した災害が一番です。
熊本地震も殆ど9年前の出来事になりましたが、それでも軽いながらも被災した記憶は明確に残っています。
身内や知人を亡くされた方々にとってはなおさらのことであることは想像に難くありません。
本書『冬と瓦礫』の作者砂原浩太朗の思いをかみしめながらも、去年1月1日に発生した能登半島地震や南海トラフ地震の可能性など、わが日本の地震の多さに辟易しています。
南海トラフ地震の可能性も取りざたされるこの頃です。あらためて水や食料、簡易トイレなどの備えをもう少し充実させねばと思っています。