『PRIZEープライズー』とは
本書『PRIZEープライズー』は、2025年1月に文藝春秋から384頁のハードカバーで刊行された長編の現代小説です。
「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2025 小説部門」で第1位を獲得し、2026年本屋大賞で第3位となった作品で、かなり惹きこまれて読んだ作品です。
『PRIZEープライズー』の簡単なあらすじ
天羽カインは憤怒の炎に燃えていた。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝いた。それなのに、直木賞が獲れない。文壇から正当に評価されない。私の、何が駄目なの?…何としてでも認めさせてやる。全身全霊を注ぎ込んで、絶対に。業界震撼の“作家”小説!(「BOOK」データベースより)
『PRIZEープライズー』の感想
本書『PRIZEープライズー』は、「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2025 小説部門」で第1位を獲得し、2026年本屋大賞で第3位となった作品です。
ノミネートはされるものの受賞するには至らないある作家の直木賞を獲得したいと足掻く物語で、かなり惹きこまれて読んだ作品です。
本書は最も高名な文学賞のうちの一つである「直木賞」がテーマになっているだけに、とても関心をもって読み始めました。
当初は、直木賞が欲しい作家の物語、という簡単な事前知識のためコミカルな作品かと思いながら読み始めたのですが、すぐに間違いに気づきつつも、とても興味深くまた惹き込まれながら読み終えてしまいました。
まずは舞台裏に関しては何も知らない世界を垣間見せてくれるという意味で、お仕事小説としての面白さがありました。
そこでは、文章を紡ぎだすという作家の作業の真摯さを確認すると同時に、一冊の「本」を作り上げていく作業の工程の多さに驚かされます。
また、作家自身のなすべき作業としての雑務の多さへの驚きと同時に、作家と共に作品を作り上げる編集者の作業がいかに多岐にわたっているかにもまた驚かされました。
同時に、現実に存在する文学賞である直木三十五賞、いわゆる直木賞の具体的な選考過程の説明もあって、こうした点でもまたお仕事小説としての面白さに満ちています。
以上はお仕事小説として、未知の事柄を知る喜びについての面白さです。
そして、これがメインですが、作家や編集者のそれぞれの内面が、業界ならではの視点で詳しく描き出されているのです。
作家の天羽カインの強大な自我は、一瞥するだけでは傲慢としか言いようのない言動として現れ、書店関係者や出版関係者たちを振り回します。
しかし、彼女の傲慢さは自分の作品や作品の読者に対するに強烈な愛情がその根底にあったのです。
とはいえ、客観的には尊大であり横柄な態度の天羽カインと彼女に心酔する編集者の緒沢千紘との関係性の変化もまた見どころです。
この両者の関係性の変化に関しては、読む人により評価が変わってくるのではないかと思います。
また、本書では直木賞選考委員としてどこかで聞いたような名前の作家さんたちが多数登場します。なかでも南方権三や馳川周などはすぐにモデルが浮かぶほどです。
天羽カインがこの直木賞の選考委員である南方権三と萩尾今日子と出会い、議論ともいえない会話を交わす場面は圧巻です。
その後、天羽カインが新たに『テセウスは歌う』という作品を仕上げていく過程が描かれていますが、その過程で編集者の緒沢千紘とのやりとりへと移っていきます。その対話の中で萩尾今日子の言葉が浮かんでくる場面もまた私には響きました。
こうした、作品に対する評者の視点のあり方などもいち読者の眼には新鮮です。と同時にその後に天羽が打ちのめされていく姿があるのは天羽自身でも指摘された点に自覚があるからでしょう。
ただ個人的には、天羽カイン担当編集者の緒沢千紘や「オール讀物」編集長の石田三成たちの今後、さらには天羽カインの「下男」であるサカキという存在自体への関心など、この物語のその後に変な関心が残っています。
でも、本書は「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2025 小説部門」で第1位となり、2026年本屋大賞では第3位となっているのですから、そんなことはどうでもいいことなのでしょう。
それよりも、天羽カインという人物の造形、それらを通して感じる物語全体の「小説」というものに対する作者の愛情こそが大事なのだということなのでしょう。
そして、それらを感じて惹かれているのですから、それでいいと思うことにします。