『逃亡刑事』とは
本書『逃亡刑事』は『高頭冴子シリーズ』の第一弾で、2017年11月にPHP研究所から326頁のハードカバーで刊行され、2020年6月にPHP文芸文庫から288頁の文庫として出版された、長編の警察小説です。
男勝りで、だれからも恐れられている女性刑事が、とある刑事の殺害現場に居合わせた少年を守りながら、濡れ衣を着せられたため警察を相手に逃亡しながら真実を探り当てるというミステリー作品です。
これまで読んだ中山七里の作品の中では個人的にはあまり高い評価をつけることはできない作品でした。
『逃亡刑事』の簡単なあらすじ
単独で麻薬密売ルートを探っていた刑事が銃殺された。千葉県警刑事部捜査一課の高頭班が捜査にあたるが、事件の真相を知った警部・高頭冴子は真犯人に陥れられ、警官殺しの濡れ衣を着せられる。自分の無実を証明できるのは、事件の目撃者である八歳の少年のみ。少年ともども警察組織に追われることになった冴子が逃げ込んだ場所とは!?そして彼女に反撃の手段はあるのか!?息をもつかせぬノンストップ・ミステリー。(「BOOK」データベースより)
『逃亡刑事』について
『高頭冴子シリーズ』の第一弾である本書『逃亡刑事』は、刑事殺しの濡れ衣を着せられたために警察を相手に逃亡しながら真実を探り当てるミステリー作品ですが、個人的にはあまり高い評価をつけることはできない作品でした。
本書の主人公の高頭冴子は、周りからはアマゾネスといわれるほどに体格もよく、実際にチンピラを腕力で簡単にねじ伏せたりするほどの力を持った女性です。
例えば、取調室で鯖江という広域暴力団宏龍会の構成員を相手に鯖江が握り潰した珈琲缶をさらに圧し潰してしまうというパフォーマンスを見せています。
こうしたパワフルな女性を主人公にした警察作品は少なからず存在します。
例えば、逢坂剛の『禿鷹狩り 禿鷹4』(幻冬舎文庫 上下二巻)に登場する岩動寿満子という女性刑事です。
この女性は主人公である禿富鷹秋刑事の敵役として登場する女版のハゲタカであり、その個性は強烈です。
また、体格こそ本書の高頭冴子のようではありませんが、やっていることはあまり変わらない女性刑事として 深町秋生の描く『組織犯罪対策課 八神瑛子シリーズ』(幻冬舎文庫 全五巻)
を挙げてもいいのかもしれません。
話をもとに戻しますが、その腕力、行動力共に男勝りの高頭刑事が罠に陥り、刑事殺しの犯人に仕立て上げられ、警察署全体から追われる羽目に陥ります。
その上、自分の無実を証明する手立てでもある、その刑事殺しの現場に居合わせ、犯人を目撃した少年を保護しながらの逃避行ということになるのです。
この御堂猛という八歳の目撃者の少年は、児童養護施設で職員からの日常的な暴力に遭っており、施設からの逃亡の末に隠れていた家屋で犯行を目撃したものでした。
この少年を連れての逃亡劇は、思いもかけない人物を引き入れることになるのです。
この人物の手助けを得ての逃亡の末、高頭刑事はどのように復権を果たすか、その手際が読みどころであるのは言うまでもありません。
ただ、「どんでん返しの帝王」という異名を持つほどの作家の中山七里作品にしてはベタといってもいいほどの展開であり、期待に応えた作品とは言えなかったのです。
本書に続いて『越境刑事』『武闘刑事』と高頭刑事を主人公とする作品がシリーズ化されているそうですが、たぶん読まないのではないでしょうか。
