神奈川で現金輸送車の強盗事件が発生し、犯人の一人に鎌田光也の名が挙がった。鎌田は一年前、ストーカー行為をしていた村瀬香里のアパートに不法侵入したところを小島百合巡査に発砲され、現行犯逮捕された。だが、入院中に脱走し指名手配されたまま一年が経ってしまっていたのだ。一方、よさこいソーラン祭りで賑わう札幌で、鎌田からと思われる一通の脅迫メールが香里の元へ届く。小島百合は再び香里の護衛につくことになるのだが…。大人気道警シリーズ第4弾。(「BOOK」データベースより)
『笑う警官』を第一作とするいわゆる「道警シリーズ」の第四作の長編警察小説です。
『笑う警官』は、北海道警察で起きた一大不祥事といわれるいわゆる北海道警裏金事件や「稲葉事件」などを題材に描かれた作品で、角川映画で映画化もされました。また、「稲葉事件」は2016年に綾野剛主演で「日本で一番悪い奴ら」として映画化されヒットしています。
シリーズ第三作の『警官の紋章』で捕まった鎌田光也でしたが、本書冒頭で入院先から脱走してから一年が過ぎ、依然その行方は分かっていません。そんな中、鎌田の起こした事件の被害者である村瀬香里のもとに鎌田からのものと思われる脅迫メールが届きます。そのため、鎌田逮捕に尽力した大通署生活安全課の小島百合巡査は、村瀬香里の密着警護のために、村瀬香里が参加するよさこいソーラン祭りの演舞にも参加することになるのでした。
『笑う警官』『警察庁から来た男』『警官の紋章』というこれまでのシリーズ三作は、第一作の『笑う警官』が「稲葉事件」などを背景にしていたことを受けて組織対個人という図式で描かれていたのですが、第四作目の本書ともなるとその構図はあまり感じられなくなったようです。ただ佐伯の行動などを見ていると、まだその腐敗組織との対立構造の図式が無くなったとまでは言えないようです。
本書では、小島百合巡査の行動を中心に、小島巡査らの鎌田の加害行為を何とか食い止めようとする姿が描かれています。津久井卓や佐伯宏一といったいつもの面々も登場し、シリーズものの強みもあります。
ただ、対組織という対立構造色が薄れているためか、若干焦点が定まらない印象はありました。物語のもつ緊張感もあって、佐々木譲作品としての面白さは勿論あるのですが、何となくの間延び感があるのは何故でしょう。
シリーズ前作『警官の紋章』でも、結末が少々現実感に欠けるところがあり、まとめ方として無理があるのではないかと感じたのですが、本作は少しですが話の筋自体がまとまりを欠いているという印象でした。