『嗤う闇 女刑事音道貴子』とは
本書『嗤う闇 女刑事音道貴子』は『女刑事音道貴子シリーズ』の第五弾で、新潮社から2004年3月に刊行され、2006年10月に文庫化された短編警察小説集です。
巡査部長へ昇進し、隅田川東警察署刑事課に移動になった音無貴子のリアルな日常が描かれている作品です。
『嗤う闇 女刑事音道貴子』の簡単なあらすじ
レイプ未遂事件発生。被害女性は通報者の男が犯人だと主張。被疑者は羽場昂一ー。レイプ事件の捜査に動いていた音道貴子に無線が飛び込んだ。貴子の恋人、昂一が連続レイプ犯?被害者は大手新聞社の女性記者。無実の通報者に罪を着せる彼女の目的とは?都市生活者の心の闇を暴く表題作など、隅田川東署へと異動となった貴子の活躍を描くシリーズ第三弾。傑作短篇四編収録。(「BOOK」データベースより)
第一話の「その夜の二人」では、巡査部長への昇進に伴い第三機動捜査隊から隅田川東警察署刑事課へと異動になった音無貴子の姿があります。泊り当番の貴子は酔っぱらいの親子喧嘩の相手や、さらに侵入盗の対処をすることになります。
第二話の「残りの春」では、世間知らずで手のかかる東大出のキャリア官僚の上司の面倒を見る貴子がいます。その貴子は、中学生相手に暴力をふるいそうになっていた、背筋をきちんと伸ばした老人の相手をする羽目に陥っていました。
第三話の「木綿の部屋」は、かつてコンビを組んだことのある、今は特殊班にいる滝沢刑事と出会い、その滝沢を娘の家まで送ることになります。しかしそこで見たのは思いもよらない滝沢の姿でした。
第四話「嗤う闇」では、レイプ犯の取り締まり中にレイプ未遂犯として貴子の恋人が犯人として捕まってしまいます。
『嗤う闇 女刑事音道貴子』の感想
本書『嗤う闇』は『女刑事音道貴子シリーズ』の第五弾で、新しい職場での主人公の日常が描かれており、読みがいのある短編作品集です。
短編集としては『花散る頃の殺人』『未練』に続くシリーズ第三弾であり、主人公の音無貴子は巡査部長へ昇進して隅田川東警察署刑事課に異動になっています。
本書では主人公の日常も描かれてはいますが、それよりも起こった事件というフィルターを通すことで音無貴子という女性の姿が描写されているようです。
この点は、第一短編集の『花散る頃の殺人』では主人公の私生活により重点があったように感じたのとは異なるようです。
主人公の音道貴子は、男社会である警察組織で叩かれながらもそれなりになじんだ仲間たちから離れ、新しい勤務先でまた最初から人間関係を築いていくことになります。
その男社会の典型が第一話の「その夜の二人」で泊り当番で一緒になった四十四、五歳の「かなり大柄の恰幅の良い
」と表現されている盗犯担当の金井警部です。
この男に関しては、刑事部の鑑識係員の薮内奈苗警部補が「図体はでかくて肝っ玉は小さい
」が、「敵に回すと面倒なタイプ
」と言っています。
この薮内奈苗は、「奈苗は奈苗で、様々な思いをしてきているらしい
」のですが、彼女のおかげで貴子も助かっています。この奈苗は、第二話で貴子と一緒に相談のあった被害者宅へと行くことになります。
また、新しい職場での貴子の相棒として、京都大学農学部出身でノンキャリアという変わり種の玉城警部補が登場しています。
第二話の「残りの春」では、貴子は沢木秀逸警部補という東大出のいかにも頼りがいのないキャリア官僚の世話をすることになります。
このキャリアが中学生とトラブルになっていた三方幸三郎という老人を尋問する場面はこのシリーズでは珍しいユーモアに満ちた場面です。
しかし、後半になると薮内奈苗と共に訪れた相談者宅で思いもかけない事態に遭遇するのでした。
第三話「木綿の部屋」は、『凍える牙』で登場してきた滝沢刑事の意外な一面が描かれています。
同時に、どうしようもない男に惚れた女の弱さもまた哀しく描かれています。
こうした作品はまたシリーズの奥行きを一段を深めるようで内容は違いますが楽しく読んだ話でした。
第四話「嗤う闇」では、恋人の昂一が被害者からレイプ犯だと指摘されてしまいます。
現場に駆け付けた貴子は、助けを求める声に応じて駆け付けただけなのにひどい目に遭っている昂一の姿を見るのでした。
どの話も女性刑事としての音道貴子の日常がリアルに描かれている点ではシリーズのほかの作品と同様です。
ただ、貴子は巡査部長へ昇進し、職場が機動捜査隊からいわゆる所轄署へと異動になっています。
つまり警視庁刑事部第三機動捜査隊立川分駐所から隅田川東警察署刑事課へと変化し、これまでのパトカーで巡回し発生した事件現場へいち早く駆け付けて初動捜査を行う立場から、地域の警察署に勤務し、普段は日常の警察業務をこなし、事件が起きたときに捜査を受け継ぐ立場へと変化しているのです。
とはいえ男社会で過ごしている立場に変化はなく、相変わらずに女性ならではの苦労をしています。
所轄署で玉城警部補を相棒として過ごす主人公の日常が描かれ、音道貴子の様子が描かれているのです。
小説としての面白さに変わりはなく、シリーズ作品を改めて読んでみたいと思っています。