神奈川県瀬谷区の山林で、白骨化した死体が発見された。死体は、十年前に都内で失踪した右翼の大物。神奈川県警は自殺で片付けたが、あることに疑念を持ち捜査結果に納得しない県警の刑事がいた。宮野裕之。宮野はさっそく警視庁に赴く。捜査一課の鷺沼友哉にその疑念を話し、やがて、“不正規捜査”が始まった―。物語冒頭からトップギアで走るスピーディな展開。次々とわき起こる謎。2人の前にちらつく公安警察の影。まるで現実を見ているかのような組織の腐敗を正義で抉る、大好評シリーズ第3弾!!(「BOOK」データベースより)
警視庁捜査一課の鷺沼友哉と神奈川県警の宮野裕之とがコンビを組み活躍する、『越境捜査シリーズ』の第三弾の長編警察小説です。
右翼の大物の白骨死体が発見されますが自殺として処理されます。しかし、死体のそばに落ちていたけん銃など不審な事柄に疑問を抱いたのがおなじみの神奈川県警のはみ出し者の宮野裕之でした。
そして、宮野から話を持ちこまれた鷺沼らのチームが死体に隠された謎を解こうと捜査を始めるのですが、そこに立ちふさがるのが公安警察だったのです。
第一弾の『越境捜査』では、警視庁と神奈川県警との対立構造の先に警察内部の腐敗構造があって、個人対警察組織という構造がありました。第二弾でもまたパチンコ業界と結びついた警察内部の腐敗部分との対立構造がありました。
そして今回は同じ警察組織との対立ではありますが、公安警察が敵役として登場します。本書での公安は徹底的に組織優先の組織として描かれており、そこが若干違和感を感じるところでもありました。
一昔前の小説であればそうした描き方もありかもしれませんが、今では公安関連の小説もそれなり認知されていると思われ、公安出身の小説家もいるほどです。
例えば、『警視庁情報官シリーズ』を書かれている濱嘉之は、公安警察出身の小説家であり、出版されている小説のリアリティーは群を抜いています。
また、『背乗り ハイノリ ソトニ 警視庁公安部外事二課』の 竹内明は公安出身ではありませんが、現場至上主義のTBSテレビの報道局記者であったといい、これまたリアルな小説を書かれています。
また人気作家では、今野敏も『倉島警部補シリーズ』のような公安刑事を主人公にした公安警察小説を書かれています。
そうした時代に、組織の内部の腐敗分子というわけではなく、組織自体が組織防衛のために突っ走るという設定はどうしても違和感を感じてしまうのです。
ただ、本シリーズ自体が痛快小説的な気楽に読める物語であることに徹しているところがあることを考えると、敵役としての存在を強烈に印象付けるためには必要だったのか、と思うようにしました。