今野 敏

隠蔽捜査シリーズ

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疑心 隠蔽捜査3』とは

 

本書『疑心 隠蔽捜査3』は『隠蔽捜査シリーズ』の第三弾で、2009年3月に刊行されて2012年1月に関口苑生氏の解説まで入れて426頁で文庫化された、長編の警察小説です。

恋に落ちた竜崎、という珍しい設定の物語であるにもかかわらず、警察小説としても面白さを持った作品でした。

 

疑心 隠蔽捜査3』の簡単なあらすじ

 

アメリカ大統領の訪日が決定。大森署署長・竜崎伸也警視長は、羽田空港を含む第二方面警備本部本部長に抜擢された。やがて日本人がテロを企図しているという情報が入り、その双肩にさらなる重責がのしかかる。米シークレットサービスとの摩擦。そして、臨時に補佐を務める美しい女性キャリア・畠山美奈子へ抱いてしまった狂おしい恋心。竜崎は、この難局をいかにして乗り切るのか?-。(「BOOK」データベースより)

 

竜崎は、アメリカ大統領の来日に際し、第二方面警備本部本部長に任命された。

そんな折、かつて竜崎の下で研修を行ったことがある畠山美奈子という女性キャリアが竜崎の補佐を勤めるためにやってきた。

ところがこの女性が竜崎の心をとらえてしまい、いつもと異なる竜崎の姿がみられることになるのだった。

一方、竜崎の家庭では娘の美紀と交際相手の忠典との仲が暗礁に乗り上げていた。

 

疑心 隠蔽捜査3』の感想

 

本書『疑心 隠蔽捜査3』は、主人公の竜崎伸也大森署署長が、来日するアメリカ大統領に対するテロを未然に防止するために奔走する姿が描かれる物語です。

そして、異例のことですが羽田空港を管轄内に抱える大森署の署長の竜崎が第二方面警備本部本部長を担当することとなり、アメリカのシークレットサービスとの折衝という面倒な作業を抱えることになります。

この本部長という重責を担った竜崎の前に藤本警備部長の後ろ盾がある警備部警備第一課所属の畠山美奈子というキャリアが登場します。

この女性は、竜崎が警察庁の総務課広報室長だった時代、研修期間中に広報室に来たことがある女性だったのですが、この女性が竜崎の心をかき乱すさまが、本書の一番の見どころということになります。

竜崎にとって、かつてはいじめられた相手とは言いながらも警視庁刑事部長の伊丹俊太郎という人物に頼る竜崎の姿もあり、やはり物語の面白さでは安定しています。

 

さらに、米国土安全保障省所属シークレットサービスとはジョン・ストリングフィールドエドワード・ハックマンというコンビだったのですが、彼らが大統領に対するテロ計画に日本人が関与しているという情報を持ってきます。

そこで、二人のうちのハックマンという男が羽田を抱える竜崎の本部に詰め、さらに羽田の様子をチェックしたハックマンは羽田空港の閉鎖を要求するなど日本の警察と衝突することになります。

まさにプロフェッショナルな仕事をするシークレットサービスとの竜崎のやり取りが本書の見どころの二番目であり、また第二方面本部の野間崎管理官などのキャリア同士の争いが次の見どころになります。

 

竜崎という特異なキャラクターを育て上げた作者の今野敏という人の筆力には驚かされるばかりですが、本書においてもその筆の力は十分に発揮されています。

なにせ、あの竜崎署長がハイティーンのように心が揺れる様子が一番の見どころだ、というのですからいつもの本シリーズのファンはもちろん興味を惹かれない筈はありません。

ただ、その点は本シリーズを知らない人にとっては竜崎の様子は少々異常とも思え、その面白みを理解しがたい可能性はあります。

でもそうした場合であっても、キャリアでありながら所轄の署長という職務についている竜崎という主人公の仕事ぶりには惹かれるものがあると思うのです。

 

そういう点では、竜崎が恋心を抱いたために明晰である筈の頭脳の働きが鈍っているという場面のために、本書がシリーズ内で独特の位置にある、とはいってもそのことが逆に竜崎の独自性を示すことにもなるかもしれません。

いずれにせよ、当然のことながら竜崎の胸のすく活躍は見れるのですから、やはり読みごたえがある作品だと言えます。

[投稿日]2022年12月06日  [最終更新日]2022年12月6日
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