今野 敏

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

イラスト1

ビート 警視庁強行犯係・樋口顕』とは

 

本書『ビート 警視庁強行犯係・樋口顕』は『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の第三弾で、2000年10月に幻冬舎からハードカバーで刊行されて2008年5月に新潮文庫から545頁の文庫として出版された、長編の警察小説です。

警察小説ではありますが、家族小説の側面がかなり強い作品でもあり、またストリートダンスについて語られたスポーツ小説的ニュアンスをも含んだ作品でもあります。

 

ビート 警視庁強行犯係・樋口顕』の簡単なあらすじ

 

警視庁捜査二課・島崎洋平は震えていた。自分と長男を脅していた銀行員の富岡を殺したのは、次男の英次ではないか、という疑惑を抱いたからだ。ダンスに熱中し、家族と折り合いの悪い息子ではあったが、富岡と接触していたのは事実だ。捜査本部で共にこの事件を追っていた樋口顕は、やがて島崎の覗く深淵に気付く。捜査官と家庭人の狭間で苦悩する男たちを描いた、本格警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

ビート 警視庁強行犯係・樋口顕』の感想

 

本書『ビート 警視庁強行犯係・樋口顕』は、『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の第三弾となる警察小説です。

若者の取り組むストリートダンスについてもかなり詳しく描いてあり、さらには家族小説の側面も強い作品となっていて、かなり面白く読んだ作品です。

ここで、英次が通うダンススクールは「いわゆるオールドスクール系」のダンススクールということですが、ここで「オールドスクール」とは「70~80年代に生まれたストリートダンスの総称」だということです( ダンススクール【NOAダンスアカデミー】 : 参照 )。

 

本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の主役はもちろん樋口顕警部補ですが、本書の本当の主人公は警視庁捜査二課に所属する島崎洋平という刑事であり、その次男の島崎英次という若者です。

父洋平も兄の丈太郎も同じ大学の柔道部の出身であり、英次も幼い頃は近所の柔道教室に通っていたのですが、体格に劣っていた英次は優秀な兄と比較され挫折を味わい、いつか柔道をやめて夜の街へと遊びに出るようになってしまいます。

そんな英次に対し父親の洋平は厳格さだけを求め、英次をさらに家から遠ざけてしまいますが、英次はダンスと出会い、これに夢中になっていたのです。

ところが、兄の丈太郎が、所属していた大学柔道部の先輩で日和銀行に勤める富岡和夫という男に父親の捜査情報を漏らしてしまったことから、父親の洋平も捜査情報を漏らすように脅迫を受け、日和銀行本店への家宅捜査情報を教えてしまいます。

そのため、その家宅捜査は失敗に終わってしまいますが、その富岡が何者かに殺されてしまったのでした。

 

本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』は、チームとしての協同という点を除けば『安積班シリーズ』にも似た警察小説として人気を博しているシリーズですが、本書の場合は若干毛色が異なるようです。

何しろダンスに対する作者の思いがかなり強く、同時に体育会系の縦社会への反発が明確に記されているのです。

作者の今野敏自身が武道家であり、体育会系の人間関係についてはよく分かっているはずで、その作者がはっきりと言うのですからその意思は明確です。

 

また作者自身が、もともとストリートダンスなどについては不良のやるものという偏見があり、ストリートダンサーは不良とかに見られがちだが、本格的にダンスを学ぶというのは半端な覚悟でできることではない、とあとがきに書いておられます。

作中でも、島崎洋平に、ダンスの練習をする若者を見て「そこには、一種の禁欲的ですがすがしい雰囲気があった。」と言わせているのです。

 

今野敏という作家は『安積班シリーズ』の『イコン』でアイドルについてかなり深く論じ、『蓬莱』では日本国の成り立ちについても論じていることからも分かるように、ある分野に関心を持つとそのことについての自身の意見を深く反映させているように思えます。


そのことがまた物語を面白くしているのですから、作家さんの好奇心は様々な形で作品に反映されるものです。

そして本書ではストリートダンスについての作者の意見が反映されていて、そこに体育会系の縦社会の問題点や警察官の家族の問題などが同時に描かれているのです。

 

文庫本で500頁以上の長さを持つ、作者自身の力の入った少々長めの作品ですが、それだけの内容、そして面白さがあると言える作品だと思います。

 

追伸

前回本ブログでの投稿をアップして以来、丁度一月が経ってしまいました。

じつは、夫婦してコロナに罹ってしまい、ひたすら閉じこもり倦怠感に耐えていたのです。

私自身は高熱が出ることもなく、割と軽く済んだのですが、妻は処方された咳止めの薬が合わず、高熱と筋肉に力が入らずに立ち上がることもできず、私が補助しなければ寝返りも打てないでいたのです。

高熱などの原因が薬害にあると判明してからは、妻も数日で平熱に戻り、筋肉にも力が戻ってきました。

ただ、私は咳がなかなか収まらないでいたものの、お医者さんや私の周りの人に聞けばコロナ後に咳で悩まされる人が多いとのことでしたし、ひどい倦怠感が続いていたのですが、なんとかこうやって文章を書けるほどになっています。

ということで、再び本ブログをのんびりと開始したいと思いますので、これからもよろしくお願い致します。

[投稿日]2024年09月06日  [最終更新日]2024年9月6日

おすすめの小説

おすすめの警察小説

傍聞き ( 長岡 弘樹 )
長岡弘樹著の『傍聞き』は、四編の短編を収めた推理小説集です。どの物語もトリックのアイディアがユニークで、人物の心理をうまくついた仕掛けは、新鮮な驚きをもたらしてくれました。第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した作品でもあります。
教場 ( 長岡 弘樹 )
警察小説というには少々語弊があり、警察学校小説というべきなのかもしれませんが、ミステリー小説として、警察学校内部に対するトリビア的興味は勿論、貼られた伏線が回収されていく様も見事です。
尾根を渡る風 ( 笹本 稜平 )
『「山岳+警察」小説』というのが惹句にあった文句ですが、どちらかというと『春を背負って』に近い、ミステリーというよりは、人間ドラマメインの連作短編集です。自らの失態により、青梅警察署水根駐在所へと降格された元刑事の江波敦史の人情豊かな警察小説です。
機龍警察 ( 月村了衛 )
コミックやアニメでかなり人気を博した「機動警察パトレイバー」の小説版、と言ってもいいかもしれません。それほどに世界観が似た小説です。とはいえ、本書のアクション小説としての面白さはアニメ類似の作品として捉えていては大きな間違いを犯すことになるほどに重厚な世界観を持っています。
犯人に告ぐ ( 雫井 脩介 )
とある誘拐事件が発生し、県警本部長の曾根は、かつて起きた誘拐事件で誘拐された子供が殺されてしまうミスを犯した巻島史彦特別捜査官をテレビに出演させる手段を思いつき、巻島に命じるのだった。

関連リンク

ビート―警視庁強行犯係・樋口顕―(新潮文庫) - 読書メーター
今野敏さんの樋口顕シリーズの3作目。今回は銀行絡みの事件。最初は銀行の飛ばしの内偵捜査?舞台は捜査一課かと思いきや、しっかりその後で殺人事件に発展してくる。...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です