隆 慶一郎

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新潮社

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隆慶一郎の世界の開幕です。徳川幕府の成立にもかかわる秘事を記したという「神君御免状」という書き物を巡り、吉原と裏柳生とが互いにその存続をかけて争う物語で、伝奇時代小説の見本のような小説です。

肥後熊本の山の中で宮本武蔵の手により育てられるた松永誠一郎は、武蔵の遺言に従い庄司甚右衛門を訪ねて江戸の吉原に現れた。しかし、庄司甚右衛門は既に死亡していて会えず、代わりに幻斎と名乗る老人に出会う。しかし、今度は「神君御免状」なるものを探す、柳生の一団に襲われるのだった。

そもそも主人公が剣豪武蔵の直弟子であり、敵役が裏柳生であって、色里吉原を舞台に神君徳川家康が書いたといわれる神君御免状を巡って争いが始まるのですから面白くない筈がありません。他にも天海僧正や八百比丘尼が登場し、いわゆる伝奇小説としては最高の舞台設定でしょう。

快男児松永誠一郎が自分の出自も知らないまま、吉原と幕府の抗争に巻き込まれていくこの物語は、隆慶一郎という作家の、61歳にしてのデビュー作だといいますから驚きです。その設定は奇想天外な物語ではありますが、丁寧な考証の上に成り立っていて、物語の世界がそれとして成立していて、隆慶一郎の他の物語をも巻き込んだ隆慶一郎ワールドを形成していきます。

すなわち、本書で語られる徳川家康の影武者説は『影武者徳川家康』につながり、後水尾天皇は『花と火の帝』として成立しているなど、他の作品と繋がっていくのです。

この考証のち密さは、物語の調所に豆知識として挟まれていて、この説明が物語に深みを与えています。例えば吉原と言えば「清掻(すががき)」ですが、これは「古くは琵琶を掻き鳴らすこと」だったものが、「弦楽器のみを奏するのを、すべて、すががき、という」というのだそうです。また「後朝(きぬぎぬ)の別れ」という言葉も、その源は平安時代の通い婚にまで遡ることなどが示されています。

この物語では「道々の輩(ともがら)」という、日本史の裏面の物語が重要な役目を果たしています。こうした山の民で思い出す作品と言えばコミックですが、畑中淳の『まんだら屋の良太』です。決してうまい絵ではないのですが、底抜けに明るい良太のエロス満開の漫画で、山の民らとの交流も描かれていました。

裏柳生と言えば五味康祐や山田風太郎といった作家たちでしょう。でも私にとっては、小池一夫原作で小島剛夕画の漫画『子連れ狼』なのです。細かなエピソードもそうですが、ラストの烈堂の姿は印象的でした。

本書の続編として『かくれさと苦界行』が出ています。

[投稿日]2015年04月01日  [最終更新日]2015年11月2日
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