『二重標的 東京ベイエリア分署』とは
本書『二重標的 東京ベイエリア分署』は『安積班シリーズ』の第一弾で、大陸ノベルスから1988年10月に刊行されて、2021年12月にハルキ文庫から新装版として288頁で出版された、長編の警察小説です。
作者の今野敏が言っていた理想的な中間管理職としての警察官の姿を持った、大変な人気シリーズの第一弾として十分な面白さを持っている作品です。
『二重標的 東京ベイエリア分署』の簡単なあらすじ
東京湾臨海署(ベイエリア分署)の安積警部補のもとに、殺人事件の通報が入った。若者ばかりが集まるライブハウスで、30代のホステスが殺されたという。女はなぜ場違いと思える場所にいたのか?疑問を感じた安積は、事件を追ううちに同時刻に発生した別の事件との接点を発見。繋がりを見せた二つの殺人標的が、安積たちを執念の捜査へと駆り立てるー。ベイエリア分署シリーズ第一弾。(「BOOK」データベースより)
『二重標的 東京ベイエリア分署』の感想
本書『二重標的 東京ベイエリア分署』は『安積班シリーズ』の第一弾となる作品で、以降ベストセラーシリーズとなる本シリーズの魅力が十二分に感じられる作品です。
これまでの、一人の探偵役の刑事が推理を働かせて事件を解決するという警察小説ではなく、エド・マクベインの『87文書シリーズ』と同様の、警察チームが主役となる、人間としての警察官が描かれている警察小説です。
本シリーズの舞台の東京湾臨海署は、当初は東京湾岸の新副都心構想のもと設けられたという通称ベイエリア分署と呼ばれるほどに小さな警察署です。
しかし、バブル崩壊と共に湾岸構想が停滞し、新たに原宿に「神南署」が設定されて数作が書かれたものの、再び進み始めた湾岸開発と共に再度東京湾臨海署が復活し、新たなベイエリア分署を舞台に安積班の物語が始まることになります。
そこで本書ですが、神南署に移る前の新設の東京湾臨海署を舞台にした物語として本書『二重標的 東京ベイエリア分署』が始まります。
安積班の班員を挙げると安積剛志警部補のもと、村雨秋彦と須田三郎の両部長刑事、それに黒木和也巡査長、桜井太一郎巡査、大橋武夫巡査という安積班の六人が活躍します。
なお、この大橋武夫巡査は本書までの登場であり、次巻の『蓬莱』からは異動してしまい登場してきません。ただ、『最前線』で再度新たな大橋武夫巡査として登場します。
さらに、東京湾臨海署には他に本庁所属の交通機動隊の速水直樹小隊長や臨海署刑事捜査課鑑識係係長の石倉進巡査部長らがいて重要な役割を担っており、また刑事捜査課課長の町田警部といった面々がいてこのシリーズの厚みを増しています。
本書では、「エチュード」というライブハウスで一人の女性が殺されるという事件が発生します。ただ、その日の客層は半分以上が未成年であり、三十五歳という被害者は明らかに浮いた存在でした。
翌日、安積班に入った衣料メーカーからの窃盗の通報や晴海ふ頭での銃撃戦への応援依頼などをこなした後に、安積は桜井を連れて高輪署に設けられた前日の殺人事件の捜査本部へと駆けつけます。
ところが、安積はそこで居眠りをしてしまった桜井を怒鳴りつけた本庁捜査一課所属の刑事と対立してしまいます。
その上司がシリーズを通して安積のライバルとなる相楽啓警部補だったのです。
この相良警部補がシリーズに色を添えることとなる存在で、何かと安積に対し対抗心を燃やして作品を盛り上げることになります。
本書でも、ライブハウスの殺人事件に関して安積と対立し、物語を盛り上げてくれるのです。
一方安積警部補は、数年前に妻とは七年前に離婚していましたが、娘の涼子とだけは今でも連絡を取っていました。
中目黒にある自宅マンションに帰っても一人住まいのため、一人で酒を飲むしかない安積だったのです。
こうして、安積個人の家庭の問題や安積班個々の班員との関係性に悩みながらも日々巻き起こる事件に対処している安積剛志警部補の姿が描かれることになります。
そこにはまさに次巻の『硝子の殺人者 東京ベイエリア分署』の関口笵生氏による解説の中で作者の今野敏の言葉として紹介されているように、「理想的な中間管理職」の姿があります。
そしてその姿が多くの読者の支持を受けていて、以降2024年8月現在で第22巻の『夏空 東京湾臨海署安積班』が出版されるほどの人気シリーズとなっているのです。