長月 天音

ほどなく、お別れですシリーズ

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ほどなく、お別れです それぞれの灯火』とは

 

本書『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』は『ほどなく、お別れですシリーズ』の第二弾で、2020年2月に小学館から刊行され、2023年3月に小学館文庫から336頁の文庫として出版されたお仕事小説です。

死者の思いを感じ取ることのできる主人公が、ある葬儀場で働くなかで故人や残された人たちの思いに接しながら成長していく姿が描かれています。

 

ほどなく、お別れです それぞれの灯火』の簡単なあらすじ

 

清水美空がスカイツリー近くの葬儀場・坂東会館で働き始めて約一年。若者や不慮の死を遂げた方など、誰もが避けたがる「わけあり」葬儀を進んで引き受ける葬祭ディレクター・漆原のもと、厳しい指導を受けながら、故人と遺族が最良の形でお別れできるよう、奮闘する日々を過ごす。ある真冬の日、美空は高校の友人・夏海と再会する。近況報告をし合うなか、美空の職業を聞いた夏海は強張った表情で問う…「遺体がなくても、お葬式ってできるの?」。夏海の兄は、五年以上も海に出たまま行方不明になっていた。喪失の苦しみを優しくほどく、あたたかなお葬式小説。(「BOOK」データベースより)

プロローグ | 第一話 揺蕩う心 | 第二話 遠景 | 第三話 海鳥の棲家 | 第四話 それぞれの灯火 | エピローグ

 

ほどなく、お別れです それぞれの灯火』の感想

 

本書『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』は『ほどなく、お別れですシリーズ』の第二弾の、葬儀場の坂東会館を舞台にしたお仕事小説です。

葬儀場を舞台として「死」そのものを直接にテーマにしている話だけあって、一歩間違えばお涙頂戴的な物語になりそうなところを、主人公の成長する姿も描きながらうまく処理してあります。

 

本シリーズの前巻の項で書いたように、本書はその宣伝文句として『神様のカルテシリーズ』を引用して紹介してあります。

ただ本書の場合は、既に亡くなられた方と残された方の双方の思いを中心にドラマが描かれています。

ここで「既に亡くなられた方」の思いが描かれているのが本書の特徴であり、死者の思いを感じとることのできる能力を持つ主人公の清水美空や、死者と会話ができる能力を有する僧侶の里見道生らが登場する意義があります。

 

例えば、第一話では突然の交通事故で十七歳の息子を失った母親の悲しみと憎しみを中心に、故人の母親への思いも併せて描かれています。

里見によれば、母親を大事に思っていた故人は、母親が加害者を憎むあまりに自分を見てくれないと悲しんでいるというのです。

そうした個別の葬儀を描きながら、美空や美空の師匠でもある漆原らを中心とした坂東会館のスタッフたちは、故人とご遺族最後の別れを意義のあるものにしようと努力している姿が本書を通して展開されます。

それは、第一話の息子の死に対する母親の悲嘆であり、第二話での故人への義理の息子の後悔であり、第三話では悲しみに耐えていた妻の心であり、そして第四話でのやっと念願の仕事に就いた娘への思いの話なのです。

 

前述したように、本書の主人公の清水美空は強い霊感の持ち主であって、舞台となる葬儀場「坂東会館」は美空にとってもってこいの職場でした。

そこには、面倒見のいい先輩社員の赤坂陽子や死者との感能力を持つ光照寺の僧侶の里見道生、そして何よりも葬儀にまつわる事情を見抜く卓抜した観察力と現場対応能力を持つ葬祭ディレクターの漆原らがいたのです。

そして、本書では坂東会館に勤めてもう一年近くになる美空が、大いなる不安を抱えながらも葬儀の司会の経験などへと踏み出す姿が描かれています。

そこには、葬儀という人の究極の別れの儀式を世話することで、人間としてもまた職業人としても成長していく美空の姿があって本書のお仕事小説としての側面があると共に、美空の成長の姿が描かれているのです。

 

そしてもう一点、サーフィンで海に乗り出したまま五年たった今でも遺体すら見つかっていない、美空の学生時代からの親友白石夏美の兄海路の話が描かれています。

美空の司会の話は美空の成長そのものの話であり、本書の大きな主題の一つになっています。

一方、夏美の兄の話は、新たに登場してきていた駒形橋病院に看護師として勤務している坂口有紀という女性が大きくかかわってきます。

家族と恋人とがそれぞれの思いにけじめをつけなければ前に進めずにいるため、葬儀をすることでけじめをつけようとするのです。

漆原が言う「葬儀は区切り」だという言葉が本書のもう一つのテーマになっていると思えます。

 

本書では、葬儀に際し、故人の思いを大切にすることはもちろんですが、残された人たちの思いも大切なのだと記してあります。

これから先の人生を生き抜いていかなければならない残された人たちのためにも、心が込められた葬儀をひとつの区切りとするのだということでしょう。

身近な人との別れはだれしも避けては通れないでいことです。その別れに際してのお手伝いを通して成長していく美空の姿は、読者それぞれの心に残ることだと思われます。

[投稿日]2025年02月26日  [最終更新日]2025年2月26日

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