『警視庁心理捜査官』とは
本書『警視庁心理捜査官』は『警視庁心理捜査官シリーズ』の第一弾で、2000年12月に徳間書店から刊行され、2004年2月に徳間文庫から上下二巻で848頁の文庫として出版された、長編の警察小説です。
現実には存在しない「心理捜査官」という新しい職種の女性捜査官を主人公に据えた、かなり読み応えのある作品でした。
『警視庁心理捜査官』の簡単なあらすじ
今日からの俺は、昨日までの自分とは違う。あらゆる道徳はもはや無意味だ。この闇が自分を守ってくれる。そして俺は、闇から自在に姿を現し、獲物を再び闇の中に連れ去って行くのだ…。男が立ち去った後に残されたのは、凍てつく路地の暗闇で場違いに扇情的な姿勢を取らされた女の死体だけだったー。暴走する連続猟奇殺人犯を追い詰める、心理捜査官・警視庁二特捜四係吉村爽子の活躍。(新境地と高評された傑作警察小説)(上巻:「BOOK」データベースより)
いまでも夢に出てくる、あの男の目。泣けば殺される、自分では何もできない恐怖、惨めな悲しみに突き落とされたあの時の。だから、この犯人だけは許さない!女という性を愚弄し続ける性犯罪者を…。忌まわしい記憶の葛藤を抱えながら快楽殺人犯を追う吉村爽子。女であるがゆえに、心理捜査官であるがゆえに捜査陣の中で白眼視されながら、遂に犯人に辿り着く。圧巻のクライマックス。(下巻:「BOOK」データベースより)
『警視庁心理捜査官』の感想
本書『警視庁心理捜査官』は『警視庁心理捜査官シリーズ』の第一弾で、そこそこに読み応えはあった作品でした。
女性捜査官が主人公であることは目新しいとは言えないでしょうが、その担当職種が「心理捜査官」という点が面白い設定の作品でした。
作者の黒崎視音は本作がデビュー作だそうです。
しかし、読者として大切なのは対象作品が面白いか否かという点であり、文庫本で上下二巻で848頁にもなるという長さは必要か、という疑問はありました。
同時に、登場人物がステレオタイプに思え、また主人公の心理描写が少々冗長にも感じました。
でも、本書がデビュー作であること、そしてそれなりにのめり込んで読み終えたことを考えると、この作品はある程度評価すべきものなのでしょう。
本書の主人公は吉村爽子という警視庁捜査一課第二特殊犯捜査四係所属心理応用特別捜査官の巡査部長で、日本ではあまりなじみのないプロファイリングを犯罪捜査に生かすことを期待された存在です。
ここでプロファイリングとは、「犯罪捜査において犯罪の性質や特徴から行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論すること。」(ウィキペディア)を言うそうですが、推理小説、特に警察小説の分野ではこの言葉自体は目新しいものではありません。
私が読んだ作品の中では、例えば今野敏の『警部補・碓氷弘一シリーズ』に登場する藤森紗英は、警察庁の心理調査官という設定です。
また、長沢樹の『ダークナンバー』もプロファイラーとテレビマンの二人の活躍を描く長編の警察小説です。
でも、私が読んだ時期が本書が後になったというだけであり、本書が先駆的な作品だと言われているようです。
幼いころに暴漢に襲われたトラウマを持っていること、男社会である刑事たちの「勘」こそが大事だという中にあってプロファイリングなど無視されていること、など、その設定も目新しいことではありません。
例えば、本書の主人公吉村爽子同様にレイプという被害を受けたことのある主人公と言えば誉田哲也の『姫川玲子シリーズ』の姫川玲子がいます。
また、深町秋生の『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』の八神瑛子は夫が何者かに殺された過去があります。
さらに、女性警官と言えば男社会の中で理不尽な目に遭いつつもその障害を乗り越えていく姿が描かれますが、そのことは乃南アサの直木賞受賞作である『凍える牙』から始まる『女刑事音道貴子シリーズ』なども同じです。
また、ステレオタイプな登場人物に思えるという点も、本書の敵役である大貫裕也警部は少々型にはまりすぎており、単に男の典型としての存在でしかないようです。
その他の上司たちもまた主人公に振り舞わされる側の男として存在しますが、佐久間貴則警視などその描かれ方は均一に思えます。
特に、爽子が騙され、利用された過去がある吉川政治警部補なども同様で、存在感を感じにくい存在でした。
とはいえ、現実には存在しない、しかしながら現在ではその重要性が認識されているプロファイリングに注目し、心理捜査官という職種を新たに設けて女性を配置し、物語を構成した点は面白く読みました。
特に、柳原明日香警部というキャラクターは魅力的です。この人物を主人公としてスピンオフ作品が書かれているのもうなずけます。
総体的に物語の冗長性と、描かれている登場人物たちの存在感の薄さ、などの欠点は感じるものの、かなり面白く読んだ作品でした。