『迷うな女性外科医 泣くな研修医7』とは
本書『迷うな女性外科医 泣くな研修医7』は『泣くな研修医シリーズ』の第七弾で、2024年12月に幻冬舎文庫から288頁の文庫として出版された長編の医療小説です。
主人公がこれまでの雨宮から彼の指導医である佐藤玲へと代わった、シリーズのスピンオフ的な位置にある、とても引き込まれて読んだ作品でした。
『迷うな女性外科医 泣くな研修医7』の簡単なあらすじ
佐藤玲は三一歳の女性外科医。恋人と会うより手術の腕を上げることに夢中で、激務の日々も辛くない。そんな中、玲はある男性患者の主治医を命じられる。彼は、玲が新人時代に憧れた辣腕外科医。病名は直腸癌、ステージ4だったー。現役外科医が命の現場をリアルに描くシリーズ第7弾、雨野隆治の頼れる先輩・美しくクールな佐藤玲の物語。(「BOOK」データベースより)
『迷うな女性外科医 泣くな研修医7』の感想
本書『迷うな女性外科医 泣くな研修医7』は『泣くな研修医シリーズ』の第七弾で、このシリーズの主人公を変えて展開されるスピンオフ的な長編の医療小説です。
前巻までの主人公の雨野隆治に代わり、彼の指導医である佐藤玲が主人公となり物語が展開されます。
佐藤玲を主人公とする本書の特色は、男性社会といわれる外科医の世界に飛び込んだ女性医師ならではの問題点が取り上げられているところです。
また、佐藤玲が担当することになった新しい入院患者がかつて佐藤玲の指導医だった人物だったという、玲の個人的関係者が患者であることも特色といえます。
人の命を預かる医療従事者としてのドラマに加え、女性が外科医になるに際しての様々な問題点が取り上げられているのです。
というのも、女性ならではの生理の話や、さらには妊娠にともなって仕事を停止しなければならない女性医師の目線での問題などが軽くではありますが取り上げられているのです。
この話は単に女性だから仕方がないということではなく、女性ゆえに抱えるつらさのみならず、結婚や妊娠の先に存在する、外科医という職をあきらめなければならない現実にまでつながります。
また、産婦人科の「医局」に入っている玲の親友の鷹子が「ハラスメントのデパート」というほどの男社会の問題もここで取りあげられるべき話でしょう。
次の注目点は、現在の牛ノ町総合病院の消化器外科副部長である岩井智也の親友で玲の指導医でもあった東凱(とうがい)慎之介という人物が、玲の担当する入院患者になってきたことです。
彼は東京医科薬科大学大学病院の現役の外科医ですが、自身が直腸癌を患ったため、自分の職場への入院を避け、親友の岩井がいる牛ノ町総合病院へ入院してきたものでした。
彼の病は、詰まりかけの直腸癌、多発肺転移、ステージ4という厳しいものだったのです。
その他に、新人外科医の心得や救急医療の現場での心得が語られていたりと、リアルな医療の現場の様子がこれでもかと描かれています。
また、玲の仕事としては、牛ノ町病院の外科医として担当入院患者の診察等があるほかに宿直医として病院へ泊まり込みがあって、さらに自身の学会発表のための書類作成もあり、加えて指導医として雨野や凛子へのレクチャーなどもあるのです。
ほかにも保険会社の必要書類などの日常の仕事に伴う雑務をこなし、休みの日にも担当患者の急変などの場合の緊急の呼び出しなどもあります。
このように、医師の主な仕事を挙げただけでもその大変さが伺われるうえに、現役の医師が描き出す現場の話なのでその臨場感には目を見張るものがあるのです。
また、単に現役医師のリアルな話というだけでなく、それ以上に中山祐次郎という作家としての力量の高さゆえに登場人物の心象を描き出す力量が高いのだと思い知らされます。
女性医師を主役にした医療小説といえば、私が読んだ中から挙げると南杏子の『いのちの停車場』という作品があります。在宅医療に突きつけられた問題点をテーマに、非常に重く辛い現実が描かれた医療小説です。
女性医師に限らずに言えば、他に夏川草介の『神様のカルテシリーズ』がありますし、大鐘稔彦の『孤高のメス―外科医当麻鉄彦』など、多くの名作が書かれています。
本シリーズもそうした医療小説の中の一冊として取り上げられることになると思われるのです。