「軍鶏侍…か」十九年かけて敵討ちをなし、武士の鑑と讃えられた園瀬の英雄大野礼太郎は、岩倉家の庭でぼそりと漏らした。その大野が突然の乱心を起こし、岩倉源太夫に上意討ちの命が下る。長い歳月を孤独のうちにすごさねばならなかった藩士の胸の内とは(『孤愁』)。淡々と、しかしはっきりと移ろう園瀬の日々に、家族の姿を浮かび上がらせる珠玉の四編を収録。(「BOOK」データベースより)
再始動した『新・軍鶏侍シリーズ』の第二巻の連作の短編時代小説集です。
「孤愁」
六歳で父を殺されてから三十一年、十八歳で園瀬を出てからでも十九年を経て艱難辛苦の末に父親の仇を討った大野礼太郎は、園瀬の里で一代の英雄として迎えられた。しかし、三十八歳で藩士として復帰するまで世の常識を知らずにいたのだった。
「似たもの夫婦」
かつては才二郎と呼ばれていた東野弥一兵衛と妻の園は、園が「住めば都さん」と呼ばれていることを初めて知った。五歳になった二人の子である勝五は、早く剣を習いたくて仕方がない様子だった。
「遊山の日」
園瀬では領民には盆踊りが、武家には初代藩主九頭目至隆公に由来する、藩祖お国入りの日の前山遊山が許されていた。今回の原太夫の前山遊山には、養子龍彦が長崎遊学の若手の一人に選ばれた挨拶をまとめてしておこうという目的もあった。
「藍と青」
戸崎喬之進が十二歳になる息子の伸吉を入門させたいとやってきた。幾人かの弟子と立ち会わせると、勝つがかろうじてというところであり、原太夫は「真に強い者は圧勝しない」という師の日向主水の言葉を思い出していた。
本書のタイトルは「家族」となっています。本書の各短編は、第一話こそ一人の藩士の“武家社会に対する異議申し立て”の物語となっていますが、それ以外はまさに「家族」を考えさせる話になっています。
でも、その第一話でさえも、「武家である以上、一寸先が見えないと心得ていなければならない。」「だからこそ、日々を、そして周りの者を大切に、愛しまねばならないのである。」と結んでいます。
描かれている内容は、個々の事情をまったく考慮せずに武士のあるべき姿を押し付けるだけの理不尽な武家社会の姿です。だからこそ日々の生活での家族の大切さが浮かんできます。
第二話では、「軍鶏侍」シリーズの第五弾『ふたたびの園瀬』の表題作「ふたたびの園瀬」で描かれていた東野才二郎夫婦の今の姿が描かれています。
かつての東野才二郎、今の弥一兵衛とその家族の話ですが、何よりも二人の間の五歳になる息子勝五の姿が生き生きとしています。
また、「住めば都のお園さん」と親しみを込めて呼ばれる園の姿が、今の弥一兵衛一家の幸福感をあらわし、「ふたたびの園瀬」にも登場した六谷哲之助がまた現れるのも、弥一兵衛の幸福感を強調する役目を果たしています。
そして第三話では、前山遊山に名を借りての園瀬という土地の説明と、原太夫の二人の息子のうち、養子である龍彦のようすが語られます。
第四話になると、「軍鶏侍」シリーズの第一弾『軍鶏侍』の第四話「ちと、つらい」で語られた戸崎喬之進の息子の伸吉と、伸吉を通してみた原太夫のもう一人の息子幸司の物語になっています。
やはり、野口卓という作家の中でもこの『軍鶏侍シリーズ』は特に私の好みに合致します。
なかなか続巻が出ないと思っていたところ、「新・軍鶏侍シリーズ」として再開しました。残念ながら再開第一巻の『師弟』はいまだ図書館に購入されておらず、再開第二巻の本書『家族』から読み始めることになってしまいました。
好みの文庫本くらいは買えよという話ですが、まあ、待ちましょう。
本シリーズは、主人公岩倉源太夫というキャラクターも良いのですが、一番は園瀬という里の自然描写を物語の中にうまく取り入れてあるところだと思われます。
本書においてもそれは変わらず、美しい園瀬の里を舞台にドラマが展開されます。それも、以前のシリーズでの登場人物のその後の紹介を兼ねての展開です。
今後のさらなる展開を楽しみに待ちましょう。