『佐伯警部の推理』とは
本書『佐伯警部の推理』は『北海道警察シリーズ』の第十二弾で、2025年9月に角川春樹事務所から432頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。
本書から『北海道警察シリーズ』の新しいシーズンに入り、警部となった佐伯宏一の函館での活躍が描かれています。
本筋とはかかわりのないところなどで若干のネタバレ気味なことも書いていますので、気になる方は本稿を読むのはここまでにしてください。
『佐伯警部の推理』の簡単なあらすじ
厚真で強盗殺人事件を起こした犯人の一人が札幌のジャズバー「ブラックバード」に立てこもり、機動捜査隊の津久井に発砲した事件後ー。重大事案の検挙実績で道警一だった大通署の佐伯宏一は、それまで受験すらしなかった警部昇任試験を受け合格、警察大学校の研修を経て、函館方面本部捜査課に警部として着任した。佐伯が着任した二週間後、青函フェリー・ターミナルの北側、工業団地の岸壁から変死体が上がった。佐伯は早速現場へ、そして検視解剖が行われている病院に向かう…。(「BOOK」データベースより)
『佐伯警部の推理』の感想
本書『佐伯警部の推理』は『北海道警察シリーズ』の第十二弾で、佐伯警部の推理をもととして、佐伯を中心にした捜査の様子がに緻密に描きだされていきます。
正確に言えば、主役の佐伯が警部となって『北海道警察シリーズ』の新しいシーズンに入っての最初の活躍を描いた第一弾作品です。
本書での佐伯の活動の描写は、実際の警察の捜査の様子をシミュレートしているかのように緻密に描いてあります。
文字通り『佐伯警部の推理』の過程が警察の行動としてそのままに文章として起こされているかのようです。
つまり、部長試験に通り函館方面本部の捜査課課長補佐として転任した佐伯宏一警部の捜査の様子が緻密に描かれていく、警察小説の基本のような作品です。
本書では、本筋の事件とは別の畑山刑事の担当だったバイク窃盗事案が脇筋として語られていますが、被害者救済と同時に担当の刑事である畑山の仕事の杜撰さの指導も兼ねた佐伯の働きは面白いものでした。
これまでのシリーズでは、それぞれに担当していた津久井や小島、そして佐伯といった刑事たちの捜査が、いつの間にか一つの大きな事件に収斂していくというパターンが一つの形となっていましたが、本書ではそのパターンがなくなっています。
ただ、警部となって新しく赴任した函館での佐伯の捜査活動のみが描写され、これまでの津久井や小島たちの捜査の様子は全く出てきません。
単純に一つの事件を追いかけているという、逆に本シリーズでは珍しい構成になっています。
本書『佐伯警部の推理』では、警察にかかってきた、工業団地の岸壁の端から人が投げ込まれたようだ、という公衆電話からの電話から始まります。
西署の管内の岸壁から変死体が上り、すぐに身元も湯浅俊治、七十二歳だと判明します。
すぐに西署に捜査本部が置かれ、出町方面本部長が捜査本部長で、現場の捜査指揮は統括官の山浦弘希警視、佐伯の直属の上司である小野寺克己警視正が広報を担当することになります。
ほかに、庄司大輔巡査長が函館に慣れない佐伯の案内係的な立場にいて、なにかと佐伯の手助けをして、捜査の基本を学んでいます。
また、強行犯二係の強面の加藤警部補や一係員の水戸静香巡査部長などもたびたびその名前が出てくるメンバーになっています。
本書では上記の警察関係者のほかに新しい登場人物が加わっています。
それが、キッチンカーのホットドッグ屋の「ロンリー・ジャック」の店主である及川順太という男であり、函館の情報原の一人として登場してきています。
また、彼からジャズバーについての情報は仕入れていますがまだ実際に行くところまでは至っていません。
ほかの津久井や小島といったこれまでのシリーズのメンバーの動向についての描写は、本書内で私が気付いた限りでは一箇所だけでした。
新宮昌樹巡査部長から佐伯の携帯電話に入った、津久井が撃たれた事件の主犯が逮捕されたという連絡に対し、佐伯の、津久井にも伝えてくれ、との言葉があるだけです。
私の見落としの可能性もかなりありますが、小島に関しての情報はありませんでした。
今後、第二シーズンが続いていく中で第一シーズンでの仲間たちとの連携はどうなっていくのでしょう。
少なくともその時々での消息は明らかにされだろうことを願うばかりです。
ちなみに、上記の新宮の電話での「津久井が撃たれた事件」というのは、上記内容紹介にある「機動捜査隊の津久井に発砲した事件」のことであり、つまりは前作の『警官の酒場』での事件のことだと思われます。
ともあれ、このシリーズがリニューアルされて続行するというのはとても楽しみです。
続巻を楽しみに待ちたいと思います。