『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』とは
本書『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』は、『手蹟指南所「薫風堂」』シリーズの最終巻で、角川文庫から2020年2月に文庫本書下ろしで出版された人情時代小説です。
野口卓らしい小説ではあったものの、私の好みとはちょっと異なる作品でした。
『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』の簡単なあらすじ
「薫風堂」の師匠・雁野直春は、稔書堂の北斗屋庄兵衛に依頼された書物の執筆に専念しながら、新しい年を迎えた。手習子たちとともに書初めを終えた直春は、意外な人物の訪問を受ける。それは、婚姻を約束しながら果たせずにいた石川家の美雪の母、阿久里だった。旗本の姫と浪人である直春との叶わぬ夢は、阿久里の来訪で終わりを告げるのか。さらに、直春に因縁ある実父から突然の呼び出しが―。シリーズ完結!書き下ろし長篇時代小説。(「BOOK」データベースより)
捻書堂の北斗屋庄兵衛から頼まれた「手習心得」の執筆も何とか目途がついた雁野直春だったが、美雪の母親の阿久里が訪ねてきて、美雪との縁談は無かったものにしてくれと言ってきた。
美雪が手習所の女房になることは事実上できないことを察していた直春は、決別を受け入れ、また父親の春田仁左衛門にも自分との関りを断ってほしいと頼み、また緑之助にも報告をするのだった。
その後、定吉が兄弟子と喧嘩をして奉公先をやめさせられた事件などもあったものの、「手習之心得」と変更した本の書き直しも順調な直春だった。
『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』の感想
本書『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』は、本書『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』は、『手蹟指南所「薫風堂」』シリーズ』の最終巻でとなる人情時代小説です。
本書『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』は、まさにタイトル通りに、これまでの話が「廻り道」に過ぎなかったという実にベタな最終巻になっています。
ここまで来たらネタバレでもないと思うので書きますが、本書のラストは結局は大衆小説の王道の大団円というやつです。
同じ大団円でももう少し変化のつけ方があってもいいかなとは思いましたが、大団円での完結ということ自体には何の文句もありません。
それどころか、こうした終わり方自体は明るい未来を指し示すものとして個人的には好んでいるほどです。
とはいえ、言いたいのはそこではなく、やはり野口卓の小説としては『軍鶏侍シリーズ』と比較してしまうのは避けがたく、その結果、もの足りなさを感じてしまったということです。
『軍鶏侍シリーズ』の中で番外編とでもいうべき立ち位置にある作品として『遊び奉行』という作品があります。
この作品は、『軍鶏侍シリーズ』本編で描かれる園瀬藩の権力争いの部分を取り上げ、視点の主を本編の主人公の岩倉源太夫とは別な人物として設定し情感豊かに描き出したものです。
このような作品を書いているのですから、本書のような手習所の師匠を主人公とした作品でも、ストーリー性を重視した作品を描いてほしいと痛切に感じたのです。
本書『廻り道 手蹟指南所「薫風堂」』のような、江戸の庶民の生活を作者野口卓の豊富な知識を持って紹介する、という作品も悪いとは言いませんが、やはり個人的な好みで申し訳ないのですが野口卓の語るストーリー重視の物語を期待します。
本書では、それまでの本シリーズで語られてきた直春の実の父親の春田仁左衛門との確執の話や、仁左衛門からもたらされた石川家との縁組やその相手の石川美雪という娘との恋模様の描写がありました。
それと同時に、こちらが主眼かとも思うのですが、手習所のあり方や「薫風堂」での手習子との交流などが描かれていました。
その中で手習所のあり方については、恩人である忠兵衛や書肆である捻書堂の北斗屋庄兵衛などとの会話などでも語られています。
さらには、江戸の庶民の生活の一端が様々な雑学的豆知識として語られていて、読み手の好奇心を満足させてもくれてもいます。
本書での美雪との恋模様では美雪の友人である菜実という娘が登場しましたが、物語に刺激を与える存在としてあったのでしょうが、直春の初心さを示すものとして必要だったかは疑問がありました。
その菜実の行いそのもの、またその行いに対する美雪の振る舞いが若干不自然に感じたのです。
本書で語られる教育論や豆知識などは、それはそれとして魅力的です。
そうして事柄を好む人たちにとっては、本『手蹟指南所「薫風堂」シリーズ』は、たまらない魅力を持った作品だと思います。
ただ、私の好みとは少々異なりました。
今後の野口卓の作品に期待したいと思います。